感情共鳴魔法(エンパシー・マギア)
翌朝。
アオイは、騎士団寮の一室で目を覚ました。
カーテン越しの光が、やわらかく床を照らしている。
「……ここ……」
「医務室の隣だ」
すぐ近くから声がした。
カイルが、椅子に腰かけていた。
「……団長……」
「まだ起きるな」
額に手を当てられる。
ひんやりして、少し安心する。
「……熱は下がった」
「……すみません……」
「だから謝るな」
短く言われる。
扉が開き、ノアとレオンが顔を出した。
「起きた!?」
「大丈夫か、アオイ!」
二人とも、心配で仕方ない顔だ。
「……はい……」
その様子を見て、ノアがほっと息をついた。
「昨日、すごかったんだからな」
「聖女の結界、内側から壊すなんて」
「……ぼく……何を……」
レオンが、少し真面目な顔になる。
「団長が呼んでた」
「魔法研究官」
しばらくして、白衣の男が入ってきた。
「失礼する」
落ち着いた声。
「私は王城魔法研究院の、ラドゥルと申します」
深く一礼する。
「アオイ殿の魔力を、簡単に調べさせてもらいました」
「……結果は……」
カイルが聞く。
ラドゥルは、静かに言った。
「失われた古代魔法の一種です」
「名称は――」
「感情共鳴魔法」
アオイの目が、見開かれる。
「……感情……」
「はい」
ラドゥルは続けた。
「他者の感情と同調し、その魔力の性質を変質させる」
「攻撃魔法を防御へ」
「暴走魔力を、鎮静へ」
「そして――」
「強い悪意を、跳ね返す」
ノアが息をのむ。
「じゃあ……」
「聖女の魔法を弾いたのも……」
「当然です」
ラドゥルは頷く。
「アオイ殿の魔法は、“破壊”ではなく“共感”で働く」
「人を守るための魔法です」
アオイの胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「……ぼく……怖いだけで……」
「それでいい」
カイルが言った。
「お前は、戦いたいわけじゃない」
「守りたいだけだ」
ラドゥルは、表情を曇らせる。
「ただし……」
「この魔法は、持ち主の感情に強く影響される」
「心が壊れれば、魔法も壊れる」
「……」
「だからこそ」
ラドゥルは、カイルを見る。
「騎士団の庇護下に置くのが、最善でしょう」
カイルは即答した。
「異論はない」
ノアとレオンも頷く。
「アオイは、俺たちが守る」
「絶対に」
アオイの目に、涙がにじむ。
「……ぼく……」
「……役に……立てますか……」
カイルは、立ち上がり、アオイの前に来た。
視線を合わせる。
「もう、立っている」
「お前は、もう」
「騎士団の“核”だ」
その言葉に、胸が熱くなる。
そのとき、外から鐘の音が鳴った。
遠く、城の方角。
ノアが顔をしかめる。
「……嫌な予感」
レオンも剣に手をかける。
「聖女、動いたか」
カイルは窓を見る。
「……次は、もっと大きい」
アオイは、布団を握りしめた。
(……こわい……)
(……でも……)
(……守りたい……)
小さく、呟く。
「……ぼく……逃げません……」
カイルが、わずかに目を細めた。
「そう言うと思った」
「なら――」
「俺たちは、盾になる」
「お前は、心で守れ」
外では、雲がゆっくり流れていく。
嵐は、まだ遠い。
だが、確実に近づいていた。




