視線の合ったその後は。
チチチと鳴く鳥の声で目が覚めて、自分がベットに寝ているのに気付いて昨日はあのまま寝てしまったのねと思い至って少し恥ずかしい。
昨日の夜は一階のソファーにいた筈だから、ならばイスール様が二階の私の寝室まで運んでくれたという事なのだろう。
朝の支度をしないとと泣き通しでやや腫れぼったい目を擦り、先ずは顔を洗おうとベットから降りるとゆっくり扉が開いて、両手に沢山の贈り物だろうか可愛らしく包まれた箱を持ったイスール様と目が合った。
二人の仲が急速に縮まったのは昨日の事。
家へ帰るため繋がれた手をそっと見ては涙が溢れてしまったけれど、そのたびにぎゅっと優しく握られたのでイスール様にはバレていたんだろう。家に着いてからも中々涙が止まらない私の隣に居て下さったのは益々涙が止まらない要因でもあったけれど。
居ても居なくともいい存在なんだと思っていた、寂しくて苦しかったとぽつりぽつりと話ながらも隣に座るイスール様に安心しているのか強い眠気がきて、閉じようとする瞼と泣きすぎてふわふわとしてきた思考となんとか戦っていたのだけど、結局そのまま寝てしまったのだろう。
昨日の事を思い出しながらもそのままイスール様を見ていれば、コロリと沢山抱えられていた箱が一つ落ちたので見つめ合ったままだった視線を外して、薄いピンク色のりぼんが巻かれたそれを拾った。
「あ、おはようございます……あの、イスール様これは?」
「…………君へ、と」
「え?」
「リルス、全部君への贈り物だ。その、毎年渡そうと、買ってはいたんだ……結婚記念日も君の誕生日も、結局うまく渡せずに今まで部屋に、置いていたんだ。今更だ………、今更だと分かっているんだ、それでも受け取ってくれるだろうか?」
少し肩を落としながら言うイスール様に驚いた。
抱えられた全てが私への贈り物だなんて、一瞬何がなんだか分からなくなってしまう。今更だとか、受け取ってもらえるかとか、そんな事。
だって、結婚記念日も私の誕生日も毎年その日だけは休みを取ってくれていたから、それだけで私は嬉しかったのだ。
例え、言葉などなくともその日だけは私と二人きりで過ごしてくれていたから。それすらも無くなってしまったならば、その時はと思っていた。
だから、どうしようもなく嬉しい。
「ありがとうございます。とても、とても嬉しいです、イスール様」
じわじわと胸に広がる嬉しさに、込み上がる涙が私の視界を歪ませる。
昨日だって散々泣いたのにまだまだ泣けるのだなと、次々と服に落ち始めた涙を手で拭っていればいつの間にか持っていた物を置いたらしいイスール様の大きな手が私の手を取った。
「あまり擦っては駄目だ、赤くなる」
「は、い。でも、止まらな、くてっ」
優しい手つきで拭われる自分の涙、それにまた込み上げて涙して、止めたいのに止められないのがもどかしい。
でも同時に夢なのかもしれない、なんて頭のどこかで思う自分もいて、イスール様の少し心配そうな顔も、私の目元を優しく拭うその手も全部全部夢じゃないって確信したくて、恥ずかしいとか、はしたないとかそんな事は飲み込んで、目の前の恋い焦がれた人の胸に飛び込んだ。
「夢、じゃないですよねっ夢なんかじゃ………私、イスール様の、隣に居てもっいいんですよね」
しかと抱き止められて、ああ、夢なんかじゃないとまた嬉しさが募る。
「……夢じゃない、もう駄目なんだ俺が、リルスが隣に居てくれなければ意味がないんだ。どうか俺の傍に……居てくれ」
撫でられた頭に涙に濡れた顔を上げれば、そっと唇を塞がれた。
短いですが、気持ちも全開にしちゃったイスール君はこれからリルスちゃんをベッタベタに甘やかす事でしょう。子供が生まれても優先順位は変わらないと思う………。
さらりと読んで頂けたら幸いです。