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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十四章・西播怪談実記草稿六【天文二十二年十一月中旬(1553年12月20日)頃~】
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16・西播怪談実記草稿六2-1


 ―2―



 天文二十二年十二月初旬(1553年1月8日頃か?)。



 十二月に入り、二日に甲山城(こうやまじょう)(広島県庄原市)の山内隆通(やまうちたかみち)が、四日には蔀山城(しとみやまじょう)(同庄原市)の多賀山通続(たがやまみちつぐ)が毛利方に帰順したことで備後戦線は終結。毛利軍も本隊を本拠地吉田郡山へと帰還させた。


 現在彼らは戦後処理の為に動き、毛利氏の現当主、前当主ともに連日連夜の議論を重ねていると聞く。このまま毛利の旗を陶の主導する新たな支配体制に組み込むのか、それとも反旗を翻して立ち上がるのか。


 前当主は従属の道を選び、現当主は反抗の道を選ぶ。


 国力差を考えれば、前当主毛利元就の判断は正しい。


 今ならばまだ引き返せる。陶の当主は誤解している。毛利が対尼子様に包囲網を構築したのは全て自らが生き残るため。確かに六ヵ国に渡る大同盟となったが、それはあくまで八ヵ国の太守となった尼子氏に対抗するため。備後を奪取した今、同盟に陶・大内の周防長門の二ヵ国が加われば彼らを上回ることが出来る。


 それに同盟の主幹は、陶晴賢が考えるよりもずっとか細い糸のようなもので出来ている。毛利氏が主権を握っているわけではなく、それぞれの当主がそれぞれ自分の意志で動けるような余地を残してある。


 そして、なにより元就自身に反逆の意思が無い。


 いかに勢力を広げたとて、長年大内氏に臣従し、陶晴賢が大内氏の前当主を弑逆したときも晴賢を支持し続けた。その後には息子と縁を結ばせた実績がある。備後諸城を即座に任せてもらえなかったのは心残りであるが、それも今の情勢下ではあちら側にも一理がないわけではない。


 毛利は最初から敵ではない。自身が直接出向き、順を追って説明して言葉を尽くせば、晴賢も理解を示してくれるに違いない。


 毛利元就、御年五十七。


 戦上手で鳴らした元就もまた老齢の域。彼をわざわざ津和野攻略に指名してきた以上、陶も彼自身の首と引き換えならばと、安芸国人衆の血脈存続を言外に約束している。最悪、出向先で命を取られる結果になろうとも、毛利の旗の護り手として多くの優秀な息子らが育ち、今年初めには直系の孫にも恵まれた。


 彼は彼の人生を生きるに充分過ぎるほどに生きた。


 後はもう、死ぬるにも十全過ぎると考えている。



 が、毛利の現当主は頑として譲らない。


 陶の為に自軍を動かすならば、せめて自分を斬ってからにしろと言わんばかりに元就の判断を頑強に拒み続けている。


 毛利氏現当主毛利隆元は自分の父の死を異常なほどに恐れている。もともと自己評価の低い隆元だが、父の死が毛利一族全員の死と考え、これまでの人生を父に従い生きてきた。


 そんな隆元が、父の津和野行きを、それ即ち父の死であると判断した。


 幼少期は大内氏の本拠地である山口に送られ、陶晴賢という人物を(つぶさ)に見聞きし続けた彼だからこその判断である。


 父を止めるため、当主の自分の力だけで足りないならばと、他家を継いだ弟二人に加え、重臣複数をも交えて父を説得することを躊躇わない覚悟を決めている。


 二人は互いに譲らず、協議は平行線。


 毛利氏の今後が決まるのは翌年の四月末。それまでしばし、毛利氏の行く末を憂いでいるはずの両者の主張には歩み寄りが見られなかった。唯一の歩み寄りは、この十二月朔日に縁起担ぎの餅を二人で食したことだけだった。


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