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救出作戦

 隠し部屋は随分と人気のない場所にあった。

 貧民街の外れの、街の外壁と建物に挟まれた場所にあった。迷路のような通路の先で、ここにこんな場所があることは、ほとんどの人は知らないであろうというくらいの場所だった。

 入り口はうまくカモフラージュされでおり、一見しただけでは気づかないように工夫されていた。

 ダリルは周辺を警戒し、誰もいないことを確認して言った。

「――近くには誰もいねえ。今のうちだ」

 オーレンが戸の鍵を開けて中に入る。ノエルたちもそれに続いて部屋の中に入っていく。ダリルも周辺を最後まで見回しつつ後に続いた。


 中は暗く、明かりがないと何も見えない。オーレンは入り口から入ってすぐのところを手探りで探すと、何かを見つけて取り出した。そしてそれに火をつけると周囲が明るく照らし出された。それはランプだったようだ。

 オーレンを先頭に奥へ入っていくと、少し広い空間が出てきた。

「ここは古い倉庫なんだ。古いのでもう使われていないので、臨時の隠し部屋としていたんです」

 オーレンが言った。

「なるほど………うん?」

 ノエルが何かの気配を感じた。

「――誰だ!」

 同じく気配を感じたダリルは、短剣を抜いて叫んだ。

「ちょ、ちょっと待った!」

 聞いたことのある声だ。誰かと思えば……。

「ダリルにオーレン! それにノエルも」

 そう言って薄暗い部屋の奥から出てきたのはアーシェだった。

「アーシェ! 君がどうしてこんなところびいるんだ?」

「街の中、衛兵だらけなのよ。まったくどこから湧いてきたのやら。とにかく逃げまくって、ようやくここに駆け込んで隠れていたんだけど……」

「そうだったのか。無事で何よりだが、鍵がかかっていたのに、どうやって入ったんだ?」

 ノエルが言った。

「え、鍵? 鍵って、入り口があるの? 私はこの向こうから入ってきたんだけど、外を走ってたら落とし穴があってさ。もう痛いのなんのって。気がついたらこの真っ暗な部屋で――」

 アーシェはお尻を押さえて痛そうな顔をした。

「ああ多分、奥の部屋にある通気口から落ちたんですね」

 オーレンが言った。

「そういうことかぁ……ま、そのおかげで逃げられたんだけど」


 しばらく休んで、今後の対策を考えることになった。このままここにいるだけでは、どうにもならない。

「――アルマを! それに他に逮捕されちまった人たちを助けないと!」

 ダリルが叫んだ。大事な妹が敵である連中に捕らえられている。正気ではいられない様子だ。

「そうよ、救いに行かなきゃ!」

 アーシェも同じ意見のようである。

「簡単に言うが、ただ出ていっても、僕らが逮捕されてそれで終わりだ。それじゃまったく無駄になってしまうぞ」

 ノエルが言った。しかしアーシェがそれに噛み付いた。

「じゃあどうするってのよ。ずっとここに隠れていても何にもならないわよ!」

 ノエルは珍しくそれに反論せず、そのまま黙り込んだ。

「――やはり私が出ていくしかありません」

 オーレンが言った。

「それはダメだ。君が出ていって捕らえられても、今捕まっている人々が解放されるわけじゃない。トレドが言ったことをよく考えるべきだ」

 ノエルが言った。それを聞いて俯くオーレン。

「……僕とアーシェでなんとかする。オーレン、君たちはここで隠れていた方がいい」

「あら、随分積極的ね。珍しい」

「あの伯爵の正体が気になる。これは僕たちの仕事かもしれない」

「え? どういうこと?」

「それを確かめるためにも、もう一度あのウィスラー伯爵に会わなくてはいけない」

 ノエルは立ち上がり、アーシェを見た。

「なあ、伯爵の正体ってなんだ? そういや伯爵に会った時も――」

 ダリルが言った。

「あの男から人のものとは思えない邪悪な力を感じた。それがウィスラーに取り憑いているのか、なりすましているからなのかはわからないが、もはや人がどうこうできる存在じゃない。ここからは僕たちに任せてもおう」

「人がどうこうって……な、なあ。やっぱさ、アンタらって何者なんだ? そこらにいる旅の戦士とか、そういうレベルの者じゃねえっていうのはわかるが――」

「そこは伏せさせておいて欲しい。ただ、君たちや、このトーラン市民のために行動することは約束する」

「あ、ああ。まあいいんだけどよ……ただ、これも覚えておいてほしい。俺も、いや、レジスタンスのメンバーはみんな、アンタたちの味方だ」

「ああ」

 ノエルはニコリと微笑んだ。それを見たアーシェがノエルに背中から抱きついて満面の笑みで言った。

「いい感じじゃないの。それじゃノエル。いっちょやりますか」

「ああ、でも気を引き締めるんだ。まずは捕まっている人たちを救出する。君が暴れるのはその後だ」

「ガッテン承知の助!」



 それから少し後、レジスタンスのメンバーの一人が、血相を変えてこの隠し部屋にやってきた。

「明日、正午に捕まった人たちを処刑するって言ってる。中央広場でやるって!」

 中央広場は、一般市民区画の中部奥にあり、その北側に貴族の区画とを隔てる門がある。建物が所狭しと立ち並ぶ街ではあるが、この広場はかなり広く、多くの市民にとっての憩いの場である。

「処刑だって? なんてことを……」

 オーレンは絶句した。ダリルの顔は青ざめている。

「アーシェ、ノエル! たのむ! どうしても、どうしても妹たちを――アルマたちを助けてくれ!」

「わかってるって。絶対も処刑なんてさせないわ。ね、ノエル」

「当然だ。さあ、行くぞ」

 こうして、アーシェとノエルで捕らえられている人々を救出に向かうことになった。



 まだ夕焼けには早い午後、アーシェとノエルはレジスタンスの隠し部屋を出て、中央広場に向かう。明日の正午なので、まだ時間がある。捕らえられた人々はどこにいるだろうか。まだ広場にはいない可能性もあるが、一旦広場に向かうことにした。

 ノエルが人の注意を逸らす魔法を使う。これにより、近くをそっと通り過ぎる程度では気がつかれない。実は隠し部屋に向かっている時なども、こっそりこの魔法を使っていた。

 しばらくして中央広場に到着すると、そこでは衛兵や役人たちが、ステージのようなものの設置など、何か忙しそうに動いていた。おそらく処刑場の設置などをやっているのだろう。

 まるで見せ物であり、古来よりこう言ったことは行われていたものの、処刑されるのは極悪人ではなく、よく知っている罪なき人々だ。あまりいい気分ではない。

 物陰に隠れて様子を伺うアーシェ。アルマたちの姿を探したが、やはり見当たらない。

「やっぱり、ここから見えるような場所にはいないね」

 アーシェが言った。

「そうだな。ここに連れてこられるのは明日だろう。まだどこかに幽閉されているはず」

「問題はそれがどこなのかよねえ」

「ダリルたちが知っているかはわからないが、衛兵たちの留置場の場所を聞いておくんだったな……」

 ノエルはうっかり聞きそびれたことを反省した。

「どうせ役場とかそういう場所なんでしょ? 多分もっと奥だよ」

「確かに。ということは、あの門の向こうへ行く必要があるわけか」

 ノエルは聳え立つ大きな城壁と門を眺めた。越えていくのは不可能ではないが大変である。特にノエルは。

「私だけ行ってみようか? 例えばノエルが広場で暴れて引きつけている間に――」

「――無理だな――」

 ふいに二人の声とは違う声が聞こえた。

 はっとして、声の方を見る二人。そこにはこれが三度目となる、あの男がいた。騎士ライオネルだ。

「ヨォ、探したぜ。さすがは魔導の力、簡単に見つけ出してくれる」

「しつこいわねえ。そんなんじゃ嫌われるわよ」

「嫌われて結構。お前らに好かれようとは思ってねえしな……ククク」

 ライオネルはニヤニヤと気味の悪い薄笑いを浮かべている。どうもこれまでとは様子がおかしい。

「アーシェ、気をつけろ。この男――人間を捨てたようだ」

「に、人間を捨てたって……キャ!」

 ノエルの言葉に気を取られた隙に、アーシェに向かって何かの打撃が来た。アーシェはそれをかろうじて回避したが、バランスを崩して転倒した。

 ノエルが魔法の結界を張って防御態勢をとった。

「ライオネル、何をやったんだ!」

「……ロドネス様の……素晴らしいお力を……この俺に……与えてくださったのだっ!」

 そう言い終わった瞬間、ライオネルの体がゆっくりと肥大していき、体が変形していく。邪悪な気が周囲に充満し、禍々しい力が増幅していく。

 ライオネルはもはや、人ではなかった。

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