12・西播怪談実記草稿二3-2
「そうか、お前は十一か十二か。ならば、妹御とは幾つ離れている」
「……二つ」
「ふむ。儂と兄も一つか二つしか違わんよ」
他愛も無い会話。だが、幾つか質問を繰り返すたびに、少女は宗景の策略にまんまと乗せられたことに気づく。
好物は何か、特技は何か、どんな生活を送っていたのか。問いかけの深さが増してくる毎に、次第に少女が答えに詰まり始める。宗景と自分では、生きてきた時間、つまり情報量に格段の差が生じている。
いくら彼女が情報を小出しにしようと、質問を並べられればやがて手札は尽きる。
最初の質問に答えた時点で、少女の負けが確定していた。
「最後の質問だ。お前に妹御以外の家族が居るのか」
「…………」
少女が無言で応じる。
「居るのか、と聞いている。疾く答えを述べよ」
しばらくの沈黙の後、少女は一度だけ頷いた。
「なによりの答えで結構。お前の妹御は英田郡の協力者のもとで浦上家の姫君として守られている。危害もなく障りもない」
宗景は合点がいった様子で、少女の前から足早に立ち去る。
「……この二か月の間、我が国内で備前と播磨を不自然に何度も行き来していた人間をすべて洗い出せ。年齢は二十三、偽名を使用している可能性もある」
すぐに配下に触れを出す。ことと次第によっては、あの姉妹を斬らねばなるまい。
性別は男、人相や風体は不明。しかし、必ず網に引っかかる。
今年七月、播磨国佐用郡に兵を送って以降、急速に備前と播磨を行き来する回数が増え、なおかつ兄・浦上政宗の居る室津や美作国の親尼子派などに足繁く通っていた者に限定すれば必然的に数が絞られる。
宗景には言葉にできない確信があった。相手に気取られぬよう内密に捜索せよとの厳命され、備前独立派の中からも相当の人員が割かれたらしい。
七日の後、はたして宗景の条件に見合う若者が見つかった。




