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恋と漫画は両立できますか  作者: 鵜飼ネギマ
1/3

1話 一つの絵から始まる物語

 私は本物の漫画が読みたかった。

 正確には人の描いた漫画が読みたかったんだ。ただそれだけだったのに、なのになんでこんなことになってしまんだろう。

 そんな私の物語です。

 

 私立富応高等学校。

 私『上野御守』は教室の端で退屈を満喫していた。

 教室で一番後ろの窓際の席。

 時に物思いにふけっちゃたりして、まるで物語の主人公感みたいな謎の優越感。

 なんとなくフワフワした気持ちで、少し上空から教室を俯瞰して見ているかのような感覚。

 実際のところ入学して一度も誰とも話すことなくもう梅雨を迎えようとしており、まったくそんな場合ではないのだが、全力でその現実に目をそらしながら、今日もクラス内の会話を盗み聞く。


「えーアキ新しいリップ買ったの」


「そう、それも色付きなんだけどちょっとバレにくいやつ」


「いいなーどこで買ったか教えてよ」


「待って、今廊下歩いてるのって菅原爽くんじゃない」


「ほんとだ、かっこいい、告っちゃおうかな」


「やめときなよ、結構振られてるらしいよ」


「うそ、そんなにモテるんだ」


「当たり前じゃん、あんなにかっこよくて背高かったらさ」


 女子高生の会話はそんなんばっかだな。

 つまらん次。


「ねえ、あの教室の隅にいるさ」


「あ、上野さんだっけ」


「そうそう、いつも髪の毛ぼっさぼさでほとんど顔見えて無いしいつもブツブツなんか言っててちょっと怖いよね」


「それ、私も思ってたなんか制服もすごいぶかぶかの来てるしおしゃれに全く興味なさそう」


 ありませんが、何か。というか、制服に関しては胸が苦しくてワンサイズ大きいのきてるんだよ。

 それに髪だって自己紹介の時ぼさぼさだったから今更変えたら変に目立っちゃうしあえてこの髪型でやってるんだ。

 次だ次。


「今日の日刊少年AIステップ読んだ」


「読んだ読んだ、スイッチボックスだろ、あのスフィンクスは読めなかった、マジで鳥肌立った」


「俺も読んだよ、あれはマジで天才だよな、流石AIって感じ」


 その日は偶然、AI漫画の話題が聞こえてしまった。

 いつもの私なら、たとえ私の悪口が聞こえようと、それはそれはすました顔で聞こえてないですよというUTHUBUSEやGURAUNDOWOMIRUという技をうまく使うのだが、この話題だけはスルー出来ない。

 正確にはこれだけは聞き流せないものなのだ。上野御守はそういう生き物なのだ。

 かと言って、食ってかかり文句を垂れ流すような真似はもちろんしない。

 不快だというのをほんのちょっとだけでも周りに伝わればいいなと思ってのアクションだ。

 その思いで、私は分かりやすく舌打ちした。


「ッチ」


 しかし、ここで大誤算。

 おっちょこちょいな私はついクラスのみんなが聞こえる爆音舌打ちをかましてしまったのだ。

 当然のことながらクラス全体が凍り付く。

 それもそうだ、ずっといるのかわからない影のような存在が急に大きな舌打ちをしたんだから。

 今まで会話が飛び交っていたクラスが静まり返る。

 音の発生源は誰が言うまでもなくバレバレだった。

 

 ぺぺペペッペッペー。

 上野御守はクラス内で要注意人物にランクアップした。

 やったね。


 いや、全然よくない。

 むしろこれはランクダウンだろ。

 脳内でポジティブシンキングしてみるも無残に砕け散り、余計に気分が急降下。

 その日はそれからというものの授業の内容はもちろん誰一人何を言ったかさっぱり。

 頭の中で『なぜあんなことをしてしまったのか』ということばかりがぐるぐると繰り返し考える。

 後悔しても仕方がないと、切り替えた時にはもう5限目。


 我に返りようやく耳に入った言葉は先生の「次はAI学習だからPC教室移動な」という言葉だった。

 私はウンザリしながらもPC教室までとぼとぼ歩いていった。


 授業始め開口一番先生が言った。


「AIはみんなも知っていると思うが、世間じゃ使うのは当たり前だ。このAIをうまく使えるなら、この先の就職でも役に立つから真剣に取り組めよ」


「せんせー適当な指示でも頭のいいAIが勝手にやってくれるので、もう使えまーす」


「まあ、それもそうか」


「きゃはは」

 

 クソみたいな会話だが、それはあながち間違ってはない。

 AIは進化を続け今となってはほとんどの仕事はAI任せといっても過言ではない。

 接客もAIロボ。カスタマーサービスもAI。銀行だってつい最近全AI化が決定したとニュースでやっていた。

 AIはとてつもない速度で私たちの生活に入り込み今となってはAIを使っていない職業はないほどになっている。

 私たちのような若い世代はそれをうまく取り入れ就職に役立てる。

 これからはAIと共に生きていくのだ。

 しかし、現実問題としてたくさんの職を失った人が続出したのも事実である。

 ゆっくりとAI化という波が来ていれば、もっと復職できた人は多かっただろう。

 だが、AIの進化は私たちの想像のはるか上をいった。

 あっという間に、多くの職人という人たちは職を失い、多くの資格は意味をなくした。

 技術そのものがAIができるかどうかの天秤に掛けられその可能な範疇であればあっという間にそれに置き換わった。


 そしてその波は創作物にも手をかけた。

 特に漫画は一瞬だった。

 AIに漫画を描かせるというのはAIが普及していく中でも最初期に取り組まれていた課題であった。

 初めのころは読めるってもんじゃない酷いものだった。

 しかし、どんどん成長を続け、いつしか人の描く漫画と遜色がなくなり、気が付けば上を行き今ではそれが当たり前。

 売れる漫画もすべてAIのもの。

 人が描く漫画はもう売れなくなっていた。

 そしていつしか、人は絵を描くことすらやめてしまった。


 そんな時代の中、私は大の漫画好きである。

 もちろん人が描いた漫画だ。

 小さい時から家には大量の漫画があり、一日中漫画漬けの生活を送っていた。

 当たり前のように毎日20冊以上の漫画を読み、多くの物語を頭の中に膨らませ妄想する。

 だが、中学校に上がった時、現実を知ることなる。

 周りの同級生はみんなAIが描いた漫画の話ばかり、過去に人が漫画を描いていたことさえも知らない阿呆もいた。


 私だけが本物の漫画を知っている現実。

 もちろん、AIが描いた漫画も読んだ。

 感想としては普通に面白い。

 でも、何かしっくりこなかった。

 私は、毎週に全力をかけて描いている漫画。ただ好きな趣味を知ってほしくて描いた漫画。自分の性癖をぶちまける漫画。そんな漫画が好きなんだ。

 

 自分の漫画持論を頭の中で想像しているうちも授業は進み気が付けば私以外みんな「AIに同命令すればどんな絵が出力されるのか」という課題をこなしていた。

 時間が足りず、私は急いでPCの入力画面に「ウサギ」とだけ入力し後はAIに絵を出力させる。

 結果は言うまでもなく見事なかわいらしい完ぺきなウサギのイラストが画面に出てきた。

 私は小声で「クソが」といった。


 それから先生が「もう知ってると思うが、優秀な作品はほかのクラス同様に職員室前に張り出すからな」と言ってその授業は終了。


 今日は最悪の日だったと思いつつも早く帰って漫画を読みたいという欲求がもうそこまでこみ上げていた。

 嫌で仕方がない学校はもう帰れる。

 早く帰ろう。


 半分フライング気味に教室を後にして、急いで学校の門をくぐろうとした時思い出す。


「あ、忘れ物」


 まずい、課題のプリント机に置いてきた。


 私は漫画を読みたい衝動を必死でこらえながら校舎に後戻り。

 戻る途中何人も同じクラスの男女とすれ違ったが、下を向いて目を合わせないで足早に去った。


 下駄箱で靴を履き替え、自分のクラスを目指す。

 1-2は2階だ。

 でも、最短ルートで戻ったら、まだ帰りの途中の同じクラスの連中とすれ違うことになる。

 誰よりも早くクラスを出て帰ったはずなのに校門でUターンして校舎に戻るなんて、明らかに忘れ物しましたって言って歩くようなものだ。

 これ以上誰にも見られたくない。


 じゃあ、どうする。


 少考しふと別方向に眼を向けると、あるではないか別ルート。

 今まで遠回りになってしまうから、そちら側から行ったことは無いが、職員室の前を通ってその先の階段から2階に登ろう。

 そうしたらクラスの連中に会うリスクも避けられる。

 そんなわけで、私は職員室前を目指し歩きだす。


 頭の中は漫画と忘れた課題のプリントのことで一杯の中、早歩きで職員室前を横切る。

 特に意識はしていない。

 ただ、視界に入った。

 入ってしまったのだ。

 私はすぐに立ち止まった。

 このすぐにでも帰りたいにもかかわらずだ。

 見えたのは一枚のイラスト。

 人が古い剣の前で膝末く絵だ。

 周りにもたくさんのAIが描いた絵はあるが、今の私にはその絵しか目に入らなかった。


 間違いない。これは人が描いた絵だ。

 それもただのイラストじゃない。あえてAIイラストに思えるように描いている。

 張り出された作品には本来、AIに命令した言葉の羅列を共に絵の下に乗せないといけない。

 だが、この絵のその部分は空欄。

 これは『だって自分で描いたのだから』っていうメッセージ。

 それも気が付かない人を小馬鹿にするようなささやかな自分だけ知っている秘密の悪戯。

 でも、私の目は誤魔化せない。この人の絵には小さな癖がいたるところに隠れている。

 これは本人も気が付いていないであろう癖。

 しかも、この人の絵はとても漫画向きの描き方をしている。

 というより、この絵を描いた人はすでに漫画を描いているかもしれない。

 そう思い始めると、沸々と漫画愛があふれだし、そのあふれた思いは私を本日2度目の暴走に駆り立てた。

 すぐに私はその足で職員室の扉を勢いよく開けた。

 会いたい思い出一心不乱に言った。


「あ、あ、あ、あの、ろ、廊下に張り出してる、、、え、絵を!描いた、、、人がっ誰なのか教えてくださいぃ」


 突然の出来事で、先生たちも唖然としている。

 そんな私に一人の女性の先生が私の元に向かってきた。


「えっと1年生の生徒かしら」


「えっと、そのはい、う、う、上野といいましゅ」


 正直に言います。久しぶりに誰かと話しました。

 全然思ったよりまともに声が出ませんでした。

 恥ずかしさが天元突破し顔はもう真っ赤になっていることだろう。

 こんなにも私は人と話せないんだと再度自覚した。


「う、上野さんねその、なんて言ったのかわからなかったからもう一回教えてくれる。その落ち着いて、ね」


 あ、優しい。私この人好きかも。

 真っ直ぐ私に向けられた視線はとても眩しくてつい目をそらしながら言った。


「廊下に張り出してる絵で、あのAIイラストなんですけど、1つ気になるのがあって、だれが描いたやつなのかを聞きたくて」


「えっと私にはわからないから別の先生呼んでくるね、ちょっとまってて」


 その後は、先生のお力を借り、あの絵を描いた人の名前を無事に知ることができた。

 クラスは1年3組。名前は菅原爽と言うらしい。


 どこかで聞き覚えがあるような無いような、悩みながら家に帰り漫画を広げた。

 まあ、明日頑張って探してみよう。

 待てよ菅原爽って今日女子たちが騒いでたイケメン男子のことじゃないのか。

 どうしよう、自分から声かけるなんて同じクラスの女子にもできないのに、それもかっこいいと噂されてる男子。

 まあ、かっこいいといっても千差万別十人十色。私の好みじゃないかもしれない。

 そう前置きをいくらしたところで、私は漫画に出てくるイケメンキャラにめっぽう弱い。

 4倍弱点である。

 こうかバツグンのクリティカルヒットの会心の一撃なのでである。

 もう自分でもよくわからないぐらいかっこいいキャラは大好物で、ここまで漫画が好きになったのもある作品のイケてるキャラが原因でもある。

 髪を掻きむしりながら、一通りのたうち回った後、明日のことを考えながらその日はベットに横たわった。


「あ、課題教室に忘れたままだった」

読んでいただきありがとうございます。取りえず続きは明日にでも投稿しようと思います。

気に入ってくれたら感想など頂けると嬉しいです。

(たくさん感想もらえたら続きを書きます)

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