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ライオネルの最後

「見つけたぜぇ、下等生物ども……」

 この嫌悪感を覚える嫌な声は、ライオネルである。よりにもよって、すぐにライオネルに見つかってしまった。もはや人間の姿をしていない、地上に存在するべきではない邪悪な姿をした怪物となったライオネル。

「逃げようたって無駄だ。この俺様から逃げられると思うなよ――下等生物っ!」

 背中の触手二本を伸ばし、凄まじい勢いで地面に叩きつけるライオネル。すると、そこから地面に亀裂が走り、その亀裂から黒い閃光が噴き出した。大きな瓦礫が黒い閃光に触れると、その勢いで粉々に粉砕された。

 ノエルは魔法でダリルを守りながら距離をとる。そしてアーシェが剣を構えて突っ込んだ。

「やらせないわよっ!」

 アーシェの人間離れした身体能力で一気に懐に飛び込み、ライオネルの心臓をひと突きにしようとしたが、最初はなかった三本目と四本目の触手が現れ、その触手でアーシェを殴打、吹き飛ばした。

 地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべるアーシェ。

「ちょっと……反則でしょ、なんで増えてんの……っ!」

 文句の一つも終わらないうちに、更なる攻撃が繰り出され、慌てて飛び退くアーシェ。もう回避するのが精一杯で、戦うどころの状況ではない。


「弱えぇ、弱えなぁ、ゴミども! もう俺様に歯向かえる力はねえのかよっ!」

 暴れ回るライオネル。完全に手がつけられない状態で、周辺一帯にかなりの損害が出ていた。建物は崩壊し、逃げ惑う人々、平和な街が瓦礫の山と化す。


「ねえノエル、なんか弱点ないの! どうにもなんないわよ!」

 容赦ない無差別破壊に、アーシェは堪らずノエルに助けを求めた。

「わからん! それを見定める隙もな――うん?」

 ノエルは、怪物ライオネルの首元に何か光るものが見えた。禍々しい緑の皮膚の中にキラリと光る何かが。

 ――あれは……オーブの破片か? もしかしたら……!

 ノエルは何か呪文を唱え始める。

「――この天空より注がれる閃光よ、その力を持って邪悪なる存在を打ち抜け!」

 ノエルが魔法の杖を振り上げると、そこに空から閃光が降り、杖の先に収束し始める。そして、それをライオネルの方へ向けると、その閃光が矢となってライオネルの首元の光るものへと射出され、それを撃ち抜いた。

 しかし、ライオネルは平然と暴れ、周囲を破壊しまくる。ついには触手がアーシェの足首を捕らえた。触手によって宙ぶらりんになるが、ダメージも大きく、アーシェは反撃を加えることもできなかった。

「いたたた……」

「アーシェ!」

「これ、結構やばいかも……」

 アーシェの声も少し弱々しくなっていた。

「小賢しい虫ケラめ。もう終わりだ――死ねぇ!」

 ライオネルが別の触手でアーシェの胴体を貫こうとしたとき、ライオネルの体に襲撃が走り、動きが止まった。

「うぐ……な、なんだ……?」

 ライオネルは体に異変を感じた。それは次第に大きくなり、アーシェたちを攻撃するどころではないくらい異常な激痛と体の自由が効かなくなった。

「ど……どういう……ことだ? な、なんで……!」

 ライオネルの体中の皮膚が次第に崩壊し始める。

「ノ、ノエル――あれどうしたの?」

 アーシェは、先ほどまでの暴れる様が嘘のように苦しみ始めたことに驚いた。

「ぎゃあぁぁ、どう……して……く、くるし……い……」

 先ほどまでの姿が原形をとどめないほどに崩壊し、ドロドロのスライムのようになっていく。

 そして、ライオネルは声すらも発せぬほどになり、静かになった。崩壊した肉片は光となり消えていく。跡には砕けた水晶のようなものが残っていた。

 その砕けたものをノエルは拾い、それを眺めて言った。

「やはりか。これはオーブのかけらだな」

「オーブのかけらって! じゃあ、ライオネルはオーブの力で怪物になったっていうの?」

「そういうことだ。おそらく’オーブを見つけたロドネスが、その一部をライオネルに分け与えるかしたのだろう」

 物陰からダリルが出てきて、信じられないという顔をして言った。

「ハ、ハハ……やったのか? もう生き返ったりしねえのか?」

「ああ、大丈夫だ。かけらを破壊したからもう生き返ったりしない」

「そ、そうか……それにしても、アンタら本当にすげえわ。答えてくれねえかも知れねえけど、何者なんだ?」

「……もうこうなると、いずれバレそうだが……今はまだ言わないでおく」

 ノエルはやはり、自分たちが何者かを明かさなかった。ただ、もはやロドネスは人間の手でどうにかなる状態ではないだろうと感じた。また、ウィスラー伯爵も正体が気になる。これらを解決するべく任務を遂行すると、もう隠しきれないだろうと感じていた。

「そうか……まあ、俺は、レジスタンスはアンタたちを信じている。それだけは言える」

「ああ、ありがとう」


 中央広場とその周辺はあちこちが破壊され、人々は混乱した状態にあった。

 ダリルは、ふと貴族区域とを隔てる門が、大きく壊れているのに気がついた。巨大な扉は、半分が破壊され倒壊している。修理しない限り、再び隔てるのは無理だろう。

「なあ、あの門を見ろよ。ぶっ壊れているぜ。あれなら侵入も簡単じゃねえか?」

「本当だ。ノエル、行こう!」

「ああ」

 アーシェとノエルは門に向かう。それにダリルが後からついてきて言った。

「待ってくれ。俺も行く」

「君は残った方がいい。ライオネルのような怪物は、この後数多く出てくる可能性がある」

「そうだよ。危険すぎるわ」

「それはわかっている。だが案内したいんだ。実は二、三カ所、アルマたちがいる場所の候補があるんだ」

 実はダリルは、レジスタンスが密かに集めた情報から、牢獄などの収容施設の場所をいくつか把握していた。

「ねえノエル。私たちだけじゃ時間もかかるじゃない。ダリルに案内してもらおうよ」

「……わかった。だが、この先はかなり危険だ。ダリルは身を守ることを優先してくれ。ライオネルがあの通りだ。この先は人智を超えた戦いになるだろう」

「わかってるさ。アンタらの邪魔はしねえ。アルマを救い出すまで死ぬわけにゃいかねえからな。……それに爺ちゃんも悲しむだろうし」

 ダリルは最後、少し照れくさそうにつぶやいた。反発してはいたが、やはり大事な祖父なのだ。

「さあ、行きましょ。混乱してるし、入り込みやそうだし」

「ああ、行こう」

 アーシェたちは瓦礫の山を乗り越えて、ダリルの案内で街の深部に向かった。



 貴族たちの区域を通り抜け、官庁区のさらに奥へ進む。行手を阻む衛兵はほとんどおらず、大して警戒することなく、どんどん奥へ入って行けた。

 一応警戒しつつ進んでいるアーシェだが、この閑散とした有様に少し驚きつつ言った。

「もっと警備が厳重かと思ったけど、あんまり大したことないね」

「他へ回されてんのか、もしかしたらこの騒動で負傷者がかなり出てて、動ける兵士があまりいないのかもな」

 前を行くダリルが答える。

「なんにせよチャンスだ。先を急ごう」

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