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アーシェのピンチ

 アーシェとライオネルは、それぞれ武器を構えて睨み合っている。周囲は大勢の野次馬が囲っており、この決闘の行方を見守っていた。あまり騒がしくヤジを飛ばすような者はいない。周辺で野次馬を睨んでいる衛兵たちに、逮捕されたくはないからだ。

 アーシェは少し困っていた。この周辺の野次馬が厄介だ。下手に大技――例えばミーティアストライクなどを繰り出そう者なら、周囲の野次馬を巻き込んでしまいそうである。

 そして、目の前のライオネルは、周囲のことなど何も考えもしないだろう。先ほどのような街を破壊し、人々に危害がありそうなことでもお構いなしだ。アーシェとしては、周りに被害が出るのは、極力避けたい。難しい戦いである。

「来いよ、クソガキ。怖くなったのか? それとも、ママのおっぱいが恋しくなったから早く家に帰りたいってか? アッハッハっ!」

 ライオネルは自信たっぷりにアーシェを挑発した。

「そんなわけないでしょ。今に見てなさい。アンタこそ、泣きべそかいて家に帰ることになっても知らないからね」

「このクソガキ――ふざけんじゃねえっ!」

 ライオネルは激怒すると、魔斧インプラカブルを振り上げ、アーシェ目掛けて攻撃を仕掛けた。

「まったく、沸点高いオッチャンにゃ困ったもんだね――」

 アーシェは、なるべく周囲に被害が出ないよう戦うべく、剣を構えて迎撃した。




 そんななか、ノエルは今頃になって、アーシェが近くにいないことに気がついた。キョロキョロと周辺を見回しても、やはりいない。いつ頃からはぐれてしまったか、今となってはわからないが、一人にしておくと、何をやらかしてしまうか不安になった。

「アーシェ! どこに行った!」

 叫んでみても返事はない。アーシェではない、この街の住人が、ノエルの叫ぶ声に気がついてこっちをみている。少し恥ずかしく感じたのか、すぐに口をつぐんだ。

 あてもなくウロウロしても、見つからないなろうと思い、やって来た道を引き返すことにした。


「おい、早く行ってみようぜ」

 街の少年が数人どこかへ向かって走っていった。そういえば、どこか騒々しい。何かあったのか? と思い、ノエルは近くにいた男に声をかけた。

「何かあったのか?」

「ああ、保安隊長のライオネル様が若ぇ女戦士と決闘しているとか。エラいことになってるってよ」

「お、女戦士……?」

 ノエルは顔が青くなった。絶対にそうだとは言えないが、直感でアーシェのことだと思った。

 ――な、何をやらかしたんだ……。

 ノエルは頭を抱えた。しかし、このまま放っておくわけにはいかない。すぐさま駆け出して、その決闘の場へ向かった。



「ドォォォォリャァァァッ!」

 ライオネルの凄まじい一撃が道路の石畳に直撃する。強烈な打撃により、道路は崩壊し、そこに大きなクレーターができた。

 だが、道路を破壊したと言うことは、アーシェはうまく回避したということだ。アーシェは余裕でかわしたものの、周囲の様子を一瞥して暗い顔になった。

 予想通りだが、街並みだけではなく、周囲の野次馬にも被害が出ている。血に染まる足を抱えながら、痛そうに顔を歪める中年の男。砕けた石畳の破片が体に当たり、倒れている老婆。頭から血を流している青年もいる。

「ちょっと! アンタは街を守のが仕事なんでしょ!」

「知るかよ。お前が避けなきゃ、ああはならんかっただろ。逃げ回らねえで、大人しく死ねよ」

「は、はぁ? バカなこと言ってんじゃないっての!」

 アーシェは剣を構えて飛びかかった。目にも止まらぬ速さで一撃をお見舞いして黙らせてやるしかない、と考えていた。実際、このアーシェの攻撃を回避するのは難しい。ライオネルはパワーだけで動きは鈍いので確実にやれるだろうと思ったが、この大男は厄介なものを持っていた。

「ハァァァァッ!」

 叫び声と同時に、ライオネルの体が赤く光る。その光はアーシェの攻撃を、最も簡単に弾き返した。

 弾かれたせいで体勢を崩してしまったアーシェは、そのまま地面に叩きつけられ、ボロボロの石畳の上を転がった。

「アイタタ……」

 ゆっくり体を起こして、怪我の状態を確認する。右腕に裂傷があり血が出ている。ズキズキと痛みが走り、多分骨は折れていないが、かなり痛い。それに左足も痛む。左肩も痛い。

「俺様に傷を負わせられると思うなよ。俺には魔法のペンダントがある。これさえあれば力は数倍、さらに魔力の鎧が俺を守る。お前如きが俺様にどうこうできるわけねぇんだよ」

 ライオネルはアーシェを見下ろして、ニヤニヤと薄笑いを浮かべている。

「やってくれるわね……イタタ」

 アーシェは痛みを堪えながら、悔しそうに顔を歪めた。

 しかし、これは厄介である。これは、ほとんど攻撃は効かないと予想された。あの魔法のペンダントごと破壊できる大技を繰り出してもいいが、街にも被害が出そうだし、ライオネルを殺してしまいかねない。それに今ので負傷してしまったこともあり、うまくやれるかどうか……。



 ノエルは、前方に人だかりを見つけた。おそらくあの向こうであろうことが予想できた。近づくと、周囲の状態の異様さに気がついた。

 そこらじゅうに転がる石の破片、ボロボロの建物、負傷して運ばれる街の住民。かなり派手にやっているようである。

 人混みをかき分けて前の方へやってくると、そこには、異様な魔力を発する大柄な戦士と、負傷して道路へ座っているアーシェがいた。

「アーシェ!」

 ノエルは叫んだ。

 アーシェはその声に気がついてすぐに反応する。

「ノエル!」

 ノエルはアーシェの元に駆け寄り、すぐに治癒の魔法を唱えた。

「ノ、ノエル……ごめん、大変なことになっちゃった……」

「今は何も言うな。傷が深い、じっとしていろ」

 ノエルは真剣な表情でアーシェを治癒している。ノエルもアーシェも人間ではないので、傷が元で死ぬことはないが、傷付けば動けなくもなるし苦痛もある。早く傷を癒してやらねばならない。

「――おい、お前はこの小娘の仲間か?」

 ノエルの背後から声がした。振り向いて見るまでもない、アーシェを傷つけたライオネルだ。

「よくもアーシェをやってくれたな」

「なかなか腕はいいが、所詮は小娘。俺様の敵じゃねえな。フフン」

 ライオネルは小馬鹿にするような目で二人を見ている。

「俺は騎士ライオネル。この街の保安隊長だ」

「ほ、保安隊長? なんで保安隊長がこんなことをやっているんだ!」

 ノエルは驚いて声を上げた。

「知れたことよ。この街の治安を守るのが俺様の役目だ。だから治安を見出す不届き者を叩きのめすのさ」

「どうして不届き者呼ばわりされなくてはならないんだ! 何もしていないだろう」

「俺がそうだと決めたからだ」

「そ、そんな馬鹿な話があるか! 街の法律があるだろう」

 ノエルには驚愕だった。こんな無法がまかり通るなど、あってはならない。これでは治安も何もあったものではない。

「知るわけねえだろ。――とりあえず、そこをどけ。その小娘にとどめを刺してやるからな。この俺に逆らった重罪人にな!」

 ライオネルはそう叫ぶと、魔斧インプラカブルを大きく振り上げた。

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