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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十章・西播怪談実記草稿十二【天文二十三年四月廿八日(1554年5月29日)~】
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22・西播怪談実記草稿十二5-1(天文美作合戦)


 ―5―



 同時期。


 七条家含む播磨国人衆において、目論見通りに、しかも三十名に満たない人数で尼子軍の糧道を断ってみせた事は久方ぶりの快挙となった。誰一人欠けることなく七条屋敷まで生還した七条政元らを龍野赤松の軍勢が出迎えた。

 

 手筈としては、尼子の糧道を閉鎖後、播磨国内へ雲州勢を再侵入させぬように、佐用郡、揖西群の国人衆らがそれぞれの国境を固めるよう指示があり、本来ならば、龍野赤松氏は本拠地龍野城の少し西にある小犬丸(こいぬまる)に陣を置き、北の尼子、南の室津浦上の備えるはずだった。


 しかし、この時七条政元を出迎えた龍野勢は一千超。龍野三千騎のうち、実に三分の一が佐用郡内に展開していた。


「……随分と仰々しい。なにかあったのか」


 戦勝祝いには気が早い。政元の困惑を察し、龍野赤松家当主赤松下野守政秀が真っ先に歩み寄ってくる。


「これはこれは。よくぞ皆様ご無事で」

「下野守殿。我らの留守を抑えていただいたのには感謝いたしますが、これは一体……」

 

 ふむ、と政秀が一拍を置いて、ご内密いただけますかと一言前置いたため、とりあえず政元も頷く。


「……先の十二日、毛利殿が裏切りを」

「それは……」


 唖然とし、誠かと聞こうとするも、政秀の眼が一切笑っていない。


「この話が真か偽かと言うのであれば、間違いなく真。当初の予定通り、毛利の前当主、当主殿共に協議の上で陶に反旗を翻し、今頃は内応によって多くの城が毛利方に寝返っている頃でしょう」


 実際、毛利の内部工作の成果は素晴らしく、彼らは本拠地吉田を出立して、わずか一日で海路開ける厳島までの諸城を手中におさめている。


その後は十五日までに周防(すおう)国境の大内軍を小瀬(おぜ)御庄(みしょう)にて撃破。続く山代地方を攻略すべく兵を進めたという。


「毛利殿のことを、置塩には」


 毛利軍の快進撃は喜ぶべきこと。


 しかしながら、もともと毛利家という大きな主柱があったからこそ、現在の六ヵ国同盟という大それた策は成立した。屋台骨となる毛利の柱が謀反というかたちで折れたのでは、同盟軍は瓦解する。


「……勿論なにも伝えておりません」


 それが毛利氏からの指示と、政秀の眼差しが訴えた。

 

「しかし、それでは」


 政元は、はっと気付く。毛利軍が陶と事を構えて半月。山中に籠り続けていた政元だが、全く里の人間と交流しなかったわけではない。


 だが、山に居た時はおろかここまでの帰路の最中でさえ、一切毛利氏が離反したという噂は一切耳にしなかった。


「……、貴殿らがここに居らっしゃる理由に得心が行きました」

「ご理解頂けて幸いです。我ら龍野衆一同、貴殿らの帰還を心待ちにしておりました」



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