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ヨハン

 果たして、ヨハンの所に厄介になる事になった。

 ヨハンの屋敷は城からそう離れておらず、かなりの広さだ。

 ブロックの四分の一を建物が占めており、厩舎と芝生と園庭がもう四分の一を占めている。

 建物は三階建の白い壁に、青い屋根が付いており、美しいが、シンプルだ。

 思ったより、位の高い貴族だったのかも知れない。

 室内は、それなりに豪華な調度品が占めているが、けばけばしさはなく、落ち着いた雰囲気だ。


 三階の屋根裏にある使用人が使う部屋を充てて貰い、服も目立たないよう、使用人の物を貰う。

 シャツにベストかチュニックか判断が付かないような物に、下は半ズボンにタイツみたいなのだ。

 タイツみたいたが、現代の物のように伸びてフィットするような物ではない。

 ランニングタイツとショートパンツの組み合わせみたいだ。

 ショートパンツだけ履いてみたら、品が無いからと止められたので、ダボッとしたパンツの方にしてもらった。

 そこまで準備が出来たところで、応接間に通される。


 ヨハンと二人きりになり、卓を端に避け、スクロールを敷き、真ん中に座る。

 向かい合うように、椅子を置き、ヨハンが座る。

『何故、俺を巻き込んだ。』

『人柄、コネクション、敏いところもな。こんなに良家の貴族とは思わなかったけどな。』

 表情は険しい。

『何をする積りだ。』

『このスクロールで、君から情報を得たい。それを元にこの国を発展させられるような技術や政策を練り、それを買ってもらって、生活基盤を整えたい。俺だって、生きるのに必死だからな。』

 両手を広げて見せてみる。

『ただ、このスクロールを使うということは、俺の知識を分け与えることになる。これは、相当なメリットだと思う。しかし、欲に飲まれ、溺れたり、悪用される可能性もある。闇雲ではなくきちんと問題点を分析したうえで俺を疑う思慮深さ、分別、義理堅さ、必要な素質が全て揃っている。俺は運が良かった。君しかいない。』

『俺が協力しなかったら、どうしていた。』

『その時は、別の方法を考えたさ。一応、騎士団総長子息の命の恩人だからな。金をせびるなり、何なりしてたよ。元々、そうする積りだったからな。』

『俺は裏切るかも知れないぞ。』

『信じるってのは、裏切られても構わないと思える事だと、俺はそう考えてる。』

 座り直して、仕切り直す。

『さて、ここから、具体的な進め方って言っても大したことは無いけど。思い付く限りの事を問答する。君が知りたいと思ったら、逆に聞いてくれ。重要だと思ったことは、書き取りしておく。以上だ。』


 スクロールを使っての問答は、想像を遥かに超える作業となった。

 半ば意識を共有した状態であるため、単純な情報の取得ではなく、経験や感情を伴い、莫大な情報量が二人の間を流れる。

 脳がパンクするかと、本気で心配する程であった。

 ヨハンの知識欲を刺激したようで、かなり乗り気になってくれた。

 それが一つ嬉しい誤算を産んでくれた。

 彼が俺の知識を問い直してくれる事で、より多くの語彙に触れ、発音も併せて伝わることから、言葉の理解が急速に進んだのだ。

 十日を過ぎる頃には、日常会話には、不自由しなくなっていた。

 下手な英語教材より効率が良いなどと思ったが、講師を十二時間、十日間拘束するなど、有り得ないから、比べても仕方がない。


 何故か、男が納屋で二人並んで、身体を拭いている。

 浴槽、入浴の文化が一旦廃れ、今に至っているようだ。

 ここに来てから三回目の清拭だ。

 日本人としては、東からサウナの文化が入って来る前に、風呂の普及に努めていきたいところだ。

 今日から、政策を考える段取りにしており、休憩も挟むことにし、今からその休憩に入るところだ。

「最近、君も稽古してないだろ、今からしないかな。ついでに、俺にも教えてくれよ。」

「そういえば、ベルンハルトを助けた時に使った技を教えてくれよ。」

 ベルンハルトのことは基本的に呼び捨てらしい。

 普段から剣を教えているのもあるが、トリヴォニア騎士団の総長は、互選され、世襲はしないので、その子供にまで媚びる必要も無いこともある。

 実はヨハンの家柄は、総長になってもおかしく無いぐらいのものなのだ。


 ヨハン・フライターク・ローリンクホーヴェン、それが、彼のフルネームだ。

 ローリングホーヴェン家は、先代から、トリヴォニアに派遣されることになり、彼の父は本国ヴィリニュスに帰る日を心待ちにしている。


「嫌だ。教えると、効かなくなるし。」

「じゃあ、僕も教えない。」

「子供じゃないんだから。でも、他の人間には、絶対、教えないって約束するなら、教えてやるよ。」

「約束するよ。確か"カラテ"だったかな。」

「ああ、でも、習った空手じゃなくて、色々してるうちに覚えたものだから、空手でもないかな。ただ、素手で戦う技術なんて、そんなに役には立たたんよ。同じ素手でも、柔術なら、鎧を着たことを想定した技術だから、役に立つんだろうけど、知らないし。」

「先に剣の稽古からしよう。体を動かせば、役に立つ技を思い出すかも知れんし。」

 いい歳のオッサンでも、プライドの欠片ぐらいはある。

 先に手の内を晒して、何も無しにやられてやる必要もない。

「分かったよ。でも、約束は守ってくれよ。」



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