#09. 終始
心折設計、エコシステムです。
紫にけぶる檻の中、絶え間ない不快感と痛みにも慣れ始めたその時。
「失礼します」聞き覚えのある声は、どこか緊張している。入ってきた彼女は、手順通りに掃除と猫の世話を済ませ、こちらに近づいてきた。
「あとはこれだけ」そう言って、うっとりとこちらを眺めながら手をかざす。社長直々のたってのお願い、インテリアのお手入れだと、彼女は思っている。
「きれい···」自分を捕らえる檻は、窓からの陽光を微かに反射して、彼女の姿をはっきりと見せつける。
もっと声を、姿を。
その願いも虚しく、「業務完了♪」の一声を合図に全て遠ざかってしまった。
ぱたんとドアが閉じる。
途端に際立つ身体の感触に耐えかねて、ないはずの身体が崩折れる。
感情の落差が大きいほどに、高いエネルギー量になるのだと、それが彼女を内包するこの施設を維持するのだと、言われていなければ。
知らなければ、いっそ狂ってしまえたのに。
彼女への執着が、俺を捕らえるもう一つの檻。
☆
「失礼いたします。本日付で秘書を拝命いたしました。宜しくお願い致します」その声。苦痛をこらえて目をやれば、もはや懐かしくさえあるあの人がいた。ココの社員、だったのか。
ダメだ、ソイツから離れろ。
「それでこちらが例の」あの人が振り返る。紫の霞越しに、目があったような錯覚。え。こちらって。
「星渡りの追跡者ども」····今、なんて。
同時にこちらを見た社長が「そう。もうこちらのモノだよ」と振れば、「では、サプリメントのプロジェクトも本格始動ですね♪」と返すあの人。
そんな、最初から。
私たちを苛んでいる悍ましいプロジェクトについて、明るく打ち合わせる息もぴったりな二人の声に合わせて。
『そのとおり。なかなかの演出だったろう?』
檻に響く無情な宣言。
『この個も良い疑似餌だね。朝マズメの釣りも楽しかったよ』
あの人の姿は、あの日の空と同じ紫色に染まっていた。
自分が入り込む余地など、最初から1ミリもなかったのだ。
☆
猫。まだ名前もつけてなかった。
じゃらしても無視される時もあれば、向こうからすり寄ってくることもあった、気まぐれな猫。
ソイツが今、目の前で敬礼せんばかりに姿勢よく、社長とやらと対面している。
圧倒的な存在感。こんなはずじゃなかった。ヤツはオレたちと似たような存在だったと聞いている。
『残念、それは昔の話』聞かれてた!
『この星に来て、もうこっちの時間で億年単位だ。人間たちからも育ててもらえたしね』
全身を這い回る感触が理解を妨げるが、これだけは分かる。間違いなくオレたちより格上だ。
社長と猫が、同時にこちらを向いた。
猫の額、変わった模様と思っていたそこが、縦に割れ、金色の瞳がむき出しになった。
『全部、見てたよ』
なんてこった。ハナから全部お見通しってか。
押し寄せる無力感が、苦痛を倍増させた。
『キミは我慢強そうだからね、心の方から折らせてもらうよ。立ち直った頃に、また折ってあげる』
逃げられない檻の中で、身も心もズタズタ。屈伏したくなる。
☆
3つの水晶が。期せずして同時にカタリと音を立てる。
だが、あと2人。隣で耐えているやつらがいる。
負けるわけには、いかない。
メインジェネレーターの第1プラント、およびサブシステムの第2、第3プラント、順調に稼働しています。




