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世界を救うために100年眠っていた大聖女ですが、かつての想い人の子孫にガチ恋されました  作者: てるてる坊主


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目覚めたら謎の男が

石造りの街並みに、夕方の鐘の音が響いていた。市場の隅で、行商人たちが立ち話をしている。


「うちの国の王子様はいい年して縁談を全て拒否して」


「『眠れる大聖女様』のところに通い詰めてるんだとか」


「いつか起きると言われてるらしいけど、もう100年も眠っているのになぁ」


老婆が積み上げた野菜の籠を直しながら、呆れたように笑う。


この地方一帯に広がっていた瘴気を浄化した代償として眠りについた大聖女『アイリス』が、現在も王宮の奥深くにある聖堂に安置されている。それは、街の誰もが知っている伝説だった。しかし、それ以上のことを知っている人は数少ない。100年という時間は、一人の人間の生きた道を、漠然とした伝説に変えるには十分な時間だった。


*****


静かな聖堂の奥には、ひとつの棺が置かれている。ガラスの覆いに守られたその中で、アイリスは眠り続けていた。100年目覚めなくても体がぬくもりを保っているのは、非常に強力な聖女の力ゆえだと言われている。


やわらかな銀色の髪が、枕の上に広がっている。それだけで、眠る少女の姿にはどこか神秘的な気配が宿っていた。


けれど、顔立ちそのものは『伝説の大聖女』と聞いて想像するほど華やかなものではない。伏せたまつ毛の上にはわずかに下がった眉が影を落とし、丸みを帯びた頬には、どこか幼ささえ残っている。


飾り気のないその寝顔を見ていると、なぜか胸の奥があたたかくなるような、不思議なやわらかさがあった。


白い聖衣に包まれた体は小柄で、荒野を何日も歩き通して瘴気を浄化したという伝説を信じられない者もいるかもしれない。


そんな聖堂の静寂を破るのは、決まって同じ時刻に響く足音だった。


その日も、いつものように扉が開いた。


エヴァン——この国の王子である彼は、癖のある栗色の髪を持ち、整った顔立ちの中に、少し垂れた目元が柔らかな印象を添えていた。今日も機嫌のいい足取りで、鼻歌でも歌い出しそうな様子で棺に歩み寄る。毎日繰り返してきたことがよくわかる、慣れた仕草だった。


ガラスの覆いの上には、少ししなびた花が乗っている。彼はつい昨日自分で供えたこの花を手に取り、新しい花を供える。


「あぁ、今日もあなたは美しい」


囁くような声だった。


「僕は生まれたときから見ているのでわかりますよ。どんどん血色がよくなっている。そろそろお目覚めになるころではないですか」

「あなたが眠りについてからもう100年も経っているのですよ」


うっとりとした瞳で大聖女を見つめ、ガラスの上からキスをする。丁寧な、儀式のような手つきだった。


「また明日来ますね。僕の聖女様」


——ん?なにこの状況?


エヴァンの気配が去ってから、アイリスはそっと目を開いた。少し前から意識を取り戻していたが、最初は体がピクリとも動かなかった。その間に、唐突に始まった愛の告白を聞いてしまったというわけだ。


告白の最中にも動かそうと思えば体を動かせそうだった。だが、自分の目覚めを待っているらしい得体のしれない男の前で目を開けるのはあまりに危険に思えて、息を潜めていた。


男の気配がなくなったことを確認して、ガラスの覆いを中から押してみる。すると、意外にも簡単に開けることができた。


アイリスは体を起こして伸びをする。そして、誰に聞かせるでもなくつぶやいた。


「100年も寝ちゃってたってこと?」


棺から出て素足で室内を見て回ったが、誰もいないようだ。聖女を祀る聖堂のような造りだということはわかったが、壁には見覚えのない紋章が刻まれている。


アイリスは眠りにつく前の記憶をたどる。誰もが生まれたときに一つだけ授かる『スキル』。自分に与えられたのは浄化の力で、その力を使ったところまでは覚えている。だが、その後どうなったのか、なぜこうして丁重に祀られているのかは、はっきりとはわからない。


わからないことばかりだが、今はっきりしているのは、得体のしれない男が自分の目覚めを待ち構えていたという事実だけだ。悠長に事情を探っている暇はない。


「とりあえず、逃げよう」


アイリスは誰にも見つからないようにそっと出口の扉に向かった。


先ほどの男はまた明日来ると言っていた。男の言葉通り100年経っているならば生きているときに会ったことはないはずだ。なのにあれだけの執着を持つ男に捕まったら、何をされるかわからない。——見つからないように早く逃げなければ。


扉に手をかけたときだった。


「え」


驚いた顔のエヴァンが立っている。が、すぐに満面の笑みになる。


「ボタンを落としたことに気づいたので取りに戻ったのですが、まさか聖女様が起きていらっしゃるとは」


「僕のスキルは『幸運』なんですよ。文字通り、幸運な偶然でお会いできましたね」


——逃げ出そうとしたなんて、言えないよね……。


アイリスはそう思いながら、曖昧に笑ってみせた。長い眠りから覚めた後に最初に会うのが、愛の言葉を延々と注ぎ続けてきたらしい正体不明の男だなんて。

なろう異世界ファンタジーフェス! 2026用なので、10月13日までに完結予定です。


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