表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

6

 メセトラ王国。


 太陽神に祝福された黄金の都。


 巨大な神殿群。

 香油の香り。

 磨き抜かれた白い石床。

 色鮮やかな壁画。


 本来ならば世界でもっとも華やかな宮殿の一つであった。


 だが現在。


「のだぁあああああ!!!!

 汚いのだぁああああ!!!」


 王城全域に銀髪男の絶叫が響いていた。


 ドゴォン!!


 巨大な壺が窓から投げ捨てられる。


「なんなのだぁこのホコリぃ!!

 角に溜まってるのだぁ!!

 あと香油臭いのだぁ!!

 混ぜるなのだぁ!!」


 侍女たちが震えていた。


「ま、魔王……」

「また掃除してる……」

「三日寝てないらしいわよ……」


 そう。


 レイは現在、王都全域の“大掃除”に取り憑かれていた。


 街路清掃。

 下水整理。

 死体焼却。

 井戸浄化。


 しかも異様に強い。


 神殿兵が百人で囲んでも勝てない。


 巨大魔獣を片手で捻り潰す。


 神官魔術も効かない。


 結果。


 王都の住民たちは現在、


「怖いけど街が綺麗になってる……」


 という意味不明な状況に陥っていた。


 そして今。


 レイは王城の大掃除を始めていた。


「のだぁ!!

 カーテン洗うのだぁ!!

 あとこの絨毯ダニいるのだぁ!!」


 バリバリバリ!!


 超高級絨毯が引き裂かれる。


「や、やめ――」


「汚いのだぁ!!」


 侍女が泣いた。


 その時。


 玉座の間の巨大扉が開いた。


 ギギギギギ……


 静まり返る空間。


 現れたのは。


 黄金の頭飾り。

 透き通る褐色肌。

 黒曜石のような瞳。


 メセトラ女王・ネフェルセト。


 太陽神の化身と称えられる絶世の美女だった。


 侍女たちが一斉に跪く。


「陛下……!」


 女王は静かにレイを見つめた。


 そして。


 ゆっくり口を開く。


「……お前が“黒き災厄”か」


「のだっ?」


 レイは振り返った。


 数秒間。


 両者は見つめ合った。


 侍女たちは固唾を呑む。


 女王は美しかった。


 黄金文明の頂点。

 神殿が育て上げた芸術品のような存在。


 男たちは皆跪き、

 神官たちは歌を捧げ、

 周辺国の王すら魅了された。


 その女王を見て。


 レイは。


「…………」


 真顔になった。


 嫌な沈黙。


 侍女たちが青ざめる。


 そして。


「のだぁ?」


 レイは顔をしかめた。


 女王が僅かに眉を動かす。


「……何だ」


「あり得ないのだぁ」


 空気が凍った。


「……何?」


 レイは鼻を押さえながら後退した。


「よ、よくそんな状態で人に触れるのだぁ!?」


 侍女たちが固まった。


 女王も固まった。


 レイは本気でドン引きしていた。


「香油塗りすぎなのだぁ!!

 汗と混ざって変な臭いになってるのだぁ!!

 あと髪!!

 砂入ってるのだぁ!!」


 侍女たちの顔色が消えた。


 今まで。


 今まで誰一人として。


 女王にそんなことを言った者はいなかった。


 絶世の美女。

 太陽の化身。

 黄金の花。


 それがネフェルセトだった。


 なのに。


 銀髪男は本気で嫌そうな顔をしていた。


「最低最悪なのだぁ!!

 気遣いって知ってますのだぁ!?」


「…………」


 女王は人生で初めて言葉を失った。


 侍女たちはオロオロしていた。


「ど、どうするの……」

「止めたいけど近づけない……」

「近衛兵全滅したじゃない……」


 そう。


 昨日。


 近衛兵団長がレイを止めようとして死んだ。


 レイが「雑菌触るななのだぁ!!」と言いながら反射的に吹き飛ばしたら壁に埋まったのである。


 ちなみにレイはまだ「ちょっと押しただけ」と思っている。


 女王は静かに口を開いた。


「……余に、汚いと言ったのか」


「のだっ?」


 レイは本気で驚いた顔をした。


「当然なのだぁ!?

 むしろ今まで誰も言わなかったのだぁ!?」


 侍女たちが震えた。


 終わった。


 絶対死ぬ。


 だが。


 女王は怒鳴らなかった。


 ただ。


 呆然としていた。


「余は……」

「生まれてからずっと」

「“美しい”としか言われたことがない」


「周囲がおかしいのだぁ」


 即答だった。


「顔は良いのだぁ!

 でも衛生観念が終わってるのだぁ!!」


「衛生……」


「まず風呂なのだぁ!!

 あと髪洗うのだぁ!!

 香油で誤魔化すなのだぁ!!」


 レイはズンズン近づいた。


 侍女たちが悲鳴を上げる。


「ひっ……!」


 だが。


 レイは女王の顔を覗き込みながら真剣だった。


「あとぉ」


「……何だ」


「目の下ちょっとクマあるのだぁ」


 女王が止まった。


「睡眠不足なのだぁ?」


「…………」


「のだぁ?

 図星なのだぁ?」


 ネフェルセトは沈黙した。


 王位継承争い。

 神殿勢力。

 周辺国家。

 洪水管理。

 税。

 飢饉。


 女王はずっと眠れていなかった。


 だが。


 誰もそれを指摘しなかった。


 美しい。

 神々しい。

 完璧だ。


 皆それしか言わない。


 レイだけだった。


 本気で「顔色悪いのだぁ」と言ったのは。


 レイは腕を組んだ。


「うむ。決めたのだぁ」


「……何をだ」


「お主、今から掃除するのだぁ」


「は?」


「あと風呂なのだぁ」


「余に命令するのか」


「汚いから仕方ないのだぁ」


 侍女たちが卒倒しかけた。


 だが。


 女王は怒らなかった。


 むしろ。


 人生で初めて。


 本当に自分を見られたような気がしていた。


「…………変な男だ」


「のだっ♡」


 レイは得意げだった。


「うむ!吾輩、超絶綺麗好き魔王なのだぁ!」


 そして次の瞬間。


 レイは女王の腕を掴んだ。


「行くのだぁ!!」


「なっ――」


「全身洗浄なのだぁあああ!!!」


 女王ネフェルセトは。


 生まれて初めて。


 誰かに風呂場へ強制連行された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ