表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/74

それは“記憶”じゃない

 石が、脈打っていた。

 まるで心臓みたいに。

 俺の手の中で、ぬくりとした鼓動を刻む。

「――もっと、深くへ行こう」

 声が、頭の内側から響く。

 さっきより近い。いや、違う。

 “中にいる”。

「……気持ち悪いな」

 思わず吐き捨てる。

 だが、手は離さない。

 これが何か、理解できていない。

 だからこそ、価値がある。

 配信の視聴者数は、今まで見たことのない数字に跳ね上がっていた。

コメント:

「それ絶対やばいやつ!!」

「捨てろって!!」

「いや持って帰れ!!!」

「神回すぎるだろ」

「なんでそんなの触れるんだよ」

 俺は笑う。

「触れたからだろ」

 軽く言うが、内心は違う。

 確実に、何かがおかしい。

 【残留思念】とは、明らかに違う。

 死者の“断片”じゃない。

 これは、“継続している”。

 生きているように。

 俺は石をポーチに入れた。

 その瞬間。

「――暗いな」

 声が変わった。

 さっきの低い声じゃない。

 別の、かすれた声。

 まるで、別人。

「……おい」

 思わず立ち止まる。

 背筋に冷たいものが走る。

 コメント欄が一斉にざわつく。

コメント:

「今声変わったよな?」

「複数いる?」

「こいつ何持ってんだよ」

「マジでやばい配信になってきた」

 俺はゆっくりと息を吐いた。

 そして、床に手をつける。

「……確認する」

 【残留思念】を発動。

 視界が歪む。

 今いる場所の“最後の記憶”が流れ込んでくる。

 ――男がいる。

 震えながら、この部屋に入る。

 宝箱を見つける。

 開ける。

 中には石。

 安堵。

 その瞬間。

 “背後”から何かが来る。

 見えない。

 だが確実に“いる”。

 首を掴まれる。

 息ができない。

 そして――

『石を……捨てろ……!!』

 叫び。

 絶叫。

 そこで途切れる。

「……なるほどな」

 俺は目を開けた。

 汗が滲んでいる。

 コメント欄が爆発する。

コメント:

「何見た!?」

「また記憶読んだ?」

「なんでそんな落ち着いてんの?」

「お前ほんと人間か?」

 俺は肩をすくめる。

「別に。よくあるやつだ」

 嘘だ。

 “よくある”はずがない。

 さっきの記憶。

 あの探索者は、“石を開けて死んだ”。

 だが俺は、生きている。

 つまり。

「条件が違う……?」

 俺はポーチを見た。

 中の石が、微かに震えている。

 まるで、反応しているみたいに。

「――気づいたか」

 また声。

 今度は、はっきりとした言葉。

 俺は無意識に口元が歪む。

「お前、何者だ」

「――案内人だ」

 即答だった。

 迷いがない。

 その言葉に、コメント欄が一瞬静まり返る。

コメント:

「案内人?」

「何それ設定?」

「いや今の普通に会話してたぞ」

「アウトだろこれ」

「通報案件」

 俺は笑う。

「案内人、ね。便利そうだな」

「――代償は払え」

 低く、囁く。

 その瞬間、頭に鈍い痛みが走る。

「っ……!」

 一瞬だけ、視界がぶれる。

 知らない景色がフラッシュする。

 暗い通路。

 血まみれの手。

 叫び声。

 ……俺じゃない。

「……これ、他人の記憶か」

 理解する。

 石は、“流してくる”。

 断片的な記憶を。

 それも、死者の。

 【残留思念】とは違う。

 こっちは、制御不能だ。

 コメント欄が一気に荒れる。

コメント:

「今なんか様子おかしくなったぞ」

「顔やばい」

「目が死んでる」

「やっぱそれ呪いだって!!」

 俺は息を整える。

「……大丈夫だ」

 強引に言い聞かせる。

 だが、頭の奥で何かが蠢いている。

 さっき見た記憶が、残っている。

 消えない。

 まるで、自分のものみたいに。

「――次は右だ」

 声が言う。

 俺は無意識に足を動かした。

 そして、気づく。

「……今、俺……考えてないな」

 自分の意思じゃない。

 “誘導されている”。

 コメント欄が騒ぐ。

コメント:

「おい止まれ」

「言われた通り動いてるぞこいつ」

「完全に操られてるじゃん」

「いやでも正解引いてるの怖い」

 俺は足を止める。

 深呼吸。

 考えろ。

 これは使える。

 だが。

「……やりすぎると、終わるな」

 確信する。

 この石は、便利だ。

 ルートも、罠も、全部教えてくる。

 だが、その代わりに。

 “侵食される”。

 人格が混ざる。

 境界が曖昧になる。

 それでも。

「……使う」

 俺は笑った。

 コメント欄が爆発する。

コメント:

「やめろって!!」

「完全にイカれてる」

「でも見たい」

「フォローした」

「神配信すぎる」

 俺は進む。

 石の声に従って。

 そして、その先で――

 壁が、開いた。

「……隠し通路か」

 本来のルートじゃない。

 完全に“裏”。

 コメント欄が狂ったように流れる。

コメント:

「そんなのあるの!?」

「初見なんだけど」

「こいつマジで何者」

「怖すぎる」

 俺は笑った。

「だから言っただろ」

 だが、その瞬間。

 頭の中で、別の声が響く。

『違う……そっちは……』

 残留思念だ。

 必死な声。

『戻れ……そこは……』

 途切れる。

 そして。

「――進め」

 石の声が、上書きする。

 強制的に。

 俺の思考を。

「……どっちだよ」

 笑いながら、呟く。

 だが、足は止まらない。

 進む。

 進んでしまう。

 その先の闇が、口を開けて待っている。

 そして俺は、気づく。

 この選択は――

 “俺が選んでいない”。

 それでも、進んでいる。

 最後に、声が重なった。

「――やっと、深くに来たな」

 それは。

 俺の声と、完全に一致していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ