表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/74

未来の俺は笑っていた

「――俺だよ」

 

 その一言で、肺の空気が全部抜けた。

 

 喉が鳴る。

 声が出ない。

 

 目の前の空間が、ひび割れるみたいに歪む。

 

 「……ふざけんな」

 

 やっと出た言葉は、ひどく掠れていた。

 

 「未来の俺? そんなの……」

 

 あり得るわけがない。

 死者の声は、“死んだ探索者”のものだ。

 

 未来の俺がここにいるはずがない。

 

 「否定か。まあ普通はそうだよな」

 

 声は、笑っていた。

 乾いた笑い。

 

 聞き覚えがある。

 

 いや。

 

 “毎日聞いてる声”だ。

 

 「でもさ、お前もう分かってるだろ?」

 

 「このスキル、“普通じゃない”って」

 

 

 頭の奥が、じわじわと焼ける。

 

 思い出す。

 

 同時に複数の声。

 矛盾する情報。

 そして今。

 

 “存在しないはずの声”。

 

 「……黙れ」

 

 俺は壁に拳を叩きつけた。

 

 コメント:

 「何が起きてる?」

 「未来の俺って言った?」

 「は?????」

 「設定盛りすぎだろ」

 「でもこいつの反応ガチ」

 「これ台本じゃない」

 

 「お前らには関係ない」

 

 思わず配信に向かって吐き捨てる。

 

 コメント:

 「急にキレた」

 「図星?」

 「怖すぎ」

 「今の声マジで誰?」

 

 「……関係あるだろ」

 

 また、あの声。

 

 「全部見られてるんだからな」

 

 「お前がどれだけ“死者を使ってるか”も」

 

 

 ぞくり、と背筋が凍る。

 

 「……知ってるのか」

 

 「当然だろ」

 

 声が近づく。

 いや、近づいてくる感覚。

 

 「俺は“お前”なんだから」

 

 

 頭痛が強くなる。

 

 視界が揺れる。

 

 記憶が、混ざる。

 

 知らないはずの光景。

 見たことのない戦闘。

 

 血まみれの自分。

 

 「……っ!」

 

 膝をつく。

 

 コメント:

 「倒れた!?」

 「おい大丈夫か」

 「これやばいって」

 「救助呼べよ」

 「でも見たい」

 

 「……立て」

 

 声が命じる。

 

 「ここで止まったら、全部無駄だ」

 

 

 「……うるせぇ」

 

 俺は歯を食いしばる。

 

 「俺は……俺のやり方でやる」

 

 

 「そうか」

 

 声が、少しだけ嬉しそうに笑う。

 

 「じゃあ教えてやる」

 

 「この先、三十歩で罠」

 

 「その後、右の壁に“穴”がある」

 

 「でもな――」

 

 

 間が空く。

 

 

 「そこ、入ると“死ぬぞ”」

 

 

 「……は?」

 

 

 情報が、また矛盾する。

 

 進めと言いながら、死ぬと言う。

 

 「どうしろってんだよ」

 

 

 「選べよ」

 

 未来の俺は、あっさり言った。

 

 「いつもみたいに」

 

 

 「……」

 

 

 そうだ。

 

 俺はずっと、選んできた。

 

 死者の情報を取るか。

 疑うか。

 

 そして。

 

 “利用するか”。

 

 

 「……分かった」

 

 

 俺は立ち上がる。

 

 足が震えている。

 

 でも、止まらない。

 

 

 「三十歩、数える」

 

 

 一歩。

 二歩。

 

 呼吸が浅い。

 

 十歩。

 二十歩。

 

 心臓が跳ねる。

 

 二十九。

 三十。

 

 

 止まる。

 

 

 床を見る。

 

 何もない。

 

 だが。

 

 「……来るぞ」

 

 

 足を引いた瞬間。

 

 床が崩れた。

 

 「っ!」

 

 

 ギリギリで回避。

 

 その下には。

 

 鋭い杭。

 

 

 コメント:

 「うわあああ」

 「今の死んでた」

 「また当てた」

 「なんで分かるんだよ」

 「マジで怖い」

 

 

 「……次」

 

 

 右の壁。

 

 確かにある。

 

 小さな穴。

 

 

 「ここか」

 

 

 手を伸ばす。

 

 

 「やめとけ」

 

 

 未来の俺が言う。

 

 

 「そこは“餌”だ」

 

 「探索者を誘い込むための」

 

 

 「じゃあなんで教えた」

 

 

 「試した」

 

 

 即答だった。

 

 

 「お前が、どこまで“信じるか”」

 

 

 「……クソが」

 

 

 俺は手を引いた。

 

 

 その瞬間。

 

 

 穴の奥から。

 

 

 “手”が伸びてきた。

 

 

 「――っ!?」

 

 

 腐った手。

 

 何かを掴もうとする。

 

 

 すぐに距離を取る。

 

 

 コメント:

 「うわああああ」

 「なんだ今の」

 「ホラーすぎる」

 「完全に罠じゃん」

 「未来の俺ガチで当ててる」

 

 

 「……助かった」

 

 

 思わず呟く。

 

 

 「だろ?」

 

 

 未来の俺が笑う。

 

 

 「でもな」

 

 

 その声が、急に低くなる。

 

 

 「全部信じるなよ」

 

 

 「俺の言葉も」

 

 

 「……は?」

 

 

 「俺も嘘つくからな」

 

 

 

 空気が、凍る。

 

 

 コメント:

 「は?????」

 「自分で言うのかよ」

 「信用できねえ」

 「でも今助けたじゃん」

 「混乱する」

 

 

 「なんでだよ」

 

 

 「簡単だろ」

 

 

 未来の俺は、淡々と言った。

 

 

 「お前が“そうなる”からだ」

 

 

 「……」

 

 

 言葉が出ない。

 

 

 「お前はな」

 

 

 声が、すぐ近くで囁く。

 

 

 「最後には、“全部利用する”」

 

 

 「死者も」

 

 「仲間も」

 

 「――視聴者もな」

 

 

 「やめろ」

 

 

 即座に否定する。

 

 

 「俺はそこまで……」

 

 

 「行くよ」

 

 

 重ねられる声。

 

 

 「だって今もそうだろ?」

 

 

 「死者の声、使ってる」

 

 「危険も分かってる」

 

 「でもやめない」

 

 

 「……」

 

 

 否定できない。

 

 

 コメント:

 「正論で草」

 「いや笑えん」

 「これ倫理的にアウトだろ」

 「でも強い」

 「だから見てる」

 

 

 「ほらな」

 

 

 未来の俺が笑う。

 

 

 「お前はもう戻れない」

 

 

 「だから」

 

 

 声が、静かに言った。

 

 

 「――最後まで行け」

 

 

 「その代わり」

 

 

 「ちゃんと見ろ」

 

 

 「自分が何になるか」

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 視界が開ける。

 

 

 通路の先。

 

 巨大な扉。

 

 

 そして。

 

 

 その前に。

 

 

 “人影”が立っていた。

 

 

 ぼろぼろの装備。

 

 血に濡れた体。

 

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 

 

 その顔は。

 

 

 ――俺だった。

 

 

 コメント欄が、悲鳴で埋まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ