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神話の冒険者エリクディス  作者: さっと/sat_Buttoimars
第1部「戦乙女見習いスカーリーフ」

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19/31

19 帝国遺跡編3話:丸く収める

 肉屋に並んだ旧帝国、との歴史評もある領国制。その諸国家群南方にサルツァン宮中伯領があった。大陸西方現存最古。

 旧帝国時代から続く正統な七大旧家であり、七大世襲職の一つである国璽尚書を最終皇帝より、先祖より続いて直接拝命した現当主エバーガル七世が治める。

 国璽を管理する権限を持ち、かつては国政を司って皇帝に直接助言が出来た。今や主無く、皇帝も歴史上の存在となり他六家も滅亡。

 他六職の祠部尚書、近衛総監、侍従長、膳職長、献酌長、主馬長は正統性の無い武家共が好き勝手に名乗っていて憂いの声も長引いている。

 最後のお公家、最後の帝国本土、最後の純血種。

 エバーガル七世へエリクディスは直接謁見出来る身分ではない。貴人でも無く、放浪の外国人ならば尚のこと。通常は名代が間に入って恙なく応接するところだが事は神命である。特別な作法を用いた。

 謁見前には通例、断食三日で下賤の体臭を取り除いてから身を清め、専用の清潔な白装束と口覆いを付ける。名代との事前協議で断食の部分は省略。

 面会に使われた応接間は遮光で防音。カーテンの隙間から漏れる外の月光をわずかに天井に当て、その反射で照らす程度。

 目下として片膝突いてうつむく姿勢を取る、のだが事は神命である。エリクディスは立ったまま、手は下腹部前で組む。

 対するのは車椅子に腰を掛けた病的に蒼白な老人。ほぼ身じろぎせず、鮮烈に赤い目で射竦めるのみ。扉を開けた時、外の蝋燭の灯りで照らされた一瞬の姿である。

 彼は人型だが人間ではない。ドラゴンのように長命と言われるヴァンピール。感覚は鋭く、または度を越して繊細。五感は容易に不快を拾い上げてしまう。

「お初にお目にかかります閣下。依頼を請け負ったエリクディスです。これは遺跡の先行調査結果です。また丸く収める方法、当方が考案しました。そちらにも目通し頂きたい」

 通例は”閣下”が声を掛けてから返事だけをするものだが、神命によりエリクディスから声を、潜めて掛けた。

 次に長々と説明するのは名代との事前協議で憚られたので報告、提案書を、車椅子に座るお公家の傍に控える名代が預かる。

「エリクディス殿、下がって構いません」

「それでは失礼します」

 名代に促されてエリクディスは退室して客室へ移る。

 エバーガル七世ヴァンピール、声も出さず剥製のように動かなかった。横槍を入れて脅すのは下賤であるとしているのも旧帝国のお公家作法の一つである。

 やや時間を置いてから名代、混血種のダンピールが客室で待つエリクディスの元へ来た。

「お疲れさまでした」

「こちらこそ。作法は折衷になってしまいましたが、障り有りませんでしたか?」

「問題ありませんでした。決定事項は後でお伝えします」

「では街に出させて貰います。あの二人が心配でしてな」

「左様でございますか」

 宿は指定の部屋が取ってある。出入りに制限無し。


■■■


 宮中伯領と当主家名に使われる代名、その都サルツァンの街並みには歴史がある。

 水道関連設備や競技場のようなコンクリート製の大規模公共建築物がある。これは古い旧帝国時代から使われていて、これもまたドラゴンのような寿命。

 新しい建物は煉瓦造り、木造と様々。古代からある施設だが、建造物自体は何代目という物ばかり。寿命がある。

 あの遺跡都市、奇妙な点があるとエリクディスの頭の中を過る。答えはまだはっきりしない。

 時刻は夜を回ってしばらく。夜行のヴァンピール閣下に用事があるとすれば日が落ちてからが常識的。

 夜の灯りが路上を照らす表通り。ここは他の街より夜から動く人々が多い。

 昼市が閉まった後、夜市が開く。陳列される商品の質、お値段も対象違いで物が違う。

 働く人間のための街灯、手提げのランプが多いが、全て傘が付いて地面だけを照らすように工夫が入る。上と横に光を飛ばして貴人種族の暗視を遮る不敬をしない。当領内にのみ残る古の風習だ。

 エリクディスはそこそこの飲食店から出て来たダンピールの、一見して下士の男に声を掛けた。

「もし、この辺りでエルフとオークの奇妙な……」

「話しかける相手を間違っている」

 下士は目も合わせることもなく言葉を遮って去った。

「これは失敬。老いて目も頭も悪くなっておりまして、ご容赦くだされ」

 エリクディスはその背中に謝罪する。

 閣下のお客人として招かれた身では体験できなかった、サルツァンにおける身分差をある程度肌で感じた。あまり外部に出てこない種族の仕草に興味が有ったのだ。勝手に研究対象にされる方は迷惑。

 表より一本、裏通りに入った。小奇麗な装いは減って猥雑さが増す。暗視の上流階級が出入りするところではなく、夜間営業をしている店しか明りが灯っていない。

「やあ同胞」

 通行人の一人、つばが付いた三角帽子を被る女魔法使いにエリクディスは挙手挨拶。常人ではないとはいえ、一人歩きが出来る治安があるのは良い街である。

「はい同胞」

 女魔法使いは帽子のつばを掴んで返礼代わり。被り物を同じくする魔法使い組合仲間同士、顔は知らずとも気軽に挨拶するのは自然な行為である。

「この辺りでエルフとオークの組み合わせを見なかったかのう?」

「エルフはともかくオークぐらいの人型ならもう一本裏の安酒通りだね」

「ほう、そいつはどうも。時に、ここの組合会館には顔を出したかな?」

「着いた時に出したけど?」

「何やら事業があるという噂じゃ。近々話を聞いてみるといい」

「詳しく?」

 女魔法使いは親指で近くの、表看板を出して営業中と主張する酒場を指した。通例、これは仕事仲間を集めている口振りだ。

「ううん」

 エリクディスは咳払い。これ以上は沈黙。最終決定が出てもいない事業に部外者を誘って喧伝するなり、要らぬ騒ぎを起こすのは愚か者のすること。お公家も決して歓迎はしない。

「へえ、覚えとく」

 これで何かと器用な魔法使い達を事業に誘う下準備が進んだ。何かあると知ればこの都を去る足も止まり、逆に面倒事を避けたい者は早々に去る。事業に都合が良く、同胞に優しい。このように同胞間に流される噂を読み切れない未熟者には教訓があるかもしれない。

 もう一本更に裏の通り。臭いも酷くなってきており、暗視で鼻が敏感な貴人達は眉根をしかめて近寄りもしない、下層の溜まり場。他の都市に良くある汚い裏路地の姿である。

 通行人の二人組、武装する姿から酔っ払う傭兵にエリクディスは遠慮無く声を、強く掛けた。

「そこの若いの!」

「だーれっだおめぇ?」

 小声では無視されるか侮られるのだ。

「この辺にエルフとオークの二人を見んかったか? ほれ」

 エリクディス、手に小銭を乗せて出した。一人がそれを瞬時に取ろうとして、もう一人がその手を掴んで止める。

「おい魔法使いだぞ!」

「あ? ああ、ああ?」

 先人の魔法使い達が積んできた教訓としては、魔法も頭も使えてこそ。評判は色々ある。

「ただのお小遣いじゃい。二人のオークと、エルフは特に暴れん坊でのう、どっかで派手に喧嘩したり、何というか、耳千切ったとか腕もいだとか何とか、聞かんかったか」

「あー、あの、港下った交差点のデカい店、あそこで良く賭け拳闘やってんぜ」

「報酬じゃ」

 魔法使いを警戒する方が金を受け取って、エリクディスと目線を合わせて、詐欺じゃないよな? と無言で言う。エリクディスは頷いて去る。

 酔っ払いに言われた交差点の酒場に到着。出入りの戸を何枚も取り払うと一面開放になる造りで、そうなると人通りとやや混在する形になる。そして交差点、道路の一角というか大半までを立ち飲み客に占拠させる形で実質、店舗の間取りを拡張しているという、おそらく違法な営業をしている。

「ほらぁ! 拳で稼げないで何がオークだぁ! 行け!」

 拡張された店の領域、路上では拳闘試合が催されていた。観客が闘士を囲い、店が仕切る賭場で札と金が交換。武装する用心棒が他の酒場より三倍以上。

 チビが力自慢の人間の男を拳一発で倒すのが何度か続く。想像しやすい光景。

 次の相手は脚捌きが巧妙だった。チビが繰り出す拳は次々と空を切り、疲れてしまう。

 それから一計、チビは両腕を広げて足を止め、相手の攻撃を誘って待つ。だが脚捌き以上の技は通用しないと判断した相手側が距離を置いて止まる。両者、手出しが出来なくなる。派手な殴り合いが見たい観客は煽って汚い言葉を次々吐き出し、唾も吐いてゴミも投げる。

「チビこら! 追え、追え! 決闘の祝福かけっか? あぁ!?」

 長い手足を振り回して応援、煽るのはスカーリーフ。周囲の観客など知らんと振る舞った結果が足元に数人転がっていて、皆距離を取る。

 エリクディスがさてどうしようか、水を差すのは違うと思案していたところで展開が変わる。

「後がつかえとらい」

 脚捌きの良い者、背後から張り手の一発を肩に受けて横っ飛び、観衆の壁に突っ込んだ。賭けが狂って阿鼻叫喚。無効試合の返金はどうなんだと暴動寸前。

 かなり太い乱入者。年齢不詳な程に長い髭の顔。頭は大きいが背は比較して低い。首も腹も腕も指も太く、皮膚はあちこち黒ずみタコだらけ。まるで出来の悪い樽。一体骨格はどうなっているのか?

 チビはそんな相手を見て訝し気。見たことの無い種族だろう。

「チビ、そいつはドワーフだ! 見た目より体重が重い。力は勿論だが骨が頑丈だ! 鉄血の種族の名は伊達ではない。火葬すれば銑鉄が出る身体だぞ。素手で折れるもんではないぞ、侮るな!」

「何?」

「凄く頑丈!」

「分かった」

 情報量の選別を行いつつエリクディスが助言。

 乱入したドワーフ、頭の大きさから身長を見誤りそうになるが、同族の中では特に長身だろう。エリクディスよりやや背が高い程度というのは、その体格だけで名の有りそうなもの。最低でも田舎の勇士格。

「行け! 折れ! おら!」

 スカーリーフの野次はこれでも教育の一環、の心算。

 チビがドワーフに向かって拳を構える。

 ドワーフは丸い身体を更に丸めるように正面突進。撃ち下ろしのチビの拳を頭で受けて、突き上げの張り手一発で倒した。顎が上がり、膝から崩れて若者の顔が汚れた地面に突っ込む。

 若いとは言え、大柄なオーク。スカーリーフに蹴られ殴られ鍛えられてきたのにたったの一撃。

「スカちゃん、介抱してやっといてくれ」

「あー? あ、おっさんじゃん! ここで何してんの?」

「はいお小遣い」

「やった! 全部スったんだよね」

 エリクディスはスカーリーフに言うことを聞かせてから拳闘の鑑賞を続行。

 名の有りそうな放浪者連中が集まっていた。遺跡都市へ送り出す生贄、達人、職人。金に困っていそうな、借金で首が回らない、腕っぷしが立ち、命知らず、様々な顔の一例が覗ける。

 ドワーフはその後、全戦全勝。賭けの元締めも商売にならんと思ったところで彼を店に案内し、賛辞とタダ飯タダ酒を振る舞って副業再開の目途を立てた。人間女には興味が無いようで、一番の”樽女”でも断っていた。風俗的にも下手に触れれば骨が折れるような弱体はドワーフにとって良い女ではない。

 その後、ドワーフを称える者達が集まってあれこれ話を続けて、店終いの時間に至って解散。

 夜明けが近づく帰り道。安宿へ足を向けるドワーフの真横にエリクディスは並び、上等な酒瓶を吊り上げて見せる。あちらは髭に埋まった赤ら顔、こちらは何時も通り一滴も飲んでいない。

「あ? もうやらん」

「ウチのぼうやを張っ倒しておいて飲めんことは無いじゃろ」

「魔法使い……」


■■■


 用事もあって酒を口にしていないエリクディスは、ドワーフとの語らいも朝には相手の居眠りで終え、昼は良く寝て、次の夜を万全の体調で迎えた。

 唯一世界大陸の方々にて有名な月光商会の長と宮殿で会合することになっており、スカーリーフが何やらうだうだ金が無いと文句垂れるのも無視して登殿。

 今日は遮光もせず照明が立った応接間で一対一の話し合いが始まる。

 エリクディスの相手は男装の女性。混血のダンピールとのことだが純血種のように色が薄く、銀の髪も白い肌も高い空の月のように美しい。目も鮮烈に赤。閣下と会う時のような作法は求められなかったが、自主的にしてしまうような雰囲気があった。

 エリクディスはまず、その容貌や雰囲気に囚われぬよう、唯一愛しのあの人を思い出して打ち克つ。男女問わず、空気感だけで相手を魅了して従わせる型の人物を相手にする時の精神統一法、必勝法だ。

 混血種は長所が損なわれた分、短所が補われたという。その経緯も古い時間の流れでうやむやになっている。ゴーレムと同じく失われた技術とされる。本件と所縁が深そうな相手である。

「初めまして。閣下より請負い、また神命を受けたエリクディスです」

 二人は初対面だが、彼女の方がやや訝し気な表情を見せた。旧貴族にその後継者達は読まれるような表情をしないのが伝統だが、それを崩す程であったらしい。

「む? もしやお会いしたことありましたかな? 放浪を始める前は船であちこち行っておりまして、月光商会さんには色々お世話になったこともあります。あまり人の顔は忘れんのですが」

 貴女のような美しい方を忘れるはずがありません、とは一応思いついても言わない。滑るような舌ではない。

「いえ、古い知り合いのことでして、他人の空似です。年代が合いません」

「なるほど」

 ドラゴン程ではないがダンピールも長命。若く見えてご先祖のような年代ということも有り得る。

「さて、こちらも初めまして。月光商会の長をしておりますヴァシライエです。今はサルツァンの御用商人というところで、閣下に代わり実務を担当します。爵位持ちですが商人と思って遠慮無く願います。このように旧帝国作法も結構、現場仕事にあれは向きませんので。

 さて先日の件、報告書に提案書、拝読させて頂きました。概ねそちらの提案に沿わせて頂きます。

 エリクディス殿は調査隊の長、現場指揮官として現場で計画を立てて実行してください。必要な人や物、道や施設は可能な限り準備させて頂きますが、予算は勿論有限ですので常に、しつこいくらい相談して下さい。資金の出し入れ、時期柄がありますので。

 神命に関しては、知神から”博物誌の発掘に協力するように”とだけ、命じられているということでよろしいですね」

「その通りです。命は単純にそれだけ、一字一句その通りになります。もって回った解釈が分かれるような他の文言はありません」

「こちらからも神殿にはその事と、我々の計画を伝えましたが回答を待っている段階です。サルツァン在住の神官だけでは判断出来ぬということで、本殿にまで連絡が行っている状態です。奇跡の力で連絡は当日に行われているはずですが、難しい問題があるのでしょう」

「神官等もお仕えする神から俗人以上に試されておりますからな。神学神理、詰めておるのでしょう。腰が重いのも仕方がありません」

「たしかに。それで閣下も了承されておりますが、エリクディス殿の考えでは、発掘は主に雇い人達に命懸けでさせ、発掘品はこちらの商会で買い取り、代金でもって報酬とし、品は神殿に全て漏れなく奉納。その中から奉納不要と言われて返品された物だけこちらの取り分にするということで間違いありませんか?」

「はい。丸く収めるにはその仕組みが必要でしょう。まず先んじて奉納するのが結果安上がりというのが先人達の経験談ですな。後に神から、あれを奉納せよ、これは破壊せよ、と命令される場合、こちらの想定を越えることがままあります。

 例として破壊の場合、既に売り払った後でも回収しなければなりません。これは辛い。下手をして、一生を破壊対象の追跡に費やした物語もあるものです。欲を張らず、謙虚に事を進めればこそ御慈悲賜れるものです。

 本命は一世の記した博物誌原著の回収です。商業的な成功が目的ではないという論理上、神理としても代償を払ってでも得よ、とされるでしょう。ですから払います。

 雇い人達に払った金を飲食と宿に賭場で回収するのは神理に反しないので……それはそちらの専門で口を出すところではありませんな」

「それは勿論」

「さて諸々、神官等の回答次第でありますが、あちらもその点について深く考え、即答出来ないでいるのでしょう。ただ全財産を叩いてでも事業に邁進せよ、では破産の可能性もあり、結果何の成果も無く終わる可能性も、無期延期の可能性があります。我等俗人なら手痛さだけで終わりましょうが、神官達なら不徳を神から責められることあり、特に俗人以上にお怒りを買うこともあります。神殿もどうにか人と金を融通してくれるかもしれません。奉納品にまつわる返礼も期待出来ないことはありません。不義理は神理でも不徳ですからな。そこを踏まえると。やはり回答の遅れは当然のことになります。あちらにとっても大事業。検討を待ちましょう」

「神の慈悲を願うばかりですね」

「そうですな。まずあちら、神殿の回答を待つ前に出来ることを検討しませんと……そう、そういえば市井には既に腕の立つ者が集まっておるようですな。サルツァンは大きいので、普段からかもと思ったのですが、話を聞いた者が中々遠くから来ておりまして、気になったのです」

「ヴェスタアレンの一件以来、どこもきな臭いので、一先ず少数精鋭でも、囲えずとも直ぐに声が掛けられる程度に都に留め置いておきました。割高で護衛、手仕事があると集めておりました。それがまさか遺跡が出てきて、こんな事業に繋がるとは露とも思いませんでしたが」

「神の御導きのままなのでしょうな。それでですな、遺跡は二重構造の可能性があります。報告書には書いておりませんがそこはご容赦を。街を散策中に思い浮かんだばかりでして」

「根拠を具体的に教えてください」

「遺跡都市の見える部分の構造、主に整形した石で造られていました。帝国全盛の時代にでも見られる構造です。

 ゴーレムの性能ですが、帝国全盛の頃の物で、特別に良い性能に仕上げたと思われます。戦乙女見習いスカーリーフが試したところ、並の頑丈さではありませんでした。献上した精髄石からもその程度は窺い知れると思います。

 全盛の時代で大型建築の場合はコンクリート製が流行っておりました。それが、当時の事情は詳しく存じませんが、一等劣るような石組み構造のみが見られました。ちぐはぐではないかと思いました。

 そしてゴーレムは整形石の扱いに躊躇が無かったことから、もしかしたら時代を跨いであの遺跡都市に仕えて来た可能性があります。

 今見えている部分も我々から見れば随分と古い遺跡ですが、それよりも古い遺跡があった可能性です。どのように沈んでしまったかは定かではありませんが、此度のように神々の御力で現れるようなこともあれば、旧帝国の顛末のように消えることもあるでしょう。

 とりあえず、深く掘る準備も必要だと考える次第です。ですので地下室の土砂を退ける程度ではなく、本格的な坑道掘りの準備も必要と考えます。建物を崩落しやすい岩盤に見立てて掘るような準備、ですかな。本職に見て貰ってからですが。

 これは考え過ぎかもしれませんが、死神の御力によって地下水脈に大激動が起きた矢先で、かつてあった湖が消失したという現象に合わせて、涸れた地下水脈へ向かって遺跡の底が抜けて落ちたという可能性も、少々想像が飛躍しておりますが懸念しております。もしそうなったら素人と手道具では絶対足りません。坑道掘りの一団が要ります」

「それは丁度、鉱山夫を呼び込んだ直後で丁度良いこと。鉱山開発の予定が一つありまして、まだ始めてません」

「ほう、やはり」

「やはり? おや、街で既に目を付けておられましたか」

「御導きがあったようです」

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