14・西播怪談実記草稿四3-4
(さて、言葉通り受け取って良いかどうか)
宗景の疑念は晴れない。が、目の前の若者はおそらく自らの祖父から何も知らされていない。わずかな憐憫を政範へ向ける。
佐用氏の立場上、自分たちの嫡男が備前独立派に捕縛されたがため、涙を飲んで自ら膝を折ったという筋書きが必要なのは分かる。備前独立派としてもその程度の芝居に乗るくらいで劣勢な自分たちの側に赤松家の重臣が靡いてくれるのであれば渡りに舟。是が非でも飲みたい案件となる。
「しかし……」
しかし、である。
宇喜多直家からの提示された陳情は、主にふたつ。
最初の一つは佐用氏に関すること。この芝居、飲むかどうかの主導権は宗景にある。
問題のもう一件が、捕らえた堀内広維に関すること。こちらが違和感の塊となって宗景の前に立ちふさがる。
今回の件、佐用氏調略だけでなく、備前国内の親尼子派の内情を知るためにも広維は協力者として粉骨砕身の働きをみせ彼の功績は大である。しかしながら、主君・宇喜多大和守を背いている事実も露見仕掛けており、その立場も怪しいものとなりつつある。そのために、宗景の判断でこの機会に備前独立派として正式に迎え入れて欲しいという要望であった。
(……直家めの文章を読むに、あの男に余程の信を置いておる。もしここで儂が奴を斬れば乙子の城は儂を手を離れよう。そうなれば西の護りを失うことになる。しかし、だからといって一度味方を裏切った人物を儂の手元に置くにはあまりに情報が足りぬ)
宗景が更に大きく息を吸い込む。
「間もなく、儂の下に則答殿の末の妹御が室に来る」
突然の発言。祖父則答の妹となれば三十路を迎える大年増。宗景には既に嫡子も産まれており、彼の女性の嗜好を除けば、一般論として、佐用則答の末妹は世継ぎ目的でなく実質的な人質としての役割となる。
「其方の祖父殿の言葉に従うならば、遠からず八十郎殿は儂の姪孫となる」
だから、宗景は政範らを敢えて賓客として遇した。若い政範の首を刎ねれば総てが水泡に帰すのだ。
「……だからこそハ十郎殿にはお伺い致したいのだが、貴殿の祖父殿が隠しておることは他には無いか」




