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二人の天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十章・西播怪談実記草稿二【天文二十二年(1553年)~】
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12・西播怪談実記草稿二2-2


そうなのだと頷くと、禅僧も頷いてみせる。


「……あの時、北からも豊福殿の所領まで侵入した不届きな輩がおってな、豊福殿の領内でも数軒の民家で被害に遭われたらしい」

「それが、当家と何か関係が」


 自分の領地は自衛が基本。暗黙の了解として、他の領内の事件には手を出してはならない。


「そうさな、佐用としても七条としても、本来ならば首を突っ込むべきではないだろう」


 禅僧の隣の男が床につけた手のひらを震わせる。


「……政範。お前の父親がお前に紹介した花という娘を覚えているか」

「ええ、覚えています。ここに来たばかりのとき、あの子供には世話になりました」


 そういえば最近彼女の姿を見ていない。

 七条家は孤児の一時保護を撫民政策として掲げている。そのため、男子であれば家督の為に、女子であれば子孫を成す為に、養子縁組などで子供たちは次々と引き取られ、子供の出入りが比較的多い家となる。政範も少女のことを何処かに貰われて行ったのだとばかり思い込んでいた。


「……あの娘を含め女子供十二名ばかりが、人攫いの被害に遭っている」


 乱取り狼藉。敵対勢力から次世代の芽を摘むことは戦略としても効果が高い。なにより人買いから得た金で兵士個人の士気も上げられる。


「大部分は津山で人買いの手に渡ったことは確認がとれたのだが、あの子と姉の二人はそのまま備前に送られた後だったそうだ」


 津山は佐用郡からは徒歩で二日の距離にある。


「その情報はどなたから」

「ああ、ここに居る至岳殿の隣の男からよ」


 則答の言葉に、若い男が大きく頷く。彼の目に嘘はない。


「……こやつ、重要な情報を掴んできたことは褒めてやりたいが、おのれの素性を話そうともせん。おかげで儂も何と呼べばいいかすら分からん」


 男が言葉を発しないには理由がある。彼が祖父を話すべき相手ではないと判断している以上、政範も余計な追及を避けた。


「津山の件、人買いの座の責任者に働きかけますか」

「……否。そこまでの義理はなかろう。此度の案件、至岳殿の頼みでなければそもそも関わりになろうと思わん。せいぜいうちの領民の買戻し程度が妥当だ」


 内政的にも、灌漑の補修に城郭の改修など出費が嵩んでいる。財政難は播磨豪族の常だが、やらねばならぬことはごまんとある。金が無ければ知恵で補うか自分で苦労を買うかせざるを得ない。


「いいだろう。攫われたのは、七条(うち)の家族。お話を聞かせて頂きたい」


 政範がずずいと若い男の前に進み出た。


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