017:調査開始
「空飛ぶ絨毯とか作っとけばよかった……。」
「寝ぼけてんのか? 絨毯が空なんか飛ぶわけないだろ?」
なるほど、ボケてるわけではないけれど、突っ込みがしっくりこないとこんな事になるのか~。
私の常識通じる人、一人でいいから来て欲しい。
本日、出発してから3日目になります。初日は、まずモリーア山を目指すことになり、馬車の通れるギリギリまで進んだ。メンバーは、わたし、山じぃ、シン、メニラさん。そしてドロテアもついて来ることとなった。お母さんのことはロロ先生にお願いしたらしい。
馬車の通る道は、少し迂回路になるらしく予定より時間が掛かっている。山じぃの場合、直線で行くから早いみたい。よい子はマネしないように‼ と釘を刺された。山を知っている人間だからできる芸当らしい。
二日目から実際、山に登りだしてみた。初めはウキウキして軽快に登っていたのだが、2時間後にはゾンビが出来上がっていた。それもなぜか私だけ……。
「なんでッ、みんなは、、そんなに、はぁ~、元気なの――?」
「鍛え方が違うからな~。」
「えっと、あッ、あの町、 さッ坂道が、多いから…、かなっ?」
「ワシにとっては、庭じゃからね~。」
「半年俺のところで働けば、ムキムキの男にしてやるぞ。」
シン、ドロテア、山じぃ、メニラさんたちはまだまだ余裕みたいだ。休憩時間を利用してクツに軽量化の魔法陣を刻もうとしたら山じぃに止められた。
「平地では構わないかもしれないが、山はどんなことが起こるかわからない。いざ逃げなければならない時などに余力が残っていないのが一番怖いんじゃ。だから、純粋な自分の体力で行く方がいい。無理はしない。自分自身としっかり対話して自分の限界を自分で見極めて、意地を張ったりせずに認める。ありのままの自分を受け入れる。これが山で生き残っていくための極意じゃよ。」
「忠告を無視したらどうなるの?」
「そんな輩は気が付くと、み~んな居なくなっとるよ。み~んなな?」
全身に鳥肌が走った。ちゃんとプロの言う事は、聞いておかないとヤバいと思いました。
私の顔が青ざめていたのか、山じぃとシンが笑っていた。山じぃは、孫を見るような感じだったが、シンの笑い方には腹が立ったので、弁慶の泣き所を蹴っておいた。
「ボン、心配せんでも山じぃの忠告聞かんヤツは、この辺にはおらん。よっぽどの馬鹿か、よそ者だな。」
メニラさんが私の頭をなでながら説明してくれた。ちょうどいい高さなのか、みんななぜか私の頭を良くなでる。
「さて、そろそろ今日の拠点になるところを、見つけて野営の準備でもしようかね。」
木々のすき間から差し込む太陽の光が、まだ十分明るいのにもう準備するの? と顔に現れていたのだろう。
「山は日が暮れるのが早い。暮れかけから準備を始めたら、あっという間に辺りは真っ暗だ。そんな中、下を向きながら枝葉なんかを拾いに行ったら、あっという間に遭難だ。夜行性の野生動物も危険だぞ~。山に慣れている人間ほど、無茶はしない。素人を同行させているのなら、なおさらだ。」
「なんか、シンがかっこよく見えっちゃった。なんか癪だな~」
アヒル口をしながらそういう私の口をつまみながら、
「そこは素直に褒めろ。」
こんな私たちのやり取りを、みんなが笑いながら見ていた。よかった、ドロテアも緊張がほぐれているみたいだ。初日ガチガチで、どうなる事かと思ったけどよかったよかった。
少し開けた場所を見つけたので、今日はここを拠点にすると決め、それぞれ役割分担で動くことになった。私はシンと薪拾い。お互いの姿の言える範囲で動くことを基準にもくもくと薪を拾った。
初日と2日目にも私は薪拾いだったのだが、珍しいものを見つけると、ふらふらと追いかけたり、夢中で離れていることに気づかなかったりと大変なことになったので、シンからの提案でバディを組んだ人間とロープで繋がれるのがいいか、薪拾い終了後、散策の時間を設けるか選べと言われた。
もちろん後者です。メニラさんやシンが、私につながっているロープを握っている絵面を想像しただけでアウトだ‼
なので私は今、散策の時間をより多く確保するために、黙々と拾っている。あれ?でも、薪って乾燥していればいいんだよね?こんだけ木が生えてるんだから、拾わなくてもよくない?
「シン~、ここのこの木、倒せる~?」
「倒せるけど、何するつもりだ?」
「めんどくさいから、薪作る。」
そういった私に、渋々付き合ってくれるシンはいい男だね。指定した場所にちゃんと木を倒してもらって余計な枝葉を風のカッターですべて落とす。そのあと、薪の大きさにカットして積み上げる。
「生木だから、燃えないぞ。どうすんだ?」
「水分抜けばいいじゃん。」
ええと、まずは私の魔力で薪全体を包みこみ、鑑定をしてみよう。
名称:【ズラの木】
成分:【繊維+水分+ミクロフィブリル+?】
効果:【特になし】
ココから水分を抜いてみると……。見る間に乾燥したのと、その横に水の玉が出現した。水の玉に今度は鑑定を当ててみる。
名称:【水 飲料水】
成分:【水+糖類+?】
効果:【回復 微 】
ミクロフィブリルが多糖類だったから水分の方に移動したのかな? 【?】もこっちに移ってる。回復 微ってどのくらいだろう?飲料水の表示があるから後でみんなで飲んでみよう。
「シン、この水入れるものなんかある?」
「…… 規格外。もう俺は何も考えないことにした。」
「ぶつぶつ言ってないで、早くしてよ。薪は亜空間に収納すれば問題ないでしょう?今度からこの方法で薪は確保しよう。」
拠点に戻るとドロテアが薬草と野草の振り分けをしていた。水は結局入れ物がなかったので、球体にしたまま宙に浮かせて持ち歩いている。ちょうどバスケットボール位だ。
「ドロテア、空いている水袋とか無かった?」
「こッ、こッ、これで、ぃぃですか…?」
「ありがとう。これ何も弄ってない水袋? そう‼ それなら空間操作の陣を刻んでもいいかな?」
「どッ、どッ、どうぞ。」
「なら、申し訳ないんだけど、この水、球体維持しながらドロテア、持っててもらっていい?」
「むッ、むッ、むっ、無理です‼ 」
全身で否定して、後ろに下がるドロテアを、私は水を前に出しながら追いかける。
「ちゃんと教えるし、失敗してもまた取ってくればいいから、大丈夫だよ。」
あまりのゴリ押しに観念したのか、おずおずとこちらに近づいてきた。
「ドロテア、そこの切り株に座って。」
座ったドロテアの右後ろから、肩の上を通って私の手を前に出した。体格が近いので、距離も近いのだがそこは我慢してもらおう。
「ドロテアの左手を球体に添えてもらっていい?」
距離が近いので、耳元でうるさいと思い小さな声で説明する。
「ドロテア、いい?まずは、体の中を流れている魔力を感じる。左の手から始まって、左肩、頭、右肩、右足、左足、それらを巡って左手に戻ってきている。それが意識出来たら、左手の平に小さな穴が開いていて、この水の球体も包み込んで、また自分の体に魔力が戻ってきていることをイメージしてみる。ゆっくりでいいよ。ドロテアならできる。」
暑かったのか、赤くなっていたドロテアがゆっくり呼吸を繰り返して集中しだした。魔力の流れを追えるように瞳に鑑定をかけっぱなしにして見ていると、初めは、とぎれとぎれに流れていた魔力が、きれいに水を覆うほどになった。
「それじゃ、私は離すから、この状態を維持してね。肩の力は抜いて、呼吸に意識を向けて。大丈夫出来てるよ。」
私は、コントロールをドロテアに任せると、すぐに作業に取り掛かった。うしろで何か騒がしいが、まぁ、あとはよろしくね。




