34:思わぬ遭遇
裏庭と部屋を往復するだけの生活が続いていた私にとって、久々の「外出」。
なぜか自然と、身が引き締まる。
ウィル様はジャケットを羽織ると、懐に私を押し込んだ後に、ボタンを一番上まで閉めた。
「猫狩りの正体が分からない今、おまえを連れて堂々と城内を歩くのは危ないしな。
その点、演習場は安心だ。居るのは下っ端の騎士ばかりだし、猫狩りを雇えるようなリッチなやつなんていねー。演習場に着いてからなら、顔を出してもいいぞ」
そう言いながら歩き出すウィル様。
私は視界が閉ざされた中、彼の歩く振動と、耳から飛び込んでくる音だけで、周りの状況を伺った。
ウィル様がしばらく歩みを進めた時だった。不意に、後ろから声が響く。
「ウィル」
声だけで、それがルドルフ様であることがすぐにわかった。
瞬間、なぜか頬が熱を帯びる。
「あぁ、ルド様。会議はもう終わりまし……」
ウィル様が何かを言いかけたその時、私の身体が、服の布越しに掴まれた。
「ここにいるのは、ポラリスですか?」
「えっ、いやその」
ウィル様の返答を待たずに、ルドルフ様は彼のジャケットの第一ボタンを外したようだ。
私の耳は、ウィル様の胸元から勢いよく外に飛び出た。
「……やっぱり。これは私の飼い猫ですよ。持ち出そうだなんて、何を考えているんです?」
恐る恐る視線を上げると、そこには眉を寄せたルドルフ様がいた。
「いや……たまには裏庭以外の場所に出してもいいかなぁ、なんて。
今丁度、演習場で騎士達が戦闘訓練を行ってるんですよ。それをねこすけに見せてやろうと思って」
「私の許可なく?」
「だって、ルド様、ねこすけに超過保護だし、言ったら絶対反対されるだろうと思って……。
でも、こいつがいるって、よくわかりましたね」
気まずそうに頭を掻くウィル様。
ルドルフ様は、小さくため息を付く。
「あなたは普段からジャケットを着るのが嫌いでしょう?
なのに今日は、それを着用しているだけでなく、第一ボタンまで止めている。
しかも、胸元が少し膨れている。なにか隠していると思うのが自然でしょう」
そう言いながら、ルドルフ様は私を、ウィル様の懐から取り上げた。
「確かに、メイドが変わって寂しいだろうから、たまにポラリスの様子を見てほしいと頼んだのは私です。が、最近、あまりに接触の頻度が多くはないですか?
これでは、誰が本当の飼い主か、わからないではありませんか」
(え、これって)
私が何か思うより早く、ウィル様が口を開く。
「え、なんすか。俺に妬いてるんすか?」
「妬いてなどいません。ただ、最近少し……二人の仲が……良すぎるな、と思って……」
そう言いながら、ルドルフ様は少し強めに抱きしめる。
そのあまりに可愛らしい拗ねっぷりに、私の体は熱を帯び始める。
そんなルドルフ様を冷たい視線を送るのは、ウィル様だ。
「……あんた、だいぶ重傷ですよ」
彼は呆れた声で、そう言った。
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