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奇妙な夢

 ここはどこだろうか。どこまでも薄暗い(もや)が続いている。歩いても歩いてもゴールが見えてこない。しんとして、物音一つしない。自分の足音すら聞こえないのは、地面が地面であるかどうかも分からないぐらい柔らかく、丸で雲の上に足を沈めているように思えるからだ。

 匂いもしない。ただ、温もりに包まれている。母親の胎内は、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。

 突如目の前に巨大な穴が出現した。泥々と中では闇が渦巻いている。

 気味が悪く、引き返そうとするが、強い力が働いて、離れられない。

 ――けて――。

 渦の中から小さな声が聞こえる。

 耳を済ましてみると、はっきり、「たすけて」と聞こえた。

 闇は少しずつ紫色に変化し、やがて向こう側がうっすらと見えてきた。

 少年が、必死に手を伸ばし、助けを求めている。自分に出来ることは、何もない。でも、何とか助けたい。

 穴の向こうへ、手を突っ込んでみる。なかなか届かない。

 届け! 届け!

 更に手を奥深くへ伸ばす。

 届け! 届け! 後少しだ! この手を掴むんだ!

 指先に、やっと少年の指が触れた。


 ドサッ、と体がベッドから転がり落ちて目が覚めた。

 変な夢を見たものだ。

 龍太は体を起こさずに、しばらく呆然とした。気持ちの悪さが、ドロリと全身に巻き付いている。

 暫くぼんやりして、ようやく体を起こし、台所へ移動して水を飲んだ。汗がまとわりついてベタベタしている。シャワーでも浴びようかと思い、箪笥からタオルを取り出す。

 ふと、夢の中で走り続けていた少年を思い出した。不思議と、指先に体温が残っている。気味悪さと、温かさが、ジンジンと感触を生々しく蘇らせる。

 ――もしかして。

 いや。そんなことがあるものか。龍太はぶんぶん首を振った。

 熱いシャワーを浴びると、汗が流れ、変な疲れが取れていくのが分かった。しかし、まだ少年の声が耳にこだましている。

 鏡に、自分の顔が映る。

 三年前に比べて、頬がかなり痩けた。体つきは逞しくなっている。もうすぐ、三年。いい加減、蹴りをつけなくてはならない。

もし、思い込みだとしても。助けてと、彼は言った。自分が行けば、彼は帰って来れるかもしれない。意識が戻るかもしれない。行こう。彼の元へ行こう。

 龍太は両手で自らの頬をパンパンと叩き、鏡の中の男を真っ直ぐ見詰めた。

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