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集う武人達


「ここまで言ったら分かるだろ?」

「まさか……?! 半蔵という男は……陽葵の…………」


 緊迫して静まり返った空気。白露さんはゴクリと息を吞む。そして霞さんはゆっくりと口を開いた。




「ああ、恋人だった」




 あ……陽葵さんの言っていた〝心に決めた人”まさかそれが半蔵さんだったなんて……。じゃあさっきの涙は、桜雲帝国と聞いて陽葵さんの事を思い出したのか……


「……そうであったのか。陽葵は私の妹のような存在じゃった……くっ……」

「だけど、半蔵も前に進もうとしてる。その為にとある集団に属したんだ」


 それなら尚更この人達の力にならないと。せっかく半蔵さんが前に進もうとしているんだ、俺もそれを支えたい。


「ゼルさん、白露さん……手伝いましょう?!」

「あぁ……俺達のけじめもある。……だから、やろう!」

「……うむ。そうじゃの」



 そうだ、あの時俺たちがアーク達を止められなかったから……だからせめて、半蔵さんだけでも……




「殺戮聖域の、とある女が機械を操る魔法を使うらしいんだ。きっとこれはその女の魔法……」

「何故この街をターゲットにしているのじゃ?」

「さあな、相手は機械だ。俺たちの質問には答えてくれない。ただ壊していくだけだ」


 殺戮聖域の連中はこの街にいるのか? そいつを倒せば済む話なんだろ? だが、相手はロボットを自在に操る……ロボットの大群に囲まれるのは目に見えている。そうなると人数不利だな……


 半蔵さんと霞さんは一度の魔法で十体ほど倒せる。ゼルさんは……また誘爆させかねないから休戦してもらうとして……白露さんは攻撃魔法を使わない、俺も魔力が少ないからあまり力にはなれない。


 ゼルさんが戦えないだけでこんなにも戦力が落ちるなんて……まぁ、根源の女との戦闘ではきっと……



「……戻った」


 背後から聞こえた声。その声の主は半蔵さん。

 さっきの表情とは打って変わって、覚悟を決めた武士のようで少しだけ安心したと同時に心配が込み上げた。

 ……でも、ここで問い詰めたらまた辛い思いをさせてしまう。


「ここは手分けしないか?」

 霞さんの案に俺たちは頷いた。ロボットを倒していくグループと、根源を断つグループに分かれるのが最も効率的だ。


「ゼルさんは、誘発しないためにも根源を断つ方でお願いします」

「ああ、任せとけ! 白露も援護頼むぜ」

「分かっておる。イオリと二人はどうする?」


 俺達三人でロボ退治……? ゼルさんたち二人で殺戮聖域の連中を倒せるのか?


「俺は二人に加勢する。半蔵はイオリと組んでくれ」

「承知した」


 なんて気まずいんだ……まぁ、戦力的にも仕方ないと思うし、二人でどうにかするしかないな……。


「日が昇ったら、またこの地下施設で会おう」

 霞さんはそう告げると扉から出て行ってしまった。その後をゼルさんと白露さんも追う。


「俺達も行きましょう」

「うむ」



 夜のキングズ・カラム街はとても綺麗だ。街を囲むように建てられた宮殿。荒廃しきっているが、かつて、その宮殿が魅せた壮大な美しさは計り知れないだろう。

 そして傷の付いた二階建てのバスに、寂れたステンドグラスの窓……廃墟独特の怪しく幻想的な雰囲気。



 霞さんに比べてかなり口数が少ない。隙がないと言えば聞こえがいいが……二人で行動となると退屈だ。過去の話はNGだし、会話に困る……。その分任務に集中できるが。



「貴様も桜雲帝国の人間なのか? 顔立ち、姿勢などが桜雲帝国の人間らしいが」


 またこの質問だ……この質問をされるたびに、どう返したらいいのか頭を抱える。隠したところで何もならないんだがな。


「俺は未来から来たんです。信じられないとは思いますが……三百年後の世界から。今で言う桜雲帝国の様な……日本という場所から来ました」


 丁度、寺院のような建物の前で、半蔵さんは立ち止った。

 中世の大規模なゴシック建築、美しい装飾のステンドグラスが醸し出す独特の雰囲気。そして、数えきれないほどの彫刻に時計の装飾。

 

 壮美なガラスの枠で反射した月光が、半蔵さんの顔を照らした。



「貴様は……時間を操ることが出来るのか?」

「え……?」

「ならば……拙者を過去に……ッ!! ……頼む」


 哀しさを噛み殺し、悔しがるように叫ぶ半蔵さん。

 それが出来るのなら叶えてあげたい。……だが俺に時間を操ることはできない。


「すみません……この時代に飛ばされた理由は俺には分からないんです」

「仕方あるまい……。簡単に過去を変えられるのなら……絶望など存在せぬ」


 半蔵さんは嘆くように呟いた。

 


「どうしてそんなに早く立ち直れるんですか……? 俺だったら……」


 最愛の人を亡くして……こんなすぐに任務に就けるなんて、俺には絶対に無理だ。

 どうしてこの人はこんなにも強いんだ……





「拙者は生きなくてはならぬ。愛する者の為に」





 半蔵さんは迷うことなくきっぱりと告げた。

 陽葵さんの為に……辛さを押し殺して生きているのか……。やっぱり立ち直れてなんていないんだ。でも生きないと陽葵さんが悲しむ事も理解していて……


 ――なんて聡明で強い人なんだ。


「なら、尚更今回の依頼は成功させないと……ですね?」

「無論」


 半蔵さんは覚悟を含んだ眼差しで頷いた。

 俺も、陽葵さんを弔うために、半蔵さんの思いを尊重するために……全力で支えたい。



『我の魔力に値する精霊。汝、我の元に姿を現せ……! 紅玉!!』



 詠唱が終わると同時に舞い散る花吹雪。鮮やかな桜色のポニーテールがひらりと風に靡いた。鮮やかな紅色の女袴が凛としていてこの上なく似合う。


「イオリ様、何用で」

「街中の機械を殲滅してください!」

「承知しました」


 突如現れた女に驚いたのか、半蔵さんの表情は見事に固まっていた。

 そうか、精霊魔法を見るのは初めてなのか……


「こ、この女は一体……」

「私はイオリ様に仕える精霊でございます。お見知り置きを」


 礼儀正しく頭を下げる紅玉。

 長時間紅玉を召喚しているとかなり魔力がきつい……なるべく効率的に早急に殲滅したいところ……



『掃除シマス』



 どこからともなく聞こえてきた機械音。振り返って見てみると、やはりあのロボット。ゼルさんみたいに燃やすんじゃなくて、斬ってしまえばこっちのもんだ。


「乱舞せよ、月下桜!」

 紅玉さんの刀による力強い一閃がロボットを真っ二つに切り裂いた。刀で配線ごと切れたせいかロボットは爆発することなく火花を散らせて静かになった。


「達者であるな」

「お褒めのお言葉、感謝します」

 この二人、こうやって見ると師弟のように見えるな。まぁ、二人ともれっきとした武人、当たり前か。


「では拙者も……須佐之男命よ、敵を薙ぎ払え!」

 半蔵さんの、蒼い光をまとった刀は数体のロボットを纏めて一刀両断してみせた。こんなにも艶やかな剣技を間近で見た俺は、あまりの美しさに言葉を失った。


 なんて美妙な刀捌きなんだ……一朝一夕では絶対に物にできない、努力と意志の詰め込まれた繊細な技。紅玉さんが舞うたびに儚く揺れる花びらも、半蔵さんが纏う蒼い光も。無駄な動きは一つもなく、全てが魅せる技のように美しい。


「イオリ様、増援です。魔力を溜めて下さい!」

「はい!」

 く……見たところ五十といったところか? 俺の魔力が切れる前に殲滅できるだろうか。半蔵さんだけの負担にならないように何とかして魔力を……




 ◆◇◆




 あれから三十分程経過した。椀子蕎麦のように倒せど倒せどまた新しいのが現れる。やっぱり根源を絶たない限り、生産され続けるのか……もう魔力が限界だ。



「イオリ様、お気を確かに!」

「斬っても斬っても現れるか……これでは埒が明かぬ!」


 こんな時に……目の前が霞んできた。もう少し、もう少しだけ魔力を……半蔵さん、すみません。俺の魔力が消えたら紅玉も消える……どれだけ強い半蔵さんでも一人でこの数なんて……


 一体どうすればいいんだ。一旦退散した方がいいのか? だが……



「また増援……?! これ以上は……。退きましょう!!」

「無理だ……囲まれている……」


 なっ……?! 気付かないうちに敵の増援が俺たちを囲んでいた。その数は少なくとも百は超えているだろう。そして俺の魔力はもう底をつきそうな程。半蔵さん一人では……無理だ。


「イオリ様、最後の一撃を放ちます! 残りの魔力を集中させてください!!」


 この魔力で放てる最後の一撃……これでどうか、半数は削ってくれ。頼む……!!





 ――……キィン



 

 静かな街に反響する金属音。ワンテンポ遅れて目の前のロボットが真っ二つになって倒れる。目の前の景色が開けた……。


 一瞬で目の前の敵が消えた。何だこの殲滅力は……




 カチャリ、と剣をしまうような音が、背後から聞こえた。



「なっ……?!」


 振り返ると、そちらも同様、ロボットは全て真っ二つに切り裂かれ、火花を散らしていた。

 そこに凛々しく立つのは一人の女。


 その女の桜色の眼は俺達をまっすぐと映していた。

 色素の薄い、淡藤色の髪を後ろで一つに結い、丈の短い着物を身に纏い、鼻から先は薄い布で隠されている。


 忍者……いや、殺し屋と形容したら良いんだろうか。瞳だけしか見えていないのに、悪寒がする程の殺気がひしひしと伝わってくる。



「……何奴」

 紅玉が刀を構えるも、その女は全く動じていないようで、無言のまま。

 こんなにも強い殺気を感じるのに、一切魔力を感じない。暗殺魔法の一種で魔力を出さずに隠すことが出来たりするのだろうか?


「貴様は……何者だ?」

 半蔵さんは強めの口調で問いかけた。その質問には疑いの念も込められているようだ。

 そうか、霞さんの言っていた殺戮聖域の連中で機械を操る女……。だったらどうしてこのロボットを壊したんだ?





(わたくし)はこの街の警備兵でございます」





 女は静かに口を開いた。



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