014:ココの山動くみたいです
「俺が、何を言いたいかわかってるよな?」
そう言って私と、ドロテアの前で仁王立ちしているのは、迎えに来てくれたシンだ。
「だって~、シン絶対ダメって言うとおもったんだもん。」
目を合わせないようにそっぽを向きながら答える私。関係ないのに、なぜか同じように正座させられて説教されているドロテア。もうカオスだ。
「シン、見つかったからいいじゃねえか。お前がそん位の時なんてもっとひどかったと思うぞ。」
メニラさんが助け舟を出してくれたが、それは火に油だと思う……。
「こいつはな、ある方からの預かりもんなの。適当にするわけにはいかないと、こっちだって気を張ってるんだよ。余計なこと言うな。」
ほら、吠えちゃった。ここは素直にごめんなさいしていた方が無難だろう。
「シン、ごめんなさい。次からはちゃんと手紙、置いて行くね。」
「気を付けるところはそこじゃない‼ 」
はぁ~、と深いため息をついたシンは、また私の首根っこをつかみ、帰ろうとしたので待ったをかけた。
「ちょっと調べたいことが出来たの。今後の町に関わってくることかもしれないから、これは本当に重要。だから、ドロテアに案内してもらうつもりだから、シンもつき合って。」
今度は、遊びではないと思ったのかいったん地面に降ろしてくれたので、ほっと一安心した。
「何があった?」
真剣に聞いてくるシンに、
「ドロテアのお母さんが塵肺の可能性があるんだよ。」
話を聞いていたシン、メニラさん、ドロテアがみんな首をかしげている。
「塵肺って言うのは、鉱山などで作業している人がなりやすい病気なんだけど、呼吸がしずらくなったり、咳が多くなったりする病気。心当たりある?」
こう説明すると、メニラさんが、
「長く作業してるやつに多いかもな。あと、町の年寄りに何人か―― 」
「詳しいことが知りたくて、今からロロ先生のところに行く予定だったの。だからシンもつき合って。」
今日は非番だから俺も付いて行くと、メニラさんも一緒に同行することとなった。先ほどまではおしゃべりしてくれていたドロテアも、今では大人しく私の隣を歩いている。
身長が同じぐらいなので横を見るとすぐ顔が見える。今まで屋敷の中では、大抵上を向かないと顔が分からなかったので、新鮮だ。私は何も考えず側にある手を握った。すると、ドロテアの顔が見る間に赤くなり、
「てッ、てッ、てッ、手を、は、は、は、離しししして、くくッください。」
よくわからなかったので、
「なんで?このままの方が、はぐれないからいいよ?」
そばで見ていた二人は必死にこらえていたが、肩が震えていたので笑いを堪えているのがバレバレだ。
ドロテアは、離してもらうのを諦めたのか、赤い顔をうつむけながら急いで目的地へと向かっていた。
「あら?今日は診察の日ではなかったわよね? お母さんに何かあったの?」
そう言ってドロテアに優しく問いかけている女性…? がロロ先生。美しい男性に見えるのだが、間違っていたら困るのでそこは触れないでおこう。
「この子が先生に話があるって、だから…、連れてきたの。」
私の時よりスムーズに話しているドロテア。この先生とは信頼関係が築けているみたい。
「はじめまして、ウルと申します。先生にお伺いしたいことがありまして、お時間大丈夫ですか?」
「まぁ、ご丁寧にありがとう。このロワロ医院、院長のロワロといいます。気軽にロロ先生って呼んでね。」
「では、さっそくロロ先生、この町に塵肺にかかっている患者さんはどれほどいらっしゃいますか?症状としては、長期の咳、呼吸困難。カゼの初期症状に似ていることから見逃されやすいですが、重篤になると死に至る恐ろしい病気です。」
「近い症状の人たちが、三分の一程度かしらね。症状が出たら薬を出している感じだけれども、どちらかと言うと、悪化している気がするわ。」
先生も改善しないどころか悪化している現状にもどかしい思いを抱えていたのだろう。
「ありがとうございました。またわからないことがあったら聞きに来てもいいですか?」
「こんなかわいい子が来てくれるなんて、いつでも大歓迎よ。」
医院を後にして次に向かったのは、ドロテアの家だった。ちょっと無理を言って見せてもらうことにしたのだ。到着した家は平屋建てのこじんまりとした家だった。
「母さん、ただいま。今日はお客さんを連れてきたの。」
「はじめまして、ウルと言います。ドロテアさんには、これからたくさんお世話になる予定なのでよろしくお願いします。」
また言葉選びを間違えたらしい、ドロテアは真っ赤になり、布団で横になっていたお母さんは、まぁまぁまぁと言ってドロテアの背をバシバシ叩いていた。
「何もお構いできませんが、ゆっくりしていってくださいね。」
動けないことを心苦しく思っているのだろう。それなら、
「お母さん、不躾で恐縮なんですが、いくつか質問をいいですか?」
「私で答えられるなら、どうぞ。」
「病気の症状がここまで悪くなったのは最近ですか?」
「そうね… 前から軽く咳ぐらいはあったけれど、ここまで悪くなったのは3か月くらい前からかしら。」
「3か月前、何があったか心当たりはないですか?」
「…… 特に心当たりがないわ。ごめんなさい―― 」
コンッ、コンッ、
ここまでかな、あんまり長居しても迷惑だろうと私たちはお暇させてもらうことにした。
「ドロテア、また何かわかったら連絡するよ。それから、いったん家に戻らないといけないのだけれど、また必ず来るから待っててね。」
赤ペコを連想させるくらい、真っ赤になりながら、首をうなずかせていたドロテアが少し心配になった。
「罪作りなヤツ。」
シンが訳の分からないことを呟いていたが、私は考えに没頭していてそれどころではなかった。
絶対ここ数か月の間に何かあったはず。そうしないと説明がつかない……
「三か月前と言えば、何百年かぶりに山が移動したらしいんだよ。ほら、昨日、山じぃに聞いてた山、あれだよ。」
山が移動てナニ?? どういう事?
「そうだよな~、山が移動なんてそれこそ数百年から数千年に一度有るか無いからしいから、眉唾物だよな。でも、山じぃが言うには思ったよりも移動しているらしいから、また数百年は動かないだろうってさ。今なら移動の跡がまだ残ってるから、見に行くなら今だぞ。」
いったん落ち着こう。いまだに常識のすり合わせが必要なんだと痛感した今日この頃――。でも、ちょっとわかったよ。風の流れが変わったんだ。山が動いたから。今できる対策はもうこれしかない。そして時間がない。
帰りの馬車の中、私は泥のように眠っている。乗っているのは辻馬車ではなく、ちょっとお金のかかる貸し切り馬車だ。ここはお金に物を言わせて、父様の言いつけ時間ギリギリに帰りつけるように調整してもらった。
原因がなんとなくわかったあと、私はシンとメニラさんにお願いして町長に会いに行った。プリモールの名前は一切出さずに、旅をしながら色々な事を研究している魔法研究者だと伝えた。
今、町で起こっている事、このまま放置していると、どうなるのか。大まかな原因は何かを説明した後、ある魔方陣を設置させて欲しいとお願いした。もちろん費用はこちら持ち。許可さえくれれば、住民への説明だけで、あとは何もしなくていい旨も契約書を作成してお互いサインした。
設置した魔法陣とは、定期的に町全体に霧を発生させるモノだ。あの時、宝石店でもらった粉末が役に立った。こうしておけば、粉塵を吸い込む頻度が減り、少しは症状も落ち着くだろう。
ただ、完全と言うわけではないので、やはり父様を説得しなければと思ったところで力尽きた。
おやすみzzz




