表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAST-ZERO-  作者: 新門JACK
01 田中悠介
9/10

09 ナカマ(1)

悠介視点。

 空の棺桶が慰霊車へと運ばれるのを見送り、参列者とともに一緒に合掌する。パーーーという音をたてながらその黒塗りの慰霊車はゆっくりと発進した。これで本当についこの間まで親しかった家族とも友人ともお別れだ。しっかりとその光景を胸の内に収める。


「……帰るぞ」


 清水に促されて俺はコクンと頷いた。式場を背後に二人で歩き出す。なんだか不思議と落ち着いた気分だ。寂しいはずなのに。

 途中でタクシーを拾ってもとの高島大学病院に戻るかと思いきや清水は違う場所をタクシーの運転手に告げた。


「JSS本局まで」

「お客さん、局員さんかい?」

「……用があるだけだ」


 タクシーの運転手は愛想がない清水を見てふんと鼻を鳴らした。世間話が嫌いなタイプだと判断したようだ。それから話しかけてくることはなかった。


「高島大学病院じゃないんですか?」

「着いたら教えるから黙れ」


 だ、黙れって……。そんな言い方しなくてもいいじゃないか。清水の行動は唐突すぎて訳がわからない。せめて行き先ぐらい先に教えてくれててもいいじゃないか。というか、清水はJSSの人だったのだろうか。

 不満たらたらで清水を睨むとあ?とガンつけられてしまった。なんともおっかない人である。

 タクシーを降りると目の前には何階立てか予測不可能なくらいの高層ビルがそびえていた。ちゃんと看板に『日本特別秘密局』と刻まれている。


「え、JSSじゃないんですか?」

「馬鹿が。正式名称は日本特別秘密局だ。略してJSSだろ」

「あ、そっか」


 これだからゆとり世代は……。と呆れられたのは無視する。ゆとり世代でもなんでもない。何年前の話をしてるのだろう。逆に清水の世代がちょうどゆとり世代なんじゃないか。

 じっと清水を疑いの目で睨む。逆襲にあって俺は目を反らした。俺が正面玄関から入ろうとするとすぐさま腕を掴まれて凄い形相で再び睨まれる。この人は睨む以外のことを知らないのか。


「表から入るわけがないだろう。裏から入る。表は来賓用だ。俺らはコッチ」

「……うぉっ」


 これがまた強引。引っ張り方がえげつない。そして掴まれているところが痛い。非常に痛い。勘弁してもらいたい。


「ちょちょ、清水さん……! 痛いんですけど……! ちゃんと1人で歩けますから離して下さい」

「………」


 何ですか。その疑いの目は。その一拍後、俺の腕は解放された。掴まれていたところをさする。本当に痛かった。


「ついて来い。何も喋るな」


 それだけ言うと清水はぐんぐんと足取りを進めて、巨大としか言いようがないビルの裏手に回る。裏の方はビルの影になって少し陰気臭い。駐車場も兼ねているのか黒い車が大量に並んでいる光景はかなり威圧的だった。

 しばらく歩いたあと、清水がある扉の前で足を止めた。


「ここだ。覚えとけ。あとこれを首からかけろ」


 清水から放り出されて受け取ったのは、名札のようなものだった。それを首にかけて、慌てて着いていく。俺が自動ドアを潜り抜け物珍しそうに辺りを見回しているのにも構わず、ズカズカと清水は建物内を進んでいく。

 ……本当にこの人は横暴すぎる。


 必死に着いていくうちに、大勢の人たちが忙しく働いている場所に辿り着く。指示やら怒声が飛び交っていてかなり活気的だ。そして恐ろしくどこのデスクも資料が散乱している。ここで働いてる人たちは整理整頓という言葉を知らないようだ。


「何をボサッとしている。君はこっちだ」


 我に返ると清水が不機嫌な顔して俺を待っていた。だんだんわかってきたぞ。この人は待たせてはならないらしい。


「……志野さん」

「今忙しいんだ、後にしてくれ」


 清水がとある男に声をかけるが、その人は書類制作でもしているのか全然こちらを見ようとしない。多分誰が声をかけているのかも気が付いてない。明らかに清水がイラッとするのが背後にいる俺にもわかった。

 頼むからすぐ対応してくれ。じゃなきゃきっとこのあと確実に八つ当たりされる。


「志野さん、清水さんが着てるけど」


 見かねた同僚らしき人が志野の肩を叩いた。志野はへ?と変な声をあげ、書面から顔を上げて、固まる。志野にとっても清水は怖いらしい。どう考えたって年下なのに。


「や、やあ! すまんすまん! 色々忙しくてなーー」

「連れてきましたよ。週に一度は俺のところに来させてください。経過見なきゃいけないんで。めんどくさ……いえ、複雑なことは志野さんに任せます」


 今、めんどくさいって言った……言いかけた……アンタから説明してくれるんじゃなかったのかよ!

 

「じゃ、忙しいんで帰ります」


 清水はヒラヒラと手を振りながら実にゆったり堂々とした足並みでかえっていった。残された志野は状況を理解した途端、悲鳴をあげた。正直、40過ぎたおじさんの悲鳴は情けないとしか言いようがない。


「ええええええっ!? 俺、忙しいって言ったよね!? 言ったよね!? なんでこうなる!?」


 あわて始めた志野に周囲の人間は肩を叩いて頑張れと声をかけて行くが、誰もその仕事を手伝おうとしない。……なんだか非常に居たたまれなくなってきた。完全に俺はお邪魔だ。


「あの、お仕事終わるまで待ちましょうか?」

「……いや、いい。おい、志野班集まれ!」


 志野が号令をかけるが、みな口々に忙しいと零してなかなか集まろうとしない。堪忍袋の緒が切れた志野が怒鳴ってやっと集まった。


「えーー今日から志野班配属になったーー……北条(ほうじょう)海斗(かいと)くんだ!」

「ええ!?」


 聞いてない!そんなの聞いてない!人生最大級に驚いているかもしれない。


「なんだ、清水から聞いてないのか?」

「初耳です!!」

「ちゃんと言っとけや清水……」


 ……どうやら俺は勝手にJSS局員になっていたみたいです。改めてさっき清水にもらったネームプレートをまじまじと見ると、俺の写真はまだなかったものの『北条海斗三等尉官』としっかり載っていた。

 俺、まだ18歳なんだけど。一体清水は何者なんだ? どうして俺が局員に? わからないことだらけだ。

 

 トラック接触事故で死んで、生き返ったと思ったら新薬『ZERO』のせいで(おかげで)容姿が大幅にグレードアップされ、自分の告別式に出たと思ったら、今度は俺がJSS局員だと……?ふざけてる。これから俺はどうなるのだろう。それだけが心配だ。


「おい、どうした少年。本当に何も聞いてないんだな……これは清水の職務怠慢だ。報告せねば」


 志野から何やらたくさん喋りかけられていることはわかったが、今の俺はひどい混乱状態に陥って、何も聞けるような状態ではなかった。



「……どうだ、北条(ほうじょう)くん落ち着いたかい?」

「ありがとうございます」


 あの後、志野さんに簡素な応接室のようなところに連れて行かれた。応接室というよりは取調室に近い気もするが、機密性はバッチリだという。

 志野は同僚たちに紹介する前に俺に色々説明してくれるらしい。優しい人だ。

 俺は彼に促されて椅子に座り、出されたコーヒーを一口飲む。本当はブラックが好きなんだけど、子供だからとミルクたっぷり砂糖がこんもりぶち込まれている。


「……美味しいです」

「それはよかった。北条くんはどこまで聞いてるのかな?」

「何も聞いてないに等しいです」


 清水が何も言ってくれなかったから。今度会ったときは思いっきり文句を言っておこう。志野ははぁとため息をついた。


「JSSが何をするための機関が知ってる? ってか正式名称知ってるか?」

「えーーっと、確か日本特別秘密局ですよね。何をするのかはあまり知らないです」

「あちゃーーー……うん、じゃあ今日1日は講義だな。こう見えて教えるのは上手いんだ」

「すいません、よろしくお願いします」


 志野が講義してくれた内容は以下の通りだ。


『JSSは Japanese Special Secret Ministry つまり、日本特別秘密局の略だ。名前の通り国家に属する機関であり、そこに所属する我々は国家公務員だ。

 仕事内容は警察とすることと大して変わらない。だが、より面倒で凶悪なヤツらを我々は専門としている。

 階級は三等尉官からはじまり、二尉、一尉、三等佐官、二佐、一佐、そして最後に特等官だな。特等は局長を兼ねるから1人しかいない。お前は今三尉で一番下だ。

 本当はJSSTっていう2年間候補生をやってから正式に局員になるもんだが、お前さんにはその期間は与えられていない……どういうことかね。まあ、裏口入局なんだろうけど、それをあんまり言い触らしてふれるなよ。面倒ことは避けろ。

 そんで、等佐官以上から自分の班が作れる。JSSはそこまで大きな機関じゃないし、機密性重視だから、部署という概念は存在しない。班長の名前が付いた班がいくつかあって仕事を分担して行っている

 志野班は青少年犯罪対策がメイン。他の班とかはサイバー犯罪とかテロ対策とかやってる』


「だいたいこんな感じなんだが、少しは理解できたかね?」

「……はい、なんとなく」


 俺は頷いた。話を聞いている限り本当に警察と仕事が変わらない。これだとJSSの存在意義がないに等しい。


「JSSは公安局ってことですか?」

「公安局……じゃないんだが、仕事内容は丸被りだ。公安とウチは仲が悪い」

「じゃあ、なんでJSSはあるんですか?」


 志野が唸った。どうやら志野にもよくわかっていないらしい。彼なりの考察を述べてくれる。コーヒーはすっかり冷めていた。


「……JSSは創設されてからまだ日が浅い。歴史はたったの10年だ。創設当初からいるが、上の奴らがどういった意図で創ったのかはまではわからん。けど、JSSはもの凄い予算をかけて維持されている。きっとJSSで何かをしたいんだろうと思う。そして俺の勘だが、そのしたいこと(・・・・・・・)はなされていない」


 志野は鋭い洞察力と考察力を見せた。思わず唾を飲み込む。これが、ここで働く人たちなのか。志野から受けた説明をよく吟味する。

 ……もしかして、その上の人たちがやりたいこと(・・・・・・・・)が俺だったりはしないんだろうか。


 死に瀕した俺を健康体に回復させ、容貌まで変えてしまった新薬『ZERO《ゼロ》』が個人の研究であるわけがない。国が放っておかないだろう。清水もきっとこの計画(・・)に関わっている。

 志野は(・・)について知らない。自分で自分のことをよく理解するまで志野に新薬について何かを漏らすべきではない。少なくとも今は。


「……すいません、志野さん。清水さんに聞きたいことが出来ました。清水さんがいる場所を教えて下さいませんか?」

「そう言えば、お前と清水ってどういう関係?」


 気になるよな、そこ。でも生憎自分でもよくわからない。にっこり笑って誤魔化すと、志野さんに呆れられた。


「あいつは神出鬼没だから多分になるけどな、7階のラボにいるはずだ。あとはその場にいるやつに聞け」

「ありがとうございます」


 俺は椅子から立つと、ぺこりとお辞儀をした。口裏合わせに清水とちゃんと話をしなければならない。余計なことを周囲に漏らせば、いつか消される気がする。

 その取調室みたいな狭い部屋から出ると、薄暗い廊下に出る。エレベーターはどこだろう、と周囲を観察しながら廊下をさまよい始めると、通りすがる人たちの喋る声が聞こえる。


「局員にあんな人いたっけ?ちょーー格好良くない?」

「ギリシャ神話の彫刻みたい」

「やべーーーあいつやべーーー整った顔してる」

「世の中にいるもんだな……神様から与えられたやつ」


 ……これって完全に俺のことだ。恥ずかしい。自分の容姿を自覚してなかった。そうだ、今は冴えない俺ではなくハイスペックな俺なのだ。

 どうも、と微笑みかけるとその女性局員は顔を真っ赤にして、卒倒した。


 お、恐るべし俺の顔。さっさと退散しよう。

 廊下がざわつき始めてしまったので、人々の間をすり抜けるようにしてエレベーターにたどり着き、7階のボタンを押した。















 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ