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リトヴィン

 グロニスク領リトヴィンでは、今年の冷夏で飢饉が起こっている。

 トリヴォニアでは、元々、蕎麦の生産も多く、今春からじゃがいもの栽培を始めていることから、深刻な被害ではあったが、飢饉とまではいかなかった。

 トリヴォニアの国境近くで地方領主が農奴達と叛乱を企んでいるという噂があったため、諜報部に詳細の調査を依頼していた。

 気になるのは、その叛乱そのものではなく、周辺国を含めた動きの方である。

 元々、リトヴィンはヴィリニュス領であったところを、グロニスクに割譲された経緯があり、ヴィリニュス側の貴族も多く入り、残っている。

 ここ最近のヴィリニュスの東への領土拡大は留まる事を知らず、混乱に乗じ干渉を行う可能性もある。

 ヴィリニュスの干渉が始まれば、グロニスク出身者の多い私設軍を備えた諸豪族が黙ってはいないだろう。

 また、グロニスク本国においても、重要や交易先のうえ、西側の交易拠点ともなる地を失う訳にはいかず、グロニスク本国から防衛に来る事は容易に想像できる。

 現在グロニスク領となっているリトヴィンにヴィリニュス側として干渉する事により、領土や利権を狙おうという諸侯がトリヴォニアにも多い。

 各国の欲が絡み、一触即発の大戦争になる可能性を秘めている。

「食料援助して、内戦を止めても、ヴィリニュス側から目の敵にされるよな。」

「おっしゃる通りで。」

「前から言ってるけど、タメ口にしてよ。同い年なんだから。」

 バルクライと『花畑』の自室で話をしていた。

「政治は苦手だから、勝手な感想になるけど、今は単純に国力増強に力を注ぎたいんだよな。参戦して独立する切り札にできるものを得られるか。」

「ヴィリニュスに有利な形になるよう活躍できれば、可能とは思われますが。」

「戦後に諸豪族の地域をウチの領土にして、押し付けるとかはされるよな。」

 リトヴィンの諸豪族はグロニスクから来た貴族や民族を主体にしてまとまった組織となっており、民兵集団とマフィアとの中間ぐらいの勢力である。

「彼らと敵対するのも、得策ではありませんがね。」

「そりゃ、民族と結びついた勢力なら、一度争いを起こしたら、根深い問題になるからな。ちょっと、話でもしに行ってみるか。」

「今行っても余計に揉めるだけですよ。」

「だろうね。分かってはいるんだけどねえ。戦争の無い所で育ったから、避けれるものは避けたいんだよ。殺すのも殺されるのも嫌だから。」

「元々、戦場には立たない予定でしょう。」

「そうなんだが。」

「ヴォルター閣下やヨハンの意向は。」

「ヴィリニュスの要請があれば、参戦止む無し。大局に関わらず、被害を最小限に抑えつつ、相応の戦果は挙げての早期の終結を目指す。」

「何か、無難だな。」

「当然です。今回は特にヴィリニュスとグロニスクという大国間の戦争に巻き込まれる形となりますから。どちらからも目を付けられないようにしなければなりません。」

「何かあればグロニスクに直接攻められる可能性もあるだろう。」

「良い方でも悪い方でも極端な戦果は、目を付けられる可能性はありますからね。」

「目立たないように、上手くやらないといけないという訳だよね。新型銃や竜騎兵の投入はできないな。」

「その通りですね。」

「冬の間はグロニスクは動けないだろうから、秋口から騒がしくなるか、遅れれば春からかな。」

「大方はその見込みですが、気は抜けませんな。」

「そう言えば、グロニスクのプチャーチンの動きは。」

「今まで通りというところでしょうか。今回の騒ぎについても、冷静に対処するよう、皇帝には進言しているようですが。」

 ヴィリニュスとグロニスクは、宗教の大別で見れば、処女教会にあたる宗派の一つだ。

 詳しくはまだ勉強中だが。

 グロニスクのプチャーチンという男は、どこの教会にも属さない占術師で、どこからともなく現れ、皇子の難病を治し、皇族を味方に付け、実質的な相談役のようになっている。

 目も覚めるような美男子で、男女問わず虜にしてしまうという噂があり、下世話な噂だと皇帝と后で取り合いをしている等と囁かれている。

「却って、その言葉で煽ってるような気がするんだよな。」

「直感ですか。」

「それもあるけど、そんな奴の話を昔に聞いた事かあるからかな。」

「もしかして、ヴィリニュス側にも同じような事が起こってたりしてな。」

「いや、無いと思いますが。」

 何だ、今の間は。

「教会か。」

「あくまで噂だけです。似ている話ではないのですが、急に急進派に鞍替えする司教が増えているとのことです。」

「首謀者は不明ってところかな。教会はガードが固いからな。しかし、ムアルシとはこのところ、落ち着いていたと思ってたんだけど。」

 ムアルシとは、日本人の言うところのイスラム世界に近い概念での捉え方のようで、宗教と民族と同一視しており、交易も少なく、領土も面していないトリヴォニアでは、その程度の認識だ。

「いや、ムアルシだけでは無いようですね。聖書回帰を唱え、教皇派に属さない協会も敵視しているようです。」

 旧教から宗教改革が始まるか。

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