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ふたりの天下びとー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第丗章・西播怪談実記草稿十五【天文廿四年正月十八日(1555年2月9日)~】
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西播怪談実記草稿十五4-1【後山の修験道】


 さて翌日、政範らは事前に定めていた通りに三河谷を北上する。


 天候は曇り。早朝、(みぞれ)混じりの雨が上がり、山肌近くからは雨粒が空に還るための水蒸気が薄く立ち上る。一行は川沿いを一里ほど進み、瑠璃寺近くの草庵にて里の長らと落ちあうと、挨拶を交わしてこれから先の道中に関する意見交換を行った。


 というのも事前情報にて、昨年の暮れ、大風によって瑠璃寺の裏参道が倒木で封鎖されたという話が西播磨諸侯の耳にも入っていた。


「ようこそ皆さま。お待ちしておりました」


 瑠璃寺の裏参道は奥院(おくのいん)から日名倉の尾根を抜けて後山、東粟倉、西粟倉に通じ、果ては志戸坂(しとさか)、因幡往来と合流する。


 実際に歩くとなればかなりの隘路(あいろ)。古の時代、一部の道は修験道にも使われた伝承が残るほどに足場が悪く、急勾配で難所が続く。しかし、それでいて山で隔てた地域を結ぶ生活道と複数の箇所で交差し合い、延喜九(909)年に理源大師がこの参道を復興して以降、播磨国と美作、因幡を行き来する旅人の姿を見ぬ日はないと言われるほどの交通量を有していた。


 道が崩れたのは、日名倉越えの一部とさらにその奥、志引峠から後山にかけての一部。


 今回の地滑りの原因が前年の志引峠での戦いにて、赤松軍が落石を用いて峠道を封鎖させたことやそれを取り除くために尼子氏側が急場凌ぎの突貫工事を行なった影響は確かにあるものと考えられる。だが、それ以上に播磨北部一帯の山々が製鉄を行うために長年山の木々を伐採し続けたがために、山のあちこちで山肌が露出するほど山が荒れていたことも大きな要因となっていた。


「……特に後山の方が酷く、人夫も集まらず皆が途方に暮れております。無理をすれば志引峠までは抜けられますがそこから西河内までは無理でしょう。開通は春になってからを見込んでおります」


 里長らの言葉に、()もありなんと豊福肥前守が頷く。


「心配はご尤も。大変な感謝を申し上げる。それらについては既に手を打っております故、ご安心召されよ」


 実は今回の鍋ヶ森詣には、表の目的と裏の目的がある。


 表の目的は、純粋に恵みの雨をもたらした山の神に感謝を伝える参拝の旅。


 戦禍の多い播磨国において、赤松方の諸侯は尼子氏の御家騒動という絶好の機会を利用し、少しでも国力を取り戻したいと思い、全員が領内の五穀豊穣を願っていた。


 裏の目的は、宍粟郡内の偵察。


 今回の行程で最も懸念されているのは、三河谷から先、千種城主・石原氏の領内を通過となる。


 石原氏は宍粟長水城の宇野氏と共に、尼子氏の播磨侵入初期から尼子方に与し、播磨国内で尼子氏支持を続けていた有力な国人のひとつとなる。


 石原氏の居城・千種城の城下町である黒土(くろづち)は全方位を山に囲まれ、逃げ場が無い。


 この場所で石原氏が伏兵を置き、襲撃を仕掛ければまさに一網打尽。西播磨の親赤松派は甚大な被害を受ける。逆に、この地点を西播磨の親赤松派の面々が無事に越えることができれば、宇野氏との和睦の約定はまだ守られている証明となる。


 正直なところ、赤松家としては彼らとの約定をほとんど信用していない。そもそも宍粟郡の親尼子派が和睦に応じた時点において、彼らに戦況を巻き返せる程の戦力を十分有していたのは誰もが知るところであった。


 必ず、時期を見て彼らは再び尼子方に寝返る。


 確信に満ちた猜疑心で眺める赤松惣領家は、それゆえに、嫡男・義祐の軍を高砂の陣から引き下げはしたものの完全には軍備を解かず、少数ながら置塩のすぐ近くで兵を待機させていた。



 

【後山・修験道と東粟倉文化】

美作市さまHP

https://www.city.mimasaka.lg.jp/kanko/spot/history_culture/etcetera/1517533550536.html

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