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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十章・西播怪談実記草稿十二【天文二十三年四月廿八日(1554年5月29日)~】
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22・西播怪談実記草稿十二4-2(天文美作合戦)


「修繕は可能か」

「……それが、雨がやまぬことにはどうにも」


 連日の雨による影響で、崩れた斜面からは常に湧水が滲み出す。物見の話では、一部では小さな川も出来ているらしい。下手に手を加えずとも、再度の土砂崩れに巻き込まれる危険な状態にあることは疑いない。


「まず、ひと月程度は見込みませぬと……」


 それでは遅過ぎる。


「構わん。人を出せ。手が足らぬのであれば農民どもを送り込め」

 

 それが領主として悪手であることは晴久とて理解している。


 既に一度、東美作での徴発と徴用の両方が行われた。初夏は、秋の実りを育むために田植えを行われるだけでなく、麦刈りの時期でもある。


 麦は性質上湿気に弱い。雨続きの播磨と比べ、梅雨の帰還であっても若干ながら美作の方が雲に切れ間があったらしい。村のあちこちで雨の害を避けて麦の刈り入れが行われた形跡が認められた。


 そして、麦は米の収穫まで(くい)つなぐための重要な食料でもある。


 備前南部ほどではないにしろ、美作国内でも可能な限りの二毛作が推奨されている。


 麦の収穫が終わっていないのであれば次の大豆や米耕作へは移れない。その原因が単純に雨が止むのを待っているだけか、戦を避け集落を離れて放置されたままなのか、あるいは単純に徴兵による人手不足によるものかははっきりとは分からない。


 いずれにせよ、麦の借り入れが終わっていないのであれば、農民たちは明日を生きる食料を眺めているだけでまだ入手していない。


「……兵どもには麦刈りをするように伝えろ」

「それは……」


 美作の民に、自分達の代わりに飢えて死ね。晴久はそう命じた。


「二度は言わん。麦を刈れ」


 ここまでの策を相手が用意しているとなれば、どうせ近隣の商人達にも手が回っている。新たに出雲の商人達に荷を準備させるにも時間が必要となる。それに恐らくだが、先行した国久らも同様の判断を下している。


 一度収奪の罪を犯すのであれば、一度でも二度でも同じ。


 気付かず、晴久は自らの腕に痕が残るほどに爪を食い込ませていた。非情にも思えるが、自分達が生き残るにはなりふり構っていられない。


 雨ざらしの中、尼子軍による略奪は東美作一帯で行われた。


 さらに尼子軍は、備中三村との新たな戦に備えて徴兵を強行した事で、東美作からは若い男手の姿が消えた。


 なけなしの食料を奪い、これからの季節を超えるために必要な人手すらも奪い尽くす。


 新領主としては、実に鬼畜の所業。


 美作の雨は五月が終わるまで降り続き、梅雨が明けると同時についに美作領民は我慢の限界を迎える。



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