14・西播怪談実記草稿四3-1
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同、浦上宗景の屋敷。
最初から総て仕組まれた、と政範らが気づくには少し時間を要する。
七条政範らは三人は抵抗を試みる暇もなく、全員が番兵によって呆気なく虜囚となっていた。
「……しかし、これはどういうわけか」
政範の戸惑いも当然。
当初、捕われの政範ら三人は下人小屋のような粗末な場所の地面の上に転がされていた。
しかし、しばらく放置されていたかと思うと、今度は湯が沸いたという使者によって縄が解かれ、政範と定尚の二人が湯殿へと案内された。
頬を切るような道中の寒さの中、温かい風呂はなによりの馳走。屋敷の人間の温度調節は絶妙で、熱くはないか温くはないかと火加減への気配りも忘れていない。すっかり温まった二人には新たな着替えが用意され、取り上げられた刀もそのまま二人に戻された。
この待遇、まるで賓客ではないか。
いぶかしみながら二人が袖を通すと、今度は客間から呼ぶ声がする。
客間ではこれまた二人分の座に温かい夕餉が準備され、勧められるまま二人は一汁三菜に手を付ける。唐突の事態に脳内の処理が追いつかず、正直、出された料理の味も品目を覚えていない。
だが、食ったら食ったで食後の妙薬と珍重された濃茶までが出される。
茶をすすりながら家人によって片付けられていく膳を眺めているが、意識ははっきりしており体調もすこぶる健康。毒が盛られた形跡も特にない。
(どうやら、自分達は客分として席に呼ばれたらしい)
通常この様な場合、不審者は捕えられた時点で斬られてもおかしくない。この様な厚遇は明らかに不可解といえる。人間は現金なもので、腹がくちくなれば気も緩みがちになる。
「若。この様な時、最もしてはならぬのは妄りに動じること。古来より不用意に気を許せば、人は命を危険に晒します」
「……面目ありませぬ」
「否、なにぶん慣れぬ敵地でのこと。若にはまだこうした経験が少ないでしょう。多少動揺しても仕方ありませぬ。それより浦上殿が我ら二人を厚遇されるに、何か心当たりなどはありませぬか」
政範の感情を読み取ったのか、すかさず福原定尚が空気を引き締める。まだ齢十六の若輩といえど政範は既に成人の儀を終えている。公式の場では大人であることが要求されるのだ。
武家の先達は後輩に居住まいを正し、相手の出方を伺うよう促してみせた。
「浦上殿が我らを厚遇するには、そうする理由があるのでしょう」
それは暗に、今この場に居ない堀内広維の存在を指し示す。彼は今もあの下男小屋で捕らわれたままなのかも知れない。そう思うと政範も自然と背筋が伸び、静かに浦上方の動きを待つことにする。




