013:ハティアのキーマン
さぁ、私は今どこにいるでしょうか?
正解は、昨日の鉱山の近くでした~。怒られるの覚悟で、朝一番の馬車に乗って昨日ドロテアにあった場所に来ている。
私の感が告げている。彼女を逃がすな‼ だって、昨日の野草を摘んでた彼女、口に含んでいるわけでも観察しているわけでもなく、食べられる食べられないを判別していたのだ。
絶対何かのスキルでしょう? もし私と同じ鑑定なら、これからの仕事に欠かせない。ぜひとも損はさせないから協力してほしい。そのため探しに来たというわけだ。
大人組に話したら止められる。私も大人なのに……
昨日の場所とは少し離れたところで待機。しかしヒマだ……。そうだ、私も鑑定してみよう。
しゃがみ込んだすぐの足元の生えていた草を手に取り鑑定にかける。
名称:【ススク草】
成分:【食物繊維+微量毒+??】
効果:【??の補充。しかし、それを上回る下痢】
ここでもやっぱり【?】が出てくる。屋敷に帰ってから本格的に実験を始めようと思っているのだが、このままだと気になりすぎて欲望が勝ちそう……
でもこの草、食べたら間違いなく後悔するやつだ。上回るなんて嫌すぎる。ススク草をくりくり回しながら眺めていると、小さな本当に小さな声で、
「あっ、あっ、あッ、あのッ、そッ、そッそれッ、食べるとおッ、お腹こっ、壊しますよ…。だっ、だからッ、やっ、やっ、やめておいた方がぃぃですよ……。」
気配がなかったのに驚いて後ろを振り向くと、昨日の女の子ドロテアがそこには立っていた。うれしくて立ち上がりすぐさま近づいて行く、立ち上がった感じ身長はそれほど変わらないみたいだ。しかし、ドロテアは顔色をさっと青くさせて、細い体を縮こまらせて頭をかばうようにしゃがみ込み、
「ごっ、ごめんっなさいッ。ごっめんなさいッ。うッっ……ごっ、ごめんなさいっ。」
反撃も言い返しもしない、必死に嵐が過ぎるまで待ち続ける少女がそこにはいた。
「こっちこそごめんね。急に立ち上がったからびっくりしたよね。教えてくれてありがとう。私の名前はウル。キミの名前を教えてもらっていい?」
同じ目線になる様に私もしゃがみ込みながら、ドロテアに訪ねる。恐る恐る顔を上げるドロテア… きょろきょろ辺りを見回す。その行動から、こんな風に優しく声をかけ、警戒が解けた後に何かをされたことがあるのだろう。
確かに美人とは言い難い容姿をしているが、決して寄ってたかって、そんな扱いをしていい子には見えない。むしろ、とてもやさしい子だ。今までのトラウマで人に話しかけることに勇気が必要だったはずなのに、食べたら危険だから話しかけてくれたのだろう。
町が、人が荒んでくるといつも割を食うのは弱い人間、優しい人間だ。ヒマだから人に当たるんだ。貧しいから心も貧しくなるんだ。
もう食べられない! と言うくらい作物を作ろう。もう生産が追い付かない! というくらい、忙しくしてやろう。そうすれば皆 誰かに構っている暇なんてないでしょう?
そのための一歩を踏み出すんだ。
「あっ、あたしッ…、ドッ、ドロテア。」
目線はキョロキョロして合わないが、名前を教えてもらえた。
「ドロテア、よろしくね。私の事はウルでいいよ。ドロテアに一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
私がそう尋ねると、体をビクンとさせてドロテアの挙動がさらにおかしくなる。
「うッ、うッ、家は、びッ、びッ、貧乏だから、おっ、おっ、お金なんて、なッ、なッ、ないよ…。」
私がきょとんとして返事をしないと、ドロテアは少しずつ後ろに下がって逃げる体制を取っている。
「ちっ、違うよ。ドロテア、私が聞きたいのは、ドロテアはどうやって食べられる野草とそうでない野草を見分けているのかってことを聞きたかったの。お金なんていらないよ。」
はじめからこう言っておけばよかったと思いながら、私は一気にドロテアに質問をぶつけた。今度はドロテアがきょとんとする番だった。まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。
視線をあっちにこっちにさせながら、考えていた。その時タイミングよくというか、二人同時にお腹が鳴った。お互い顔を見合わせながら、私が照れ隠しに笑うとドロテアも初めて少しだけ笑顔を見せてくれた。
「手軽に摘まめる朝食を買ってきてあるんだけど、ドロテアも一緒に食べない?私には少し多めなんだ。食べてくれると助かるんだけどな。」
ドロテアの優しさを悪用しているようで心苦しいが、仕方ないよね。こんな誘われ方をされてNOと言える人間はそう居ない。案の定、ドロテアもおずおずと頷いてくれた。
「どこか食べるのに景色のいいところとか知らない?」
私がそう尋ねるとドロテアは私の少し先を歩き出した。ときどき、付いて来ているか確かめるために後ろを確認しながら軽い丘の上にあがった。
「町が一望できる場所だったんだね。キレイ~」
朝一だからか、吹き抜ける風は涼しく、下に広がる町は少し物悲しい――
「あッ、あたしの、お気に入りのばッ、場所… なの… むっ、昔は、お父さんと、お母さんと三人でよく来てたの。でもッ、おッ、お父さんが、しッ、死んでから今度はおッ、お母さんが無理して体を壊して、あッあたしにでッ、出来るッことなんでもしたけど……、」
「お母さんそんなに悪いの?」
「夜になると、せッ、咳が止まらなくて、いつも体がだるいって言ってる。」
……喘息の症状ではないだろうか? そうか、粉塵だ。朝一で物悲しいんじゃなくて、粉塵が舞ってるから、くすんで見えていたんだ。
「症状が出始めてどのくらいになる? 」
「はッ、半年くらい。」
「お母さんと同じ症状の人って他にいるのかな?」
「あッ、あたしは分からないけど、ロロ先生ならわかるかも。」
「わかった。これ食べたら、ロロ先生のところに案内してくれる?」
大きくうなずいたドロテアと二人、メラさんに作ってもらったサンドイッチをほおばった。お腹が少し落ち着くと心の緊張が少しほぐれる。このタイミングで私はドロテアに訪ねてみた。
「さっきの話に戻るんだけど、ドロテアはどうやって野草の判断をしているの?」
「あっ、あたし、初めて、やっ野草取ってきて、食べた時、ふッ、腹痛で3日くっ、苦しんだの…。そっ、それから、しっかりっ、注意してみるようになったら、えっと、そのッ、食べられる草は緑に見えて、そうじゃない、ほっ、他のやつはあっ、赤く見えるようにッなったの……。」
「ドロテア、それって他のものでもできるのかな?」
「たッ、試したっこと無い、からわからない、、けど、たッ、たぶんできる、、と思う…。」
自信がないから、語尾がだんだん小さくなっていく。縮こまる彼女とは対照的に立ち上がった私は、
「ドロテア、私ね、今からこの町をにぎわう町に戻そうと思っているの。もちろん、すぐには無理なんだけど、その計画にドロテアの力が必要だと思うんだ。これは、私の感がそう告げてる。ねぇ、ドロテア、手伝ってくれない? その代わり、ドロテアの抱えている心配事は私が解決してあげるよ。」
座っているドロテアに手を差し伸べながら問いかけてみる。この手を取ったらもう離さないよ。
戸惑ってはいるが、新しいことがはじまる予感と緊張不安、それらを飲み込んでドロテアは私の手を取った。
お互い見つめ合ったのは一瞬だったが、それでいい。私はつないだ方の手をグイっと引き寄せドロテアを立ち上がらせた。さっそくロロ先生のところに向かおうと準備をしていると、少し遠いところから私を呼ぶ声がした。
視線を向けてみると、明らかに怒りのオーラをまとっているシン。
「ドッ、ドロテア、ヤバい!どこか隠れられるところない?」
「えッ、えッ、なっ、ないよ。こっ、ここ、一番ッ、開けてる、場所だから… むッ無理だと思う…。」
私以上にパニックになっている彼女を見たら少し冷静になれた。ドロテアには申し訳ないが、一緒に怒られてもらおう。




