036:違和感
冷えてもおいしいお茶に舌鼓を打ちながら待つことしばし――
ニニさんと、その夫メニラさんが到着したと、先ほどの従業員が知らせてくれた。
「お待たせしたみたいで、申し訳ありませんでした。私、この街の長をしていますメニラの妻、ニニと申します。」
朝の凛とした空気を思わせる女性ニニさんが丁寧に挨拶してくれた。その横にいる体格のいい男性がメニラさんだろう。
「突然の訪問にもかかわらず、ありがとうございました。ルシアス=プリモール第一子エンリルと申します。爵位を継いだわけではありませんので、気楽に接していただけると助かります。それから、これは、モルデラのドロテアさんからの手紙になります。二人のよろしくとピンキーさんも言ってました。」
ニニさんは表情こそ変わらなかったが、雰囲気が柔らかくなった気がする。
「すまねぇな、決して機嫌が悪いわけじゃないんだ。ちょっと分かりづらいかもしれないが、すごく喜んでるから、勘弁してやってくれ。な?」
メニラさんが俺に向かってフォローを入れた。俺は分かっていると頷きながら笑うと、突然メニラさんが〝あッ痛ッ‼〟と言ったので、どうやらテールの下で足を思い切り踏まれたらしい。
ニニさんを見てみると、顔色は変わらないのだが、きっちり結んで出ている耳が少し赤い――。
いい夫婦だなと思いながら、本題に入る。
「ウルと言う人物を探しています。俺が最後に会ったのは13年前ですが、確かに存在していたはずなんです。それなのに、誰も知らないと言う……。お願いです。何か彼について知りませんか?」
「すまん、全く覚えがない。」
「申し訳ありません。私も心当たりがありません…。」
また空振りだった。でも、どこかにヒントはあるはずだと俺は二人に時間をもらっていろいろ尋ねることにした。
「もともとお二人はこの地方出身だったんですか?」
「俺は、産まれも育ちもこの町… むかしのハティアの町だったが、ニニは王都出身だ。」
「どういったご縁でこの街に?」
「当時はモリーア山が移動して、噴火するかもしれない、そう思われていた時期でした。実は、私の父は研究者でして、生前この土地で長い事、研究に励んでおりましたが、志半ばでこの世を去りました。父の跡を継ぎ、この地に来ようと決意し、準備を進めていた時に、ご縁がありまして、町の復興のお手伝いから、今では街長の妻をしております。」
「そのご縁とはどういったものだったのですか?」
「たまたま王都で、この地方生息のユリカの木の話をしている方に声をかけまして、その方がメニラさんの旧友だったのです。」
「その方は一人だったんですか?」
「あら? すみません、何分昔の記憶なので、はっきりと覚えてないみたいです。」
またちょっとした違和感…。
「そのメニラさんの旧友の方は、近くにいらっしゃるんですか?」
「あぁ、この街のちょっと外れにある工場にいるぞ。なんと驚け!その旧友が今話題の人工ダイヤを作った張本人だ。それに、さっき隣で会ったマオの兄貴でもある。」
メニラさんがドヤ顔で教えてくれた。これは、絶対に会わなければならない人物だと思い、俺は二人にお願いして、連絡を取ってもらう事にした。
昼過ぎに工場へ来るように、との返事があったので、住所をもらってお暇させてもらう事となった。
「朝早くから、ありがとうございました。」
「わざわざ来てもらったのに、役に立てなくて悪かったな――。」
「いえ、ですが、もし誰か知っている人がいましたら、領主館まで知らせを出して頂けると、助かります。」
「それくらいは、お任せください。」
きっちりタイプのニニさんと、おおざっぱなメニラさん、お似合いの夫婦だな~と思いながら、奥まった場所から表通りに出てきた。
相変わらず外は賑わっていたが、先ほどより日が高くなってきて歩くと少し汗が出てくる。
その時、近くにあったユリカの木から、モクモクと煙のように水蒸気が登りだした。すると先ほどより体感温度が少し涼しくなった気がした……。
横を見ると、均一に並んでいたユリカの木が一本ずつ霧に包まれていく。その姿は生き物のようで、見慣れている現地の人間と、観光客が一目でわかるほどだ。
子ども達は大はしゃぎで、観光客も目をキラキラさせていた。現地の住民はその人たちを見て、微笑んでいる。素敵な光景が広がっていた。
この景色のためにがんばったのではないか――、それなら自分の目でしっかり見るべきだと、今はここにいない人物を思い浮かべながらのんびり歩いた。
その工場は街の外れに存在していた。温泉もここから供給されているらしい。思った以上に大きな建物に感心していると、後ろから声をかけられた。
「お久しぶりです。エンリル様。」
振り向くと、褐色の肌、灰色の髪をゆるく結びサイドに流している。配色は同じだが、マオさんより背も幅もある人だった。
「あなた様は覚えてらっしゃらないかもしれませんが、子どもの頃にお会いしたことがございます。どうぞシンとお呼びください。」
そういってシンは、建物の中に案内してくれた。




