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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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エピローグ:それぞれの贖罪と再生

ヴァルツァーで私が眩いほどの幸福に包まれていたのと同じ頃。

私と完全に縁を断絶した実家──グレインフィール伯爵家では、穏やかで、けれどどこか寂しげな沈黙が流れていた。


「そうか……。アリアが無事に、健やかな子供を産んだのだな……」


主であるロベルト伯爵の手には、かつての旧友であるアルベルト侯爵から届いた、一本の書面があった。そこには、二人の間に生まれた愛らしいお嬢様の誕生が、丁寧な筆致で報告されていた。


「東の地で、アリアとレオンハルト様が多くの領民の命を救ったという噂は、王都にまで届いておりますよ……。本当にあの子は、医者としての天賦の才能に恵まれていたのですね」


夫の言葉に続くように、妻のマルティナも静かに言葉を綴った。

自分たちが過去にどれほど残酷な過ちを犯してきたか。本物の才女であったアリアの羽をもぎ取り、暗闇に閉じ込めていたのかを思い知り、二人は深い後悔に胸を締め付けられていた。だが、届いた手紙を見つめる二人の表情は、野心に狂っていた昔に比べれば、驚くほど穏やかなものだった。


「お父様、お母様! 一体何をそんなに深刻な顔をしていらっしゃるの! 孫の誕生を喜ぶなら、ここにもちゃんといるじゃない!」


その時、書斎の扉を勢いよく開けて、元気いっぱいに声を上げたのはエリシアだった。

彼女はかつて不貞を働いてしまった際、奇しくも奇妙な縁で結ばれた大商会の御曹司と晴れて結婚。彼をグレインフィール家へと婿入りさせることで、破滅寸前だった領地の経済を劇的な「商業の力」によって再生させてみせたのだ。


エリシアの腕の中には、生まれたばかりの元気な赤ん坊が、すやすやと眠っている。

彼女もまた、姉の影を追うのを止め、ようやく「自分自身の人生」を歩み始めていた。


その大商会では、現在、多種多様な最新のドレスや高級な装飾品が流通していた。エリシアはその天性の美貌と、華やかなお着飾りへの凄まじい執着をこれでもかとひけらかし、自ら商会の「最高級広告塔(トップモデル)」として社交界を席巻していたのだ。

本来の伝統的な淑女であれば「はしたない」と一蹴されるような、見栄っ張りで自己顕示欲の強い行動。しかし、莫大な利益を求める商会にとっては、これ以上ない申し分のない最高・最強の才能だった。彼女の広告効果のおかげで商会の知名度はうなぎ登り、売り上げは日々、天井知らずで跳ね上がっているらしい。


「エリシア……。私たちは、本当にお前自身の持つ本当の『資質』に、何一つ気づいてやれていなかったのだな……」


「ええ、そうね。貴方は子供の頃から、勉強は苦手だったけれど……華やかなドレスを身に着けて、鏡の前でクルクルと嬉しそうに回って見せるのが、何より上手な可愛い子供だったわ」


両親のしみじみとした言葉に、エリシアはこれ見よがしにふん、と美しい鼻を鳴らした。


「まぁ、お父様、お母様、今頃気づきましたの? わたくし、医学の勉強は大っ嫌いでございますけれど、自分を着飾ることと、商品を美しく魅せることにかけては、それこそ国一の『才女』になれましてよ!」


「ああ、そうだな……本当にすまなかった、エリシア」

「ふふ、貴女が我が家の誇りよ、エリシア」


今の幸せそうなエリシアの笑顔を見て、ロベルトとマルティナは、愛おしそうに我が子と我が孫を抱きしめた。

かつて、名声という偽りの栄華を求めて「家族」を壊しかけた人々は、アリアという大きすぎる存在を失って……そして、やっと本当の意味で、心から一つになることができたのだ。

アリアが冷たく閉じ込められていたあの暗い独房は今、分厚いセメントで完全に塗り固められ、屋敷の歴史から永久に抹消されていた。グレインフィール家の闇はすべて取り除かれ、家族は新しい、光に満ちた一歩を踏み出していた。



────→────



そして同じ頃。

王都の憲兵隊に捉えられ、暗い監獄へと収監された元家庭教師のグレイスは、一人、深い絶望の淵に瀕していた。

かつての傲慢な顔からは完全に希望が失われ、もういつ死んでもいいと言わんばかりの虚ろな目で、冷たい床を見つめ続けている。そんな彼女の元に、一人の面会人が訪れた。


「グレイス……よくも、ヴァルツァー侯爵家に多大なる泥を塗ってくれたわね」


格子窓の向こうからの、冷徹な声。

顔を上げたグレイスは、息を呑んだ。そこに立っていたのは──自分と全く同じ顔をした、一人の美しい女性だった。


「クレア、お姉さま……っ」


そう、何を隠そう、グレイスもまた「双子の妹」だったのだ。姉のクレアは、本物の優秀な医師として、長年ヴァルツァー侯爵家で絶大な信頼を得て働いていた。


「貴方が私の優秀さを僻んで、歪んだ嫉妬を募らせていたのは知っていたけれど……。まさかその差を埋めるために、小侯爵様の婚約者候補(エリシア)に手を貸して、本物の才女(アリア嬢)を陥れるほどの愚行に走るなんて。グレイス、貴方のせいで私も侯爵家で肩身の狭い思いをしているわ。侯爵様は『お前は無関係だ』と周囲を沈静化してくださっているけれど……こうなった以上、私も侯爵家を自発的に出る必要があるでしょうね」


実の姉の人生まで巻き添えにしてしまった事実に、グレイスはボロボロと涙を流し、鉄格子の向こうへ向けて深く、深く頭を下げた。


「お姉さま……申し訳ありません、本当に……申し訳、ありません……っ」


激しい悔恨の念に暮れ、何度も床に額を擦りつける妹へ、姉のクレアは溜息を一つ吐き、懐から一枚の書面を広げて見せた。


「これは……?」


「レオンハルト小侯爵様から、貴方への──いえ、アリア様の夫となられた『天才医師』からの、最大の温情よ。ここを出たら、私と一緒に、『東の地』の医療施設で働けるそうよ」


「え……っ?」


顔を上げるグレイスに、クレアは静かに微笑んだ。


「貴方が歪んでしまったとはいえ、その『医師としての腕と才能』だけは本物だった。それを獄中で腐らせて曇らせることを、あのレオンハルト様が許さなかったのよ。アリア様と共に東の地を救った彼が、現地の医師不足を解消するために貴方の身元を引き受けてくださったの。三年でここの刑期が終わったら、私と一緒に、今度こそ二人で東の地でやり直すわよ。……だから、それまで監獄の中で、この簡単な医学書でも読んで頭を冷やしていなさい」


そう言って、格子の隙間から数冊の真新しい医学書が手渡された。


「貴方が、本当はどれほどこの『医者』という仕事に誇りと情熱を持っていたか、姉の私に分からないとでも思っていたの? これからは、私と比べられることのないあの新天地で、二人で最高の診療所を経営するのよ。私を巻き添えにして侯爵家から追い出したのだから、嫌だなんて絶対に言わせないわ」


グレイスは、姉から手渡された温かい本と、レオンハルト様からの「未来への切符」を胸に強く抱きしめ、声を上げて泣き崩れた。

生きる希望のすべてを失い、死を待つだけだった罪人の胸に、アリアとレオンハルトの慈悲という、これ以上ない大きな「救いの光」が灯ったのだ。


「はい……っ、はい……! 必ず、必ずここを生きて出て、またもう一度……医師として、人のために働きます……っ!」


そうして三年後。

東の地の静かな街に、小さな、けれど活気に満ちた診療所が開業した。

これにより、東の領地が長年抱えていた深刻な医師不足は、完璧に解決することとなった。

双子の姉妹はそこで、誰に比べられることも、誰を妬むこともなく、互いの才能を認め合いながら、今も平和に、誇り高く患者たちを救い続けている──。


これにて、物語に関わったすべての者たちの運命に、美しき光あれ。

──カーテンコール。完全完結。

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