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015:新しい住まい

「父様、おはようございます。いい朝ですね。今日の予定をお聞きしてもいいですか?」


昨日は、父様との約束通りに帰っては来たのだが、起きることができず、父様と顔を合わせることが出来たのは朝食の時間になってしまった。



「ウル、おはよう。報告は受けているけど、お前から直接聞きたい。そうだね、昼食に長めの休憩を取ろう。その時でいいかい?」


「もちろん、私は時間があるので父様にあわせるよ。」



「では、それまでに多くの時間がとれるようがんばらないとね。」



茶目っ気ったっぷりにウィンクをして、父様が食堂を出ていった。



父様と入れ替わりで食堂に入ってきたのは、ルシアス、その妻のメリア、そして長男エンリル、次男ダルアだった。ちなみに今メリアのお腹の中には第三子ご懐妊中だ。次は女の子だといいね。


何とルシアス、18歳で第一子を設けていた。貴族にとっては割と普通らしい。

入室の時に元気に挨拶をして入ってくる、エンリルとダルア。かわいい



「ウル、おはようございます。」

「ウー、・・・ます。」



「おはよう、エンリル、ダルア。おはようルシアス、メリア様。つわりは良くなった?」



「おはよう。視察は無事終わったようだな。」

「おはようございます。今朝は調子がいいんですよ。」



やっぱり挨拶が交わせる仲っていいよね。


「メリア様、無理はしないようにね。それがね聞いてよ。視察に行ったら、またさらなる問題が出てきちゃってね。私、しばらくあの町に住もうかと思っているんだけど、父様許してくれると思う?」



ここで一番、父様と付き合いが長いのがルシアスなので、何かアドバイスでもあればと思って、話を振ってみたのだが、しばし固まっていた。



隣ではコロコロとメリア様が笑いながら、


「ウル、そんなことおっしゃいましたら、お義父様が悲しんで、自分も付いて行くと言いかねませんよ。」


「そんなこと言っても、このままじゃらちが明かないし、あっちにいて問題を解決した方が絶対に帰ってくるの早いと思う。」


「それでしたら、こちらの案でまずお話しを出して、次にこのような形で持って行けばうまく行くと思いますわ。その前に、バスターに根回しをしておいた方が、事がスムーズに運ぶと思いますわ。」



なるほど。採用‼ 隣で聞いていたはずのルシアスは、黙々と食事をとっていた。日ごろから、手の平で踊らされてる感が、にじみ出ている。



でも実は、ルシアスがほれ込んで猛アタックの末、結婚したらしい。プリモールの血脈は、この人と決めたら執着がすごいらしい。



どう決着をつけようかと悩んでいたことがひと段落付いたので、鉱山で取ってきた水の研究にでも着手しようかと思ったら、ルシアス家長男エンリルが遊んで欲しいとそばに寄ってきた。



「ウル、あそぼ。」



プラチナブロンドの髪の毛に父様譲りのエメラルドの瞳。天使だー。抱き上げてみると、思いのほかずっしり重い。こちらを見ているクリクリのお目目がかわいくて、思わずほほを寄せる。



そうすると、今度は足元にもう一つの影。ダルアだ。



「にぃにばっかりズルい。ぼくもだっこ。」




そう言って手を伸ばすが、残念ながら私にそれだけの腕力が備わっていない…。困っていると、エンリルが降りてダルアに譲っていた。尊い。かわいい。天使――。



途中、バスターとロベルトを通して打ち合わせをしたり、また子供たちと遊んだり。そんなことを繰り返していたら、あっという間にお昼の時間になってしまった。エンリルはお昼からちょっとした勉強。ダルアはお昼寝の時間らしい。二人と別れて、父様と約束しているテラスへと足を運んだ。



「父様、お待たせしました。」


「私も今来たところだよ。」



ゆったりとした流れで食事がスタートし、初日から最終日までの流れ、出会った人のこと、ただ知っているだけなのと体感することが、いかに違うかと言うことを話して聞かせた。父様は、終始楽しそうに相槌だけを打ちながら話を聞いてくれた。




食後のお茶を飲みながら、いよいよ本題へと話を進めていった。



「父様、ちょっとご相談なのですが、私今回の件でやはり拠点をあの町に移そうと考えています。父様の心配もわかりますが、世間からしたら、私は領地再生のために雇われている人間です。城にずっといて成果が出ないと立つ瀬がありません。御再考よろしくお願いします。」



しばしの沈黙の後、父様はふぅとため息のような息を吐き出し一言。



「行っておいで。」


バッと顔を上げると、ばつの悪そうな顔の父様と目が合った。


「バスターにも、ロベルトにも、ルシアスにも怒られたよ。エンリルに言われた時は(こた)えたな~。ただし、定時連絡は必ずする事。同行者としてシンを連れて行くこと。」



「わかりました。待っててください、あの町を必ず再生してみせますから。」



かつてないほど、燃えている私を見ていた父様とバスターは、顔を見合わせ笑っていたが、最後に無理だけはしないことを約束し昼食会はお開きとなった。



それから、町での拠点などの手配をしてもらうために数日を城で過ごし、本日いよいよ出発の日だ。



「では、行ってきます。」



見送りに来ていた父様、ルシアス、ロベルト、バスターに見送られながら馬車に乗り込むところだったのだが、城の方から誰かが走ってくるのを目の端に捕らえた。



「ウル~、はぁ、はぁ、ウルゥ~、まって―― ぜぇ、ぜぇ…… 」



エンリルが一生懸命こちらに向かって走ってきていた。荷物を放り出し私もエンリルに向かって走った。

その小さな体を抱き留めながら、額の汗を袖口で拭った。どこかで一度転んだのだろう、ところどころ擦り傷が付いていた。



「どうしたの?」



「うッ、ウル、なんで、なにもいわないで、いなくなるの…? ボク、あしただとおもってたから、いそいで、はしってきたんだよ。」



そう言うと、普段はお兄ちゃんだから、めったに泣かないエンリルがその大きな目に涙をためて、ぼろぼろ泣き始めた。私がひざ乗せながらオロオロしていると、ルシアスがエンリルを抱き上げ、



「エン、心配しなくてもまたすぐに会える。今度はこちらから遊びに行けばいい。だから泣かなくて大丈夫だ。」



父親の腕の中で説明を聞いて、こちらに向かってホント? みたいな顔を向けてくるエンリル。



「そうだよ。馬車ですぐだから、落ち着いたら遊びに来ればいいよエンリル。だから泣かないで。」



ちゃんと説明すると納得してくれたのか、まつ毛についていた涙を袖口でグイっとぬぐい、笑顔を見せてくれた。



さぁ、気を取り直して、シンと一緒に馬車に乗り込み今度こそ出発だ。



「定時連絡を忘れないように、シン頼んだぞ。」



「承りました。行ってまいります。」



こうして私は無事ハティアの町へ旅立った。揺れる馬車の中、エンリルたちの事を考えていた。あの子たちには、私とプリモール家の事は何も教えていない。



純粋に慕ってくれているのは、すごくうれしい。あの子たちの将来のために、領地再生がんばろう。

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