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1  もっとも高貴なる令嬢


 ライラは激怒した。


 必ず、かの邪知暴虐の伯爵令嬢を除かねばならぬと決意した……いや、あの女は皇后になったのか。なんと腹立たしいことだろう。


 ライラは公爵令嬢だ。


 皇帝陛下の母は早くに身罷り、内親王もいない帝国で、十六歳になる今までもっとも高貴なる女性だった。つまりライラこそが皇后になるべき女性なのだと、自身で固く信じてきた。


 にも、関わらず!


 若き皇帝陛下に近づく庶子上がりの伯爵令嬢に腹が立ち、いびりにいびり倒していたら謹慎を言い渡された。腹を立てつつも領地へ戻っているうちに、皇帝陛下と伯爵令嬢が婚約……そして、貴族にあるまじきスピード婚をしたのである。


「どうして、わたくしじゃないのよ! わたくしの方が美しくて、高貴だというのに!」


 二人の婚姻を祝っている新聞をビリビリと破り捨て、床に落ちた誌面を飾る皇后の笑顔をヒールでぐりぐりと踏みつける。こんなことしたら普通は不敬罪で首が飛ぶが、高貴なるライラはいくら踏みつけても罰せられることはない。


 もっとも帝国最高峰の矜持を傷つけられた怒りが、この程度で収まるはずもないが。


 首都に戻ったら、どんな方法で追い落としてやろうか。服を着たまま噴水に突き落とし、頭からワインを浴びせかけ、足を引っかけて転ばせ、扇で強く打ち据えてやっても、ニコニコと笑っていたあの女を。


 どんな方法なら、あの間抜け面を苦痛と恐怖に歪ませられるだろう。


 高尚な悩みにため息を吐いていると、扉を開ける音と共に「お嬢様」と呼ぶ声が響く。その無遠慮さに腹が立ち、ライラは相手を睨みつける。そこにいたのは、執事だった。


「わたくしの考えごとを邪魔するなんて、一体なにがあったというの?」

「失礼いたしました……ですが、当主代行としてのご意見を仰ぎたく」


 そう、ライラは今、当主代行の地位にある。

 父である公爵が視察で城を離れている間、ライラが城の一切を取り仕切っているのだ。些細なことでも勝手に判断しない執事を評価しているライラは、しかたなく「聞かせてみなさい」と言ってやる。


「実は、ご当主への御目通りを願う者がおりまして」

「先触れの文も寄越さず、不在時に尋ねる無礼者なんて追い返しなさい」

「それが相手は少年で……自分は先帝のご落胤だと、申しているのです」

「なんですって?」


 耳を疑うような執事の言葉に、声を失う。しかし次の瞬間、明晰なる頭脳はあの女を追い落とす材料が自らやってきたことに気付く。


 本当に少年が皇帝の兄弟だと言うなら、暫定的に継承権第一位になるかも知れない。皇后にはまだ子がないので、しばらく大きな顔はできなくなるはずだ。


 もし嘘だったら少年を勘繰ってやれば苛立ちも少しは紛れるだろう。自分の名案に、ライラは口の端を上げる。


「その子供、わたくしの前に連れてきなさい」


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