10 シミズ
「………いた」
清水を探し回って一時間。
彼はなんとJSSのビルの屋上でタバコを吸っていた。
「清水さん!」
「あ?」
清水が俺の方を振り返った。思いっきり嫌な顔をされる。
「すべて! 教えてください!」
「めんどくさいな…………」
「お願いします!」
俺は清水に頭を下げる。それを清水は興味なさそうにまたタバコを吸っては吐いた。清水が吸いかけのタバコを携帯型吸い殻ケースに収めた。
「……多分お前の予想通りだよ。お前は政府の実験マウスさ。JSSはお前のため作られたといっても過言ではないな。10年もかけて基盤を築いたんだ。上の奴らの気合いの入れようはわかるだろ?」
「清水さんはなんでそんなこと知ってるんですか?」
「俺が研究してたからに決まってるだろ」
清水の声に若干の悔しさが滲んだ。どうやら彼はあまり政府が好きではないらしい。
「清水さんは政府側の人間ではないんですか」
「ああ、そうだよ。俺は日本政府の飼い犬さ。餌が欲しけりゃお手をしてみろってな……くそったれが。お前はとにかく成果を上げろ。志野ならなんとかイロハを教えてくれんだろ。それと毎週月曜日は必ず俺のところに来い。経過観察するから。俺が興味あるのは自分の研究だけさ」
「あ、はい……」
ヒラヒラと手を振って立ち去る清水の後ろ姿を眺めながめて、俺はため息をついた。
過去に何があったか知らないが、清水は相当ひねくれている。過去の自分を知る人間だというのに、全く頼りにならない。要するに自分の居場所は自分で築けということか。
「ああ、もう! なんなんだよ!」
「なに、どうしたの。ストレスは体に良くないよ」
「あ!?」
俺以外誰もいないと思っていたのに、まだ誰かいたのか。
俺の目線の先にはニッコリと微笑みを浮かべ、眼鏡を掛けた青年が立っていた。髪は染めているのか茶色く、その肌には出来物じとつない。その姿を見てピンと来る。何だか雰囲気が俺と同じ……?
「正解。僕も君と同じ被検体だよ」
新薬『ZERO』を打ち込まれた人間は俺だけではなかったのだ……!
衝撃的な事実だった。同時に清水への怒りが沸く。一言くらい言っておいてもらいたかった。
「まあ、失敗作だけどな」
「失敗作?」
「何でもないさ。僕は如月涼28歳。君は北条海斗くんだっけ? ハルさんの調書を見ただけだから間違ってたらごめん」
「はい、北条海斗で合ってます。……ハルさん?」
「あれ、知らない? 清水主任研究員」
「え、清水さんの下の名前ハルっていうんですか!? 似合わな……」
「あの人口悪いからね。でもイイ人だよ」
あの人がイイ人?
まさか。そんなわけ。それとも俺に対してだけ?
「まあ、お互い頑張ろうってことを言いたかった。困ったことがあったら僕に相談しにきなよ。まあ、僕も半年だけ先輩ってだけなんだど」
そうか。忘れかけていた。この人も一回死に瀕したことがあるのだ。新薬『ZERO』は死亡直前かつ抗体物質αを持っていないと効かない。俺はこの如月に親近感が湧いた。孤軍奮闘になるかと思いきやいきなり支えの手が差し伸べられたものだ。
「はい。そうさせてもらいます」
「うん」
如月は満足そうに頷いた。
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「志野さん」
「お、戻ったか。悪いんだが、早速出動せなきゃならん。お前もついて来い」
「はい」
志野班が陣取る一角では皆が忙しそうに何やら準備している。
志野は黒革のジャケットを羽織ると一括した。
「志野班、出ます!」
「「「おう!」」」
それにあわせて志野班メンバーが答えた。周囲の別班からも応援のかけ声がかかる。
俺も慌てておう!と言ってみた。志野が俺に向かってニヤッと笑った。そして手渡される不気味な黒い物体。
「持っとけ。説明は向かいながらだ」
「はい」
志野さん、他5人のメンバー、そして俺を加えて俺たち志野班は出動となった。
俺はまだ知らない。この国をどれだけ表面的なことしか見ていなかったのか。俺がどういった存在であるのか。まだ俺は何も知らない子供だった。




