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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十章・西播怪談実記草稿十二【天文二十三年四月廿八日(1554年5月29日)~】
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幕間「牛石とひょうたん石」


―幕間―



 一方で、志引峠の戦で尼子軍を手玉に取った赤松方では、長井某という武将の活躍が伝えられる。


 長井某はなかなかの剛力の者。子牛ほどの大岩を抱えると力任せに三つも四つも投げつけて土砂崩れを引き起こさせるなど尼子軍の糧道閉鎖に一役買った人物で、戦後彼の放った大岩が実際に牛へと変化した話が残る。


 なんでも、大岩は時々生きた牛に姿を変えて、近くを流れる川で避難先から帰ってきた村の子供達と遊んでくれたのだそうだ。


 しかしながら、何処の牛だろうと子供を迎えに来た大人が牛を引こうとすると、牛たちは身を寄せて再び大岩に変わってしまったのだという。


 その後はしばらく「牛石」と呼ばれて川遊びをする子供たちの格好の遊び場となっていたが、やがて岩の形態から誰彼ともなく「ひょうたん石」と呼ぶようになり、ひょうたん石の名前が知れ渡ると二度と牛に変じることはなかった。


 残念ながら、この「牛石」がどこにあったのかは伝わっていない。


 その代わり、千種村河内の川の中に「ひょうたん石」と呼ばれる大岩が存在していたことが分かっている。


 こちらのひょうたん石は、昭和初期まで地元の子供たちも登って遊んでいた記録が確認され、当時の瑠璃寺の住職、常福院の関係者、中三河の医師、その他地元民の発願によって延々十五キロメートルの道のりを経て、瑠璃寺近くの船越集会所の庭へと運び込まれた。


 それから三十数年の野ざらしを経た後、昭和四十年四月、船越山奉賛会が結成されると、各方面の力添えのもとで標石となり、現在も南光坊瑠璃寺の正面駐車場近くで参拝者たちを出迎えてくれている。


 この「ひょうたん石」が該当の「牛石」という確たる証拠はないが、もしそうだったのならば時代を超えて現代でも我々が目にする史跡となるのではないか、と老人の記録には残されている。



(追記)


 長井某についても、ある程度判明している。


 長井某の本名は不明だが、三人の息子が居たことが確認され、長井太郎左衛門友資と長井久右衛門友勝(残りひとりは不明)の名が伝わる。しかしながら無事に戦国の世を生き延びたのは三兄弟の中でも久右衛門友勝のみで、友勝は佐用郡中嶋に居を構えると、そこに定住するようになる。


 後に、寛永の頃(1624~1644)、彼は一族一門の死者と弔うために恵秀庵という庵寺を建立したという。

 

 その際、庵寺には後醍醐天皇から軍中守護のために山田兵庫頭満定に賜った毘沙門天像と経文百巻を納められた。


 明治中期に大嵐で庵が倒壊したあとは、毘沙門天像は現在も三田市の長井家にて保存され、二回の盗難に遭いながらも二回とも無事に帰ってくる「世にも不思議な仏像さま」として崇められていると地元の昔話集に記載がある。


 また、長井の一族からは後に上郡の庄屋となり、「長井」から「永井」に名を変えつつも、自分達のルーツとなる中嶋の名をいれた「中嶋屋」の屋号を出し、ナガイかシバタかと言われるほどに栄華を誇った家系も存在している。


 その他、上郡町の永井氏に関して、上郡町の旧市街にはかつて中嶋屋敷と呼ばれる地名が存在したことと、同家の男紋が三つ巴を描いていたことを紀元二千六百年の大祭のときに同じ町内の女学校の方が確認していた記録が残ることも付記しておきたい。


 恐らく上郡町史に記載された赤穂藩由来の永井家とは別系統、赤松家関係の永井氏も同町には存在しているとのことである。


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