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慈悲の家

 医療・福祉団体の賛同者を集め、理事会運営、運営目的、組織運営者の選任など、組織としての体裁を整える会議を行う。

 団体の名称が決定した。

 トリヴォニアの言葉で『慈悲の家』と名付けられた。

 教会から入ってきた言葉『博愛』等も候補に挙がっていたが、あくまでトリヴォニアの言葉に拘ったからだ。

 ルヒの収容施設はそのまま『慈悲の家』と名付けられ、病院部門となったが、設備等も不充分であることから、事務部門と診療所をクラモに置くことで、賛同者の同意を取り付けた。

 そして、その二日後からクラモと収容施設あるルヒの二箇所で通常診察を開始した。

 理事長はヴィリニュスから来た貴族で、医師でもあるデイビス・ピャスト伯爵が務める。

 執行役員、事務局長として、俺が断ったため、ライマが選任される。


 医学知識の確立・共有のため、カルテの記載と付番を義務付け、カンファレンスにて症例毎にコード分類し、その結果を積み重ねていく。

 小分類まで作成できるよう、余裕を持ってのコード作成を行い、年に一、二度統廃合等の整理を続けていく運用とする。

 これにより、各症例・病名毎の有効的な治療方法を確立していく計画だ。

 コンピュータも無いのに、コード化による管理など、非効率かとも思ったが、最も早く情報を蓄積し、医学体系を構築するためには有効だと思ったのだ。


 クラモの診療所は、『ゼラニウム』と決まった。

 花言葉は『癒し』だかららしい。

 初日は殆ど患者は来なかったが、今後の口コミで何とかなるだろうと思っておく。


 エルンストによると、南方のムアルシでは医学が進んでいるが、教会の教義と異教徒弾圧により、こちらは寧ろ後退していると力説していた。

 書物の入手や留学など、検討する価値はあるかも知れないので、頭の片隅には残しておく。


 朝の日課になっているガロンとの稽古が終わり、モリスに朝食を頼んでいたところで、バルクライが話しかけてくる。

「マリス様がお話があると。」

「ああ、食ったら行く。宴会室だな。」

「左様で。」

 あまり上下関係というものは好きではないが、下手に出れば見下してきそうなので、待たせておくことにする。

 朝食を平らげ、宴会室に向かう。

 宴会室の上座にマリスが座り、横にバルクライが控えている。

「ここは俺の店だぞ。」

「すまないな。そっちの扉から入ってきたのでな。」

 確かに言うとおり宴会室は、出入りが人目につかないように複数の扉を設けており、上座近くにも扉はある。

 この男にとって、仕えるべきはヨハンであり、俺はただの飾りだと思っているうえ、俺は爵位もない平民でもある。

 気安いヨハンとミッシェと一緒にいるから、忘れていたが、貴族が平民にするちは、そんな対応も当然かも知れないが、組織的にも俺が下にはなっていないので、ここで退くと後々面倒だ。

「まぁ、どこに座っても構わん。」

 向かう方で足を組んで座る。

「あんたが顔を見せに来るなんて、珍しいな。何があった。」

 諜報部としては別に本来の拠点を構えており、この店はフロントとして用いているのだ。

 マリス自身はその拠点にいるため、殆ど顔を合わせることはない。

 また、俺自身もその拠点の場所は知っているが、訪れたことはない。

 名の知れた俺が行くことで、拠点の存在が知られるが拙いからだ。

「グロニスクで拠点を失った。」

「何でばれたんだ。」

「恐らく盗聴器からだと思われる。」

 魔法術式により、会話の盗聴を行う技術があるのは知っていたが、既に実戦投入されていたのには驚いた。

「驚かないんだな。」

「まあな。ありそうだとは思ってたからな。それで、俺に何をさせたいんだ。」

「探知されない盗聴器は作れるか。」

「有線以外は無理だろうな。何らかの形でマナが流れ、それを探知されてるだろうから、防ぐ手立ては無いたろうな。」

 あっても、勧めないが。

 取得方法は人から、伝達は技術で行うのが良いと考えてはいるのがあるからだ。

 まあ、精霊を盗聴器代わりに使った事のある俺が言うのもなんだが。

「であれば、積極的にグロニスクの情報を仕入れてくれ。」

「言われんでもするさ。今はかなりきな臭いからな。それよりも、本国や外国からグロニスクの動向を探りに来てる奴らがいるだろ。」

「ああ。」

「その辺りとの接触はしてるか。」

「いや。」

「若いのを使って、接触して、情報交換しておくのも、重要だと思うぞ。持ちつ持たれつだな。」

「ほう。」

「この国は対グロニスクの最前線だろうから色々といるだろうよ。」

「丁度、対グロニスクのための各国の情報機関のトップ会合があってな。お前の言う持ちつ持たれつが必要になった。」

「トップの会合なんて、大体、まだ組織の全容も知らされてない俺が何の役に立つんだ。」

「実務者でない、会合だから、どこも似たようなもんさ。」

「爵位も無いけど、大丈夫だろうな。」

「分からんが、無碍には扱われまい。」

「取り敢えず、断れんのだろう。仔細を聞かせてくれ。」

 こうして、対グロニスクの各国諜報機関のトップ会談に出席する事になった。

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