表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十六章・西播怪談実記草稿八【天文二十三年一月一日(1554年2月2日)~】
157/279

18・西播怪談実記草稿八2-1


 ―1―



 天文二十三年二月二十日(1554年3月24日)頃、昼。


 突如、佐用村の七条屋敷に伝令が駆け込んできたのは春の山桜が咲きほころぶ季節。


 伝令の所属は、佐用郡南部の要・上月城。


 それも旧城が置かれた太平山砦ではなく、改築中の荒神山で見張りの任に当たっていた七条家方の武将・桐山市之進(きりやまいちのしん)だった。彼はすぐさま同じく荒神山で警護に当たっていた七条家家老・太田新兵衛則近(おおたしんべえのりちか)と合流し、上役の則近がその場に残り、市之進は佐用村へ早馬を飛ばした。


 息も絶え絶えに七条屋敷に雪崩れ込んで来た市之進に、政範が少女・花に飲み水を準備させると、彼は駆けつけ三杯を忽ち飲み干してみせた。


 只事ではない。


「桐山殿、どうなされましたか」

「……若、陶です。周防の陶の軍勢が、我が上月の城を占拠致しました。我らでは判断が付きませぬ。如何すれば良いのでしょうか」


 一息に捲し立てる市之進の言葉に、政範は困惑する。はて、陶の軍勢は味方だったのではないのか。


「それが、この度毛利様に二心の疑いがあり、己が野心から大内・陶の盟約から離脱しようとしているとの話で、自分達はその疑いを晴らすべく播磨に視察に参ったと申しております。今は新兵衛殿が陶殿の使者の応対に当たっています」


 一応の筋は通っている。だが、太田則近が七条家三家老の一人とはいえ、強大な周防陶氏が相手では分が悪い。


 政範は叔父の高島正澄を呼び寄せると、もう一人の家老・小林満末を置塩近くの鞍掛山城の父のもとへ送らせ、自らは慌てて上月城へと向かった。


 政範が上月に到着した時には既に夕刻。城内では太田則近が接待役となって陶の使者を歓待する宴会が始まっていた。かなり早い段階から酒が振舞われていたらしい。かなり出来上がっているのか、大広間の方向からは賑やかな声が響き渡っていた。


 そんな宴席の真っ只中に、素面の政範ら二人が割って入った。


 広間に座していた陶側の使者は八名。屋敷に入るまでに見かけた雑兵らと合わせ、陶方の人間は凡そ五十名程。部隊の規模は予想よりも小さい。しかし、彼らの態度はかなり大きく、歳若の政範の顔を見るなり、盃を持つ手で政範の方を指して嘲笑ってみせる。


「は、遅い。赤松にはこんな若造しかおらんのか」

 

 それが陶の使者の第一声だった。かなり見下した態度で虎の威を借りる狐とはよく言ったもの。が、七条家には陶に歯向かうだけの力はない。


「……遅参の件まことに申し訳ありませぬ。本日の用件はいかがなものでしょうか」

「なんだ、遅れて来た上に聞いておらんのか。お前らの算段など御屋形様はとうの昔に見通されておる」


 使者の一人が立ち竦む政範に向けてさして面白くなさそうに盃を投げつけた。政範は避けず、盃が割れた衝撃で政範の顔面が酒びたしになる。しかし彼は瞳を閉じることなく使者からの視線を外さなかった。


「使者殿、申し訳ありませぬが、我らの算段とは」

「……阿呆。しらばっくれるつもりか。貴様らが我らの厚意を無下に斬り捨て、御屋形様に大恩がありながら義理も忠節も恩義も知らん毛利の小倅にそそのかされて謀反を決めたことよ。で、首謀者は誰だ。小倅ではなくやはり老木の方が黒幕か」


 最寄りの使者の一人が政範の横腹を肘で小突き、よろめく彼を見て残りの使者らが手を叩いて音頭を取り嘲弄する。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ