ヴォルター総長との会談
スマホで見てみると、一話2,000字以下だと読み応えがないですし、5,000字近くなるとスクロールが面倒になってしまう気がして、その間で調整を心がけてみることにしてますが、なかなかうまくいきません。
表向き、ヨハンは怪我をして、休養していることになっている。
今しがた来客があり、首にコルセットを巻いて、対応している。
俺の方は一人でアイデアを纏めていく作業に入っている。
まだ、読み書きは出来ないので、日本語で、アイデアを纏めていく。
基本的に、現代日本を理想として、国作りを考えたいところであるが、根本的に思想が違う。
それに、先ず、すぐに成果を挙げる事のできるものも必要である。
戻って来たヨハンに、纏めたアイデアについて説明していく。
「僕の出世が前提のように見えるが。」
「そうだ。実現には長い時間だけじゃなく、相応の権力と金が必要だ。その為には、お前にも実績を挙げてもらう必要があるし、儲ける必要もある。俺の未来の知識がを生かすにはお前が必要だ。」
「で、アンタは何を手に入れる。」
「自己満足。それと、多少裕福な生活かな。それに、元の国に帰る方法も探してみるのに、自由も少々必要だ。」
「表に出るのは嫌なんだな。」
「地位や名誉には興味ないし、偉くなると好きな事ができなくなる。さて、さっさと書き上げようぜ。」
「僕が書くんだろ。」
「仕方無いだろ、読み書きが出来ないんだから。」
詳細を詰めながらヨハンに筆を進めさせる。
ペーパーへの落とし込みは、二週間の期限を一日余らせたが、結局、じっとしていられず、次の段階にと思っていた作業を前倒ししていた。
そして、登城当日を迎えた。
使用人の格好に、頬っ被りで、ヨハンに付き従うように、門をくぐる。
この辺りでは見慣れぬ国の人間だから、と思ってやってみたが、余計に目立ち、衛兵に止められそうになった。
先日事情聴取された客間の円卓に通されると、ヴォルター総長が一人で座っていた。
「お待たせしました。」
「待っていたぞ。座れ。」
「はい。」
ヨハンは、頷いて、そのまま座る。
二人の親密さもあるが、ヴォルターの格式張っていないところもあるのだろう。
「先日は右も左も分からぬ状況で、大変な失礼をしていたにも関わらず、私如きの為に、この様な機会を設けて頂きました、総長閣下のお心の寛さとお気遣いに感謝の余り、お礼の言葉もございません。」
一応、声を掛けて会釈ぐらいはしておく。
驚いた顔を見せる。
「もう、喋れるようになったと思ったら、いきなり堅苦しいのう。」
「お借りしたスクロールと、ヨハン殿の協力のお陰です。」
貴族化した騎士が多い中、ヴォルターは何代もこの地の最前線を守ってきた家柄で、彼自身も武人に近いような雰囲気を醸し出している。
「ほう、あのスクロールにそんな使い方があったとはな。」
「いや、意図はしていませんでした。」
「今日は儂しかおらん。楽にせい。堅苦しいのは要らん。」
ヴォルターが総長に選ばれた経緯も、東方からの侵略を受けていた当時、逃げられぬように、その矢面に立たせる事が目的だったのだ。
「さっさと始めてくれ。」
「では、この騎士団領の変革する計画をご説明いたします。」
そう、言いながら、書類を円卓に広げる。
「私自身、平民ですので、平民の生活向上に焦点を当てたいところですが、喫緊の課題として、末端の騎士・貴族層の疲弊が平民の生活を圧迫していると見受けられますので、そこから手を付けることになります。」
書類を指し、まずは、大まかな項目の説明をしていく。
・税の取り方の変更
・資本のある騎士・貴族の産業活動
・職業軍及び警察機構の設置
・冬季の食料事情の解消
・公衆衛生概念の浸透及びインフラの整備
・金融システムの構築
「もう、今まで通りの騎士は要らんと言う事か。」
「今まで通りでは、もうやっていけなくなると言うことです。このままの状態が続けば、飢饉や大規模な物価の上昇を切っ掛けに、大規模な反乱が起こるでしょう。」
「ほう。」
「所詮、騎士は国民全体の一割程度しかいません。武力や財力のある方であれば、何とか難を逃れることが出来るかも知れませんが、引き摺り下ろされた方はどうなります。それに、反乱が起これば、その鎮圧、その後の復旧など、大きく国力を削がれます。隣国がそんな事態に陥れば、私なら反乱に力を貸し、領土と利を得ようと動くでしょう。」
まぁ、隣国も同じ状況になっている可能性が高いが。
「確かに。」
「さて、一つ目については、以下の政策が効果を発揮する為の時間稼ぎです。今までのような、地代ではなく、作付け面積あたり一定の単価を決め、毎年物価を反映させて見直すことで租税の額を求め、安定した税収を確保します。出来れば、結婚税など、金が足りないから、思い付いたような不要なものを無くしていく事で不要な反感を買わないようにしたいところです。」
ここで、一息入れる。
「ここは、寒冷な土地で、冬は雪に覆われることで、著しく食料事情が悪化します。子供の生存率を高めるために公衆衛生の向上とともに、本来なら先に手を付けたい所なのですが、その為の元手を稼ぐ必要があるので、騎士・貴族に稼がせます。」
懐から、紙包みを取り出して広げると、白い大粒の結晶が何粒か出てくる。
「これが何だか分かりますか。」
そう言って、一粒口に入れる。
ヨハンは何粒か摘むので、手首を掴んで止める。
「さっき、味見しただろ。」
「良いじゃないか、少しぐらい。」
総長が結晶に手を出してくる。
ヨハンのお陰で、良い喰い付きぶりだ。
総長が目を張る。
「砂糖か。」
「その通りです。これは、昨日作ったものです。」
「昨日作っただと。どういう事だ。」
砂糖は通常温かいところで栽培されたサトウキビから作るのが一般的で、この国だけでなくほとんどの国では高級な輸入品である。
「言葉通りです。輸入した物ではなく、テンサイから作ったんです。」
「テンサイだと。家畜の餌ではないか。」
「ですが、私は作るところをこの目で見ました。紛れも無くテンサイから砂糖を作ったのです。」
味方をしてやったという顔をすると、ヨハンが躊躇なく指の腹に砂糖をくっつけて、舐める。
これが、女の子だったら、可愛い奴めなどと思うのだろうが。
「なる程、全く思いも付かなかった。」
言いながら、総長も砂糖を舐める。
こちらは、確かめるような様子で舐めている。
「世界中が欲しがる砂糖ですが、ここで生産すれば、遠くより運ばれて来る物より安く出来ます。砂糖は巨大な利益を生む交易品となり得ます。これから説明する、政策には、効果がありますが、巨額の費用が必要なため、その原資として使って頂くためです。それと、これからの話を信用してもらう意味も込めて、ヨハンに作り方を見せました。」
「自分でその利益を得ようとはせんのか。」
「騎士の鑑で在ろうとする総長閣下を信用して、先に取引材料を見せただけです。それから、出し惜しみして、時間を食うのは、勿体無い。財を成す事だけが目的ではありませんし。」
一息つけて、反応を確かめると悪くはないようだ。
「このテンサイについては、製法を騎士・貴族に教え、設備投資させることで、安定的な収益を手にさせます。ただし、製法もさほど難しいものではなく、暴利を貪ろうとすれば、農民から見限られるリスクがあるため、上手くやっていくには、多少の商才が求められますが、貿易で得られる国富で、騎士も農民も双方潤う事になります。」
一息つけ、資料を捲る。
「次に、商いに偏見がある又は商才に乏しい騎士達を救う必要が出てきます。」
「騎士を救うか。確かにな。もう、商人に取って代わられる時代になったのかも知れんな。いや、農民にも追われる者が出てくるか。」
そう呟く、ヴォルターの表情は、苦々しいものであった。
敢えて、嫌がる言い回しで、反応を見たかったのだ。
総長に、選ばれたのは、領主たる才覚も買われていたこともあったのだろう。
ヨハンに目配せすると、それを受けて、新たな書類とスクロールを取り出し、ヴォルターに問う。
「農民とも異教徒とも、肩を並べて国を治める時代は、いずれは来ます。未来を覗いてみる覚悟はごさいますか。」