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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十三章・西播怪談実記草稿五【天文二十二年十月二十三日(1553年11月28日)~】
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15・西播怪談実記草稿五4-2

 赤松総領家と備前独立派は同盟を結ぶことに異論はなく、主目的を室津(兵庫県たつの市)の浦上政宗の討伐と定め、互いの消耗を避けるために冬の間に戦支度を済ませることを取り決めた。


 来年春の早い段階であれば尼子軍主力も態勢を立て直せぬであろう。その間に東西から政宗の本拠地・室津室山城を挟み撃ちにすれば一気に後顧の憂いを絶つことが出来るかも知れない。


 書写山の僧侶の予見では、今年の冬は西国の雪が深いと言う。


 地元播州でも蟷螂(かまきり)が屋根の軒に多く卵を産みつけ、害田(がいだ)(クサギカメムシ)が冬篭りの場所を求めて家屋内に溢れていた。これらも皆、大雪の予兆である。


 尼子の軍勢も勝機を失ったとあれば、おそらく雪中行軍の愚を避けるために早晩出雲に引き揚げるに違いない。尼子主力は今年三月からの連戦続き。半年以上戦い続けた彼らの疲労が癒える前に、なんとしても室津の案件は片を付けておきたい。


 冬の薪炭代を節約し、来年の雪解け、春三月の吉日を待って室津を攻め立てよう。


 赤松晴政と浦上宗景の代理の者が、それぞれの誓約書に判を押した。


 この(かん)、親尼子氏側も各派閥の動向に口を挟もうとせず、ただ会議を静観していた。会話の内容を尼子氏側に流すおそれもあったが、そうすればどうなるかは彼らとて理解していた。


 わだかまりは残しつつ、それでも大枠は決められた。後は形である。


「……提案がある」


 ここで先陣を切ったのは他でもない宗景だった。


「我らの策謀は煮詰まってきた。今回の約定は三ヶ国に渡り殊の外大きなものとなったが、それをただ証文のみで神仏に誓ったのでは(いささ)か心許ない。誰かを証人とし、我らの繋がりを明確なかたちとして残すことで証としたいが如何なものか」


 そう、この盟約をただの書状で済ませてはならぬ。


 この声には、皆が同意した。誰かが約定を破ればたちまち策は崩壊する。


「ついては、証のひとつとして、儂と佐用殿の末妹御との婚儀を提案したい。各々方言いたいことの一つもあるだろうが、どうだろうか」


 道理である。古来より婚礼は同盟を結ぶ際における定番中の定番。赤松家重臣と浦上氏の婚約は両家を繋ぎ止める(かすがい)となる。


 しかしそれは佐用と浦上の二者間のみの関係。山名と宇野を結紮するには繋がりが薄い。当然ながら反論の声が上がった。


「……理解しておる。ゆえにもう一案、こちらには七条政元殿の協力が必要となる」


 突然名前を呼ばれ、七条政元は怪訝そうな顔で宗景の方に視線を向けた。そんな政元の眼差しを無視して、宗景は言葉を紡ぐ。

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