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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
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天使の加護


 月を背に、六枚の羽のシルエット。この天使は……精霊か? 月影のせいで顔がはっきりと見えない。


「イオリ、フルル、リリアンにアスタロト。君たちの魔力を辿って助けに来たよ」

 俺たちの事を知ってる……?! それに、この声……もしかして!


「セラフィム王子?!」

「ああ。もう安心して大丈夫。あとは全部任せてくれ」


 ふわりと空から舞い降りてくる天使。ゆっくりと着地すると、ニコリと微笑んだ。

 やっぱり……! 王子だ。確か王子は魔力を持っていなかったはず。それなのにどうして、こんな魔法みたいなことができるんだ。


「貴様がアンジュの王か」

「ああ、そうさ。君はサリー姫の第一家来、ルプスだね?」

 どれだけ睨まれても笑顔で返す王子、聖人を通り越してなんだか怖い。


 そうだ。今の事で忘れていたが、この緑色に光る雨……なんて心地良いんだ。疲れが、魔力が回復していくようだ。


 ――こんな風に温かい光……前にも感じたことある。

 あの謎の精霊と似てる、あの青い光に……



「王子、この魔法は……」

 俺は思わず、王子に問いかけた。この光の正体が何なのか、知ったらあの精霊にもう一度会える気がしたから。



「これは魔法ではない、天使の加護さ」




 天使の加護……そうだ、あの精霊にも天使の羽が生えていた。今の王子と全く同じ……。あの精霊は、精霊ではなく天使なのか?



「僕には、ウリエルの加護がある。その力で……皆を助けよう」


 王子はそう告げ、目を閉じると、羽は緑色のオーラを放ち始める。その周りには一際温かい光が……



「神の光を持つ者・大天使ウリエルよ。今、僕の仲間を救い給え」

 王子がそう誦すると、その六枚の羽は一層強く光を放った。緑色の光で周囲は何も見えなくなる。

 ここには俺一人しかいないのか? そんな疑問さえわいてくるほどに……。


 そこに浮かび上がってくるシルエット。特徴的な長い髪にスラリと長身の男は、背に四枚の羽を生やしていた。紛れもなくあの時の精霊だ。


「あのっ……!! 俺は、どうすれば皆を守れるくらい強くなれますか……?! その為には貴方の力が必要なんです、だから……!」


 必死に俺は叫ぶ。……心の高ぶりと焦りを抑えきれない乱れた声で。

 次はいつ会えるか分からない、もしかしたら二度と会えないかもしれない。


 そんな俺の声も届かなかったのか、精霊はただ俺に微笑むだけ。

 やっぱり、俺がこの精霊の元に辿り着くしかない。俺が答えを見つけられるくらい強くならないと……!




『そうだ、それでこそ……』





 最後に聞こえたのは、心の中に響く澄んだ声……。

 そこで俺の意識は途絶えた。



「さぁ、目覚めの時だ」


 聞き覚えのある爽やかな声質と、ふわりと感じる温かさで目が覚めた。

 さっきのは夢だったのか? いや、あの光景はあまりにも現実的で、いつまでも残像みたいに目に焼きついて離れようとしない。


「皆、安心してくれたまえ。ツクヨミは浄化され、月に還した」

「そんな、一体どうやって……!」

「天使の加護は、全ての悪を浄化するんだ」

「それって……」


 〝俺は存在しては駄目なんだ。バレてしまっては全てが壊れる、君にも俺にも影響する”


 俺の声を遮るように、言霊が脳裏を過る。

 そうだ……これを言ってしまったらすべてが壊れてしまう。



「フルル?!」

 アスタロトさんの、叫びに近い呼び声が辺りに響き渡る。

 声のした方を見ると、瞬きもせず、無表情のまま涙を流すフルルの姿が。

 一体何が……? そう思った瞬間に答えは簡単に浮かび上がった。


 きっと俺だけじゃない、フルルも夢を見たんだ。きっとフルルの夢の中には……昔の仲間が現れたんじゃないか?


「……フルル」

 俺はフルルの頭にそっと手を置いた。そして優しく撫でる。するとフルルはハッと俺の顔を見上げた。


「あ……イオリ、それに皆……どうしたでござるか……? あれ、何で涙が……」

「辛い時くらい、あたし達に頼りなさいよ……。どんなに強がろうとしても、絶対に分かるんだからね?!」

「わたしも……フルルの力になる」



 アスタロトさんとリリアンはフルルをぎゅっと抱きしめた。それに安堵したのか、涙を流しながら微笑むフルル。



「昔の事を思い出したんでござる。……でも、皆がいるから大丈夫……悲しくないでござる!」



 まったく、三人の友情には敵わないな。と俺はため息をついて少し距離を置いた。不思議と頬が緩む。

 でも、これで全てが終わったのか? ソルシエールの国民は一体どうなったんだ? それに……消えた出口は……


「お兄ちゃん! 道が出来てる……! これで僕たちは帰れるはず!」

 ディアーブルのガキが指さした方向に視線を送ると、今までは無かった一つの大きな道が出来ていた。こんな道、来る時もなかった。これも天使の加護の力……?



「矢神はまだ意識がないのか?」

「魔力は生命力とリンクしている。三日は目を覚まされないだろう」

「そうか……」

 

 自らの生命力を三日分削ってまで仲間を助けようとした。まさか矢神が? 自分でも信じられない。

 だけどあの瞬間のアイツの眼……今でも覚えている。普段はあんなに高圧的で冷酷な目をしているのに。悔しいが今回はアイツに助けられた部分も沢山ある。


「お前らの事、散々罵って悪かった。やり方は気に入らないが、今回は助かった。……ありがとな」

「……戯言を」



 いつもの冷たい表情でため息をつくと、ルプスは矢神を抱きしめた。


「……姫。安心してください。無事に連れて帰ります」

 目を覚ますことのない矢神を、大切そうに抱きかかえると、そのまま何も言わずに馬車の方へと去っていった。


 ルプスが、手に届かないものをずっと独りで想い続けているのも分かっている。

 だからこそ、何か複雑なんだよな。


「僕たちも帰ろう。もうじきゼル達が戻ってくるらしい。その前に帰らないと……怒られてしまうからね」

「はい。本当にありがとうございました。王子のおかげで……沢山の命が救われました」

「それが僕の存在意義だからね」


 それだけ言い残すと、王子は姿を消した。

 まるで、そこでは何もなかったかのように、来た時と同じ景色が広がっていた。それがあまりにも不気味で、思わず身震いした。




「さ、俺たちも帰るか」

「そうでござるね!」




 疲れ果てたのか、寝息を立てながら眠る皆をよそに、俺は窓の外を眺めた。


 こうやって、全員で無事に帰れることに感謝しないとな。

 今回は王子が助けてくれたけど、王子が来てくれなかったら確実に俺たちは死んでいた。


 俺ももっと強くなって、あの精霊に認めてもらえるように成長しないといけない。……そして皆を守る。


 その為に必要な五大精霊は俺の契約している二人と、矢神とアークの元に一人ずつ……残るは一人。

 だが、矢神とアークから精霊を奪う事はできるのか……?




 今の俺には不安しかなかった。

 これから先、絶望が訪れるかもしれない。

 

 その時、俺は戦えるのか? 皆を守れるのか? そして……元の世界に帰ることはできるのか?




「イ……オ…………死なないで……」




 ――アスタロトさん……?


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