リーズン
何だかんだしていたら、結局九時を過ぎ、母さんは少し怒っている。鈴がもたもたしたせいで遅くなるのは、いつものことだ。
言い争いながらも、鈴は助手席に座り、母さんも無言だった。二人は仲がいい。そして、ずっと喋っている。
そういえば、明日は美術の授業があったっけと、紫の絵の具が残り少なかったことを思い出す。三時限目の前に、鈴に借りに行こうと決めた。
夜も深まり、辺りは暗い。夕方と違い車通りは少なく、母さんは慌てているせいか、いつもよりスピードを出している。
「もうちょっとゆっくり走りなよ」
思わず注意すると、
「文句なら鈴に言いなさい。お父さんの時間に間に合わないじゃない」
と叱られた。
その横で、鈴は不機嫌そうに窓に肘を掛け、頬杖をついている。
見通しの悪い交差点に差し掛かった。急カーブしていて、ミラーをよく見ないと危ない。
何となく嫌な感じがしたが、また叱られると面倒なので、黙って景色を見ていた。
キャー!
鈴が大声で叫ぶ。
もう避けられないほどの目の前に、大型トラックが姿を現した。
――死ぬ。
全てがスローモーションになる。母さんはハンドルを切る。鈴が叫ぶ。向こうの運転手は青ざめた顔で必死にハンドルを操作している。それも虚しく、グシャ、とバンパーが破壊され、トラックがバリバリとフロントガラスを割る。もう声もしない。




