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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十七章・西播怪談実記草稿九【天文二十三年三月二十日(1554年4年21日)】
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19・西播怪談実記草稿九2-1(第二次高田合戦)


 ―二―



 天文二十三年三月二十四日(1554年4年25日)、早朝。



 出雲尼子と備前独立派、両軍は一触即発の時を迎えようとしていた。


 雪解けを待って春の大山(だいせん)越えを行った尼子の軍勢は、真島郡高田の陣山に陣を張る。この場所は尼子晴久にも馴染み深く、旭川の支流・本郷川の北に位置する小高い山の上にあり、享禄年間に行われた高田城攻めの際にも本陣を張った場所となる。


 前回と異なるのは、川向うの高田城が自勢力下に置かれた状態にあること。


 高田城の北部では、大壇城主・上井手六衛門(うわいでろくえもん)らに比較的安全な補給路を確保させ、高田城内に物資を備蓄。万全の準備を整えた上で、当主晴政自らが総勢約三万の指揮を取る。


 対して、備前独立派は大庭郡久世に本陣を構える。


 高田から久世にかけては郡境にとなり、北の勝山と南の飯山の間では旭川が二回大きく蛇行する。浦上宗景はこの地形を利用し、川の北側、勝山沿いに数段に渡って柵を張り巡らせることで北の出雲街道を封鎖。侵攻側にとって不利な渡河を二度強いる策を立案していた。


 備前独立派は総勢二万。地形の利用は勝利を呼び込むために必須となる。


「兄上。この戦をどう思われますか……」


 そう言って兄・七条政範に話しかけたのは弟の七条政直。


 この時、政範・政直の兄弟は佐用則答の軍勢の一員として参戦。一度旭川を渡った先の草加部(くさかべ)の地に着陣していた。草加部は勝山と飯山の間にできたかなり大きな中州で、今は植え付け前の泥田が広がっている。彼ら播磨国人衆は独立派の第二陣。他の備前、備中、美作の国人衆らで構成された独立派第一陣は中州の川上側、大上まで出張って尼子軍の渡河を防いでいた。


「浦上殿は無事に柵を設置されたが、こうも相手に高所の利を抑えられてはな」

「……もう少し対応が遅れていればと思うと、ぞっとしませんね」


 目の前の旭川を挟んで両軍は睨み合い、川の北側、高田城から勝山にかけての山側を尼子が抑え、川の南、草加部から久世以東の平野部を備前独立派が確保している。地形としては、中国山地を下りてきた狭い隘路に尼子軍を押し込めた形となるため、このまま大軍を押し留めることが出来れば独立派の負けはない。


 前線では、互いに作業を妨害しようと足軽達の小競り合いが繰り返されている。


「今は小康状態。いずれ突破に向けて軍が動く」


 そう言って政範は、尼子の手に落ちた太鼓山を見上げる。太鼓山は高山城の出丸。山裾の化生寺が尼子軍第一陣の拠点となり、山頂の櫓と寺内の高所から複数の尼子兵の姿が見え、備前独立派の動向を探るべく絶えず監視の目が光らせていた。


「政直、背後は問題なかったか」

「ええ。飯山と神村山からの見張りからは何も」


 監視の目ならば、備前独立派も負けてはいない。


 政範ら独立派の第二陣は飯山の砦に拠点を置き、西隣の神村山の中、神林寺(じんりんじ)の敷地内にも櫓を組んでいる。この神林寺の表参道と裏参道には入念に睨みを効かせるよう指示が出ていた。


 神林寺は美作最古の山上大伽藍を持つ古刹。


 古くは鎌倉時代、源頼朝が梶原景時を奉行として三重の堂塔を建立させた歴史があり、政範らが生きた時代も寺は六つの僧房を持つほどの勢力を保っていた。山の南北それぞれに参道が開け、特に南の参道は当時から近隣の大きな社、木山神社への参拝者が使用する木山街道とも交通していたため、備前独立派の背後を突くには絶好の経路となり得た。 


「……いざという時には我々の撤退路にもなる。引き続き監視を頼む」

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