018:雨期について
またなんかシンが、ぶつぶつと,思わせぶりはかわいそうだの、天然かよ… などなど言っているが、ドロテアの為にも私は急がないといけないのだ‼ と使命感に燃えていたら出来上がりました。
「おまたせ。今こっちに移すから、ゆっくり魔力の流れを自分に戻す感じで、そうそう。」
この調子で操作を覚えてもらえれば、後々、指導しやすいから今のうちに練習っしてもらおう。一石二鳥だね。ついでにシンにも、その内やってもらおう。
水袋に移した水を少量コップにつぎながら、
「ドロテア、この水に鑑定かけてみてよ。ほら、いつも野草にしているみたいに! それから、さっきの魔力操作の時を思い出して、目に魔力を持って行って、水の中に何が入っているのか。飲めるのもなのか。水以外にも何か入っているのか観察してみて。」
真剣に水を見ながら、試行錯誤しているドロテア。かわいい、眉間にしわを寄せながら、もにょもにょ…
「みッ、みッ、見えました‼ 」
「なんて出たの?」
「のっ、飲み水、+MPの効果により回復【微】… っです。」
そうだよ。マジックポイント、魔力だからMPじゃん‼ 私も急いで鑑定すると、【?】がMPに変わっていた。
「ドロテア、ありがとう。」
嬉しさのあまり抱き着くと、悲鳴を上げられ、シンには羽交い絞めで引きはがされた。そうだよ、私今 男の子だった。忘れてた。てへぺろ
気を取り直して、今日の食事担当は山じぃと、ドロテアだったので、メニラさんに護衛を頼み、私とシンは散策に出かけた。日暮れまでそんなに時間がないので、1時間しかない急がねば。
最近、鑑定の制度を上げる試みをしている。同じ種類のものに反応しないように調節している。これをする前は、群生地に行ったとき、全面がミントの文字で埋め尽くされて、一歩も動けなかった。
向こうの世界でも類似している草花を見かけたり、全く知らない物もあったり有意義な時間を過ごした。
遠目に真っ白な百合に似た花の群生があったのを見たときは圧巻だった。
少し遠すぎたため、鑑定が掛からず何の花かわからなかったのだが、シンが帰るというので泣く泣く諦めた。明日絶対そばで見てやると決意を胸に帰った。
次の日、出発してから1時間歩かないうちに昨日の花の群生を、昨日とは違う場所で見つけた。あれ?でも昨日この辺見たけど、群生無かったよ? そんなことを思っていると、
「安ら花だね。昨日はなかったから、夜のうちに移動したんだろうね。この花はね、栄養が不足してくると、すごくいい匂いを発するんだ。その匂いに誘われて動物がそばに寄ってくる。群生の中に入ると花粉が舞う。その花粉に睡眠作用があってね。倒れた動物に根を絡めて栄養にしてしまうんだよ。時折、その事を知らない人間も犠牲になるから不用意に近づいちゃいけないよ。」
絶対、近づく前に鑑定かけよう。
山じぃによると、今モリーア山からモナリ山に入るところらしい。一面、緑と山で素人の私にはさっぱりわからない。自生している野草の種類や、木の種類が違うらしい。確かに時折コヤンを見かける。
その他にも、イノシシに似ていたり、リスに似ていたりと多くを見かけるが、総じて弱っている個体らしい。皆どこかを目指している感じだ。これを突き止めればヒントが得られる気がする。
「ここから先は何があるの?」
「うん? 特に珍しいものはないはずじゃがな~。もうすぐ雨期に入るでな。ユリカの木が活発なぐらいかね。」
雨期? ユリカの木?
「ユリカの木と雨期に何の関係があるの?」
「知らんのか? ユリカの木は葉っぱから水蒸気を出すんじゃよ。それが1,2本ではないからね。大体この時期になると、ユリカの水蒸気が上空に溜まって雨期に入る。」
「山じぃ、雨期に入るまであとどのくらいかわかる?」
「多く見積もっても、2か月もないじゃろうね。」
今まで一直線に並んでいた山の、真ん中にあるモリーア山が数百年ぶりに、町から見て右に移動したらしい。そして、今まではモリーア山とモナリ山の間で雨期が発生していたのが、今年は山の移動により、町に近いイメロデ山にも雨期の影響があるかもしれない。
あそこは、鉱山がある関係で森林は伐採されており、どちらかと言えば乾燥地帯。そんなところに大雨が降ったら…。
沈黙した私に皆が注目している。切羽詰まった時ほど笑顔を忘れずに‼
「シン、あるじ様に緊急伝令。ここから飛ばせる?」
「問題ない。」
「調査はこのまま続行する。」
「伝令の内容は?」
「石の種を大量に用意して欲しい事と、避難民の受け入れの準備だけよろしく、話し合いは6日後。」
不安そうに見ているドロテアに、
「あくまで可能性だから。でも、備えて置くことに、こした事はないからね。さぁ、まだ旅は終わってないよ。私はよくばりだから、問題は全部解決するよ。」
伝令を飛ばした後に、またモナリ山に登り始めた。伝令用の魔法人形はタカだった。本当に生きているように動くから感動。きりっとした瞳がきれいだった。
そして、スピードを重視するため軽量で風の魔法陣が胸元に刻まれていた。肩にとまらせても重くなくて見た目がかっこいい。
ヒマが出来たら、自分専用のペットを作ってもいいかも。そんな案を巡らせながら登り続けて、休憩をはさみながら4時間後ついに頂上に到達した。無渡す限り雄大な自然に囲まれて、吸い込む空気がおいしい。
しばらくここを拠点に調査することに決め、お昼を食べた後調査を開始することにした。
「もう足が棒だよ~。」
「鍛え方が足りんな。ボン!」
脳筋親方、メラにさんはまだまだ体力があまってそう…。
この世界の住人は、みんな体格が大きいので、大きめのシートを敷いてみたのだが、メラにさんとシンが使わなかったので、体をゴロンと寝そべらせてぼんやりとしていると、私たちの居るところから、100mほど先の木の上に何かが登っている。
両目に魔力をまとわせ、遠見の魔法をかける。すると木の上に登っていたのは、コヤン。ふらつく体を何とか支えながら、それなりの高さのある所まで登っている。
何をするのか観察していると、手ごろな場所で登るのを止め何かを待っているみたいだ…。
しばらくすると、コヤンが登った木が少しずつ霧に覆われ始めた。葉の一枚一枚から蒸気が立ち上っているみたいで、あっという間にクリスマスツリーの綿だけ敷き詰められたみたいなのが出来上がった。もちろんコヤンもあの中に入っている。
15分ほどたったころだろうか?雲の様に霧だけが上空に昇りだした。中からはもちろんコヤンが出てきた。先ほどより元気そうに見える。木の枝を伝い下に降りる。その姿を追いかけるが、木の枝が邪魔でよく見えない。
何とか目を凝らして見ていると、地面に降りたコヤンが激しく咳き込みだしていた。首を下向きに激しく咳き込んでいる様子を固唾をのんで見守っていると、何かを吐き出した。そのあとはケロリとして森の奥に帰っていった…。
「行ってくる‼ 」
突然走り出した私に、みんなが目を丸くするがお構いなしだ。〝早くしないと、〟この気持ちに突き動かされ、先ほどの疲れなど吹き飛んだ。