【第二話】 誰の為に
無造作に置かれた汚れてつぎはぎだらけの椅子の座り心地に僚太は眉をひそめた、だが理由は他にもある。
それは目の前の席に座るハイネスが先ほどから口を閉ざしたまま薄汚れた紙と睨めっこをし始めて数時間立つからであり、部屋の中はお世辞にも綺麗とは言い難く埃まみれで喉に絡みつくツバが不快であるからでもあった。
時計の針を眺めた僚太はとうとう我慢できずに椅子から立ち上がり歩きだすと破れたカーテンを力任せに引っ張りながら文句を言い始める。
「もう無理だ!! なにか言ってくれないか、ただでさえ生きた心地がしないんだから」
「まぁそんなにせかすな、慌てた所で何もかわりはしないんだからな、それに最初が肝心だ......どこから仕掛けるか間違えれば我々の負けは確実」
「こっちは聖剣を持った人間が二人、よほどの事がなければ__」
「あぁそうだな、貴殿も私も生身の人間だな......聖剣を扱えているだけの人間なんだよ」
紙に視線を向けたままのハイネスが怒っているのかは僚太には分からない、だが彼女の淡々と話す口調にはトゲがあったのは言うまでもない。
それから部屋の壁に掛けてある埃まみれの時計がやかましく鳴り出すのを合図にドアを二回ほどコンコンと鳴らす音が聞こえて来る。
暫く紙と睨めっこをしていた彼女は僚太に視線を向ける、その眼の奥には冷たく刺さる何かを感じつつ彼はドアを開けようとしたその時。
「待て__何かかおかしい、貴殿はそのまま下がれ......」
「なんだよ、部下のリュアさんじゃないのか?」
「あいつには別の頼みを聞いてもらっているからな__おいそこに居るのはだれだ」
ハイネスの呼び声に反応はない、彼女が扉へとゆっくり近づき始めるのを僚太は見ていた。
扉に手を掛けた時であった、大きな鈍い音を立てて扉が弾け飛ぶと窓をガラスを突き破っていく。
反転したハイネスはすでに僚太の手を掴んでいてポッカリくちを開けた穴を抜けて外へと飛び出す。
「あやつ、人の家を何だと思っているのだ__まぁそれより僚太、貴殿の迎えが来たぞ」
「こんな物騒な迎えなんかごめんなんだけど!!」
二人が見つめる先の壊れた壁に大きな手が掛かると体の重さで崩れ落ちた、舞い上がった砂埃の中には醜い巨体が顔を覗かせる。
大きな鉄の斧を持っていて見るからに鈍くさそうな人物の片目には義眼のようなモノなのか瞳は見当たらずそれが不気味であった。
口からヨダレを垂らしたその男は焦点の合わない目でハイネスを見つめ始め、その異様さと気味の悪い表情に嫌気がさしたのか彼女の目付きはより一層と悪くなる。
「あの王子はあんな者まで雇っていたのか__不快極まりないな、いや正直に言って前から気が付いてはいたんだがな」
「あれは、ギルド所属の人間なのか......」
「まぁおおよそその判断が正しいな、だが腕を見てみろ」
「罰印が書いてあるな、あれはどういう意味なんだ?」
「簡単に言ったら、ギルドから追放された末路だ__」
彼女の口が閉じる瞬間もうすでに男の懐に飛び込んでいた、切り上げる聖剣から劫火が咆哮をあげると火の粉が辺りを焦がす。
だがその巨体からは想像もつかない挙動でいとも簡単にかわすのを僚太は見逃さなかった、体を仰け反らせて下がる男を追うように僚太も仕掛ける。
空を斬る鋭い音が響き渡るが二人の剣先が男に届くことは無い、僚太はたったそれだけでこの目の前に立つ男がただのゴロツキではないと確信した。
「死線を乗り越えてきた数が俺よりあっとうてきにおおい、だけどな__こんな所でじゃまされてる暇なんかねぇーんだよ」
影の無い所ではスカディナは息を潜めて力を発揮しない、だが聖剣の能力を補う程度には彼は強くなっていたのだ。
残像へと変わるほどの速度の斬撃を捌く男の額には焦りからなのか汗が見え始めていた、僚太の視線は男の手にする斧へと集中していてその斧には亀裂が入っている。
何度目かの斬撃に後で男の持つ斧は弾け飛ぶと地面へと勢いよく刺さるのを見送った男は拳を構え始め。
「グへへッ~予想よりお前強いな、あの野郎が言ってたのとちがうじゃねぇか__聖剣の力に救われたな」
「オッサンそれはちげーよ......俺に剣を教えてくれた人がいたんだ__あの人に教えられたんだよ、正しい剣の使い方ってのをな!!」
「何を言ってんだ、もうどうでもいい、捻り殺してやる」
「俺の強さと__あんたの強さ__決定的にちがうことは__誰の為に使うかだ!!」
掴みかかろうと迫る巨体の股に滑り込み男の背後を取った僚太はスカディナを構える。




