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ハーフエルフの父~エルフの里国編~  作者: タマツ 左衛門之介久


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トキヒコの目が覚醒する?

 トキヒコは、緩い傾斜の藪の中を駆け下りていた。


 トキヒコの前を行くのはロダッツ、リュバック、シェックのいつもの3エルフ。

「おいおいおい、おい!やっぱりあいつら速いよ!速過ぎー!」

 何故だか始まった傾斜面の駆け下り。



 今日トキヒコが案内され観察を行ったのは『パジェクザ・シエッチェ』蜘蛛の巣であった。

 パジャカーは蜘蛛、その見た目は我々世界の蜘蛛と大きく変わらず。しかしこの世界にて暮らす蜘蛛は、人間世界に生息する者より脚が一組(8本⇒10本)眼は2個(8個⇒10個)とそれぞれ1組多くを持つ。

 そしてその体格が大きな種も存在する。

 そしてトキヒコが案内されて見た蜘蛛の巣は複数の球体に近い円形にて構成されている物であった。


 蜘蛛の巣、クモが作り出す網である。と聞き思い浮かべるクモの網は、蜘蛛が腹部の吐糸管から出す糸で作った網である。

 獲物を捕らえるための罠であるとともに、外敵から身を守る防御の役割もある。


 蜘蛛の巣の種類は多い、円網、扇型、トンネル、シート状の棚網であったり、立体的な物もある。

 この場所にて観察に向かったのは円網と分類出来る物。

 

 円網のクモの網は、一般に蜘蛛の巣として想像される物であろう。それは、中央から放射状に引かれた糸に、同心円状に細かく糸が張られた物。

 正面から見れば、直線に近き糸で結ばれた、八角形だとか多辺で構成されたモノ。

 その構造の網は円網えんもうと呼ばれ、主としてコガネグモ科・アシナガグモ科とウズグモ科などのものが張る網である。


 中心から放射状に張られた糸を縦糸たていと、縦糸に対して直角に、同心円状に張られた糸を横糸よこいとという。

 横糸は実際には同心円ではなく、螺旋状に張られている。網の中心付近には横糸がなく、縦糸の交わるところには縦横に糸のからんだ中心部を「こしき」という。

 クモが網にいる場合には、普通ここに居場所を定めており、巣を固定する付着盤と係留糸、網の外側には縦糸を張る枠にあたる枠糸わくいととの構成となる。


 実は網の中で粘り気があるのは横糸だけである。横糸をよく見ると、数珠のように粘球が並んでいるのが分かる。

 横糸は螺旋状に張られているが、普通網の下側の方が数が多い。

 これは、網の下側では一部が螺旋ではなく、往復で張られているからである。


 蜘蛛が罠であり自身を守る事と成る網を張るには、まず枠糸を張らなければならない。

 普通、クモは出糸突起から糸を出し、それを風に乗せて飛ばし、向こう側に引っ掛かると、その糸の上を往復して糸を強化することで枠を作る。

 その為に川の流れを越えて網を張ることができる者もいる。


 次に、枠の内側に縦糸を張る。縦糸を張り終えると、中心から外側に向けて、螺旋状に粗く糸を張る。これは、横糸ではなく、後に横糸を張る時の足場であるという意味で、足場糸あしばいとと呼ばれる。

 足場糸を引き終われば、今度は外側から内側へと横糸を引き始める。横糸を張る時、クモは縦糸に出糸突起をつけて糸をくっつけると、中心に向かって進み、足場糸にさわると外側へ針路を変更し、次の縦糸に糸をくっつけるという動作を繰り返す。

 足場糸が横糸を張る邪魔になると、その足場糸は切る。

 最終的にはすべての足場糸は切り捨てられ、細かく横糸が張られて完成する。

 普通の円網では、完成まで1時間と掛からぬ物も有る。


 蜘蛛の巣、くも網は、その形状や構造が多く存在し、説明に尽きない。

 当然、蜘蛛の種類が変われば作られる蜘蛛網も別の物と成り、別成る環境下、餌と成る罠に掛かる者達により蜘蛛の巣も変化を興す。

 一度張ったくも網を畳む種類の蜘蛛も居て、、、




「どうだ、トキヒコ?」

 シエックが指さす先を見上げれば、少し高い位置に大きな円の中に大小の円形が入り込んでいる蜘蛛の巣が有る。

「うわぁ~何か、スゲ~」

 張らている蜘蛛の巣は立体的であり、中心部は球体となり、蜘蛛が棲む。

「不思議〜、何で丸いんだ?それにこの色!」


 そしてこの蜘蛛の巣は虹色に輝いていた。

 トキヒコが見れば美しい虹色だが、彼らの仕掛けた罠が待つマリィピタッカ(小鳥)にとっては、周囲に消え込む効果を持っていた。

 マーリィピタッカの眼であっては、この蜘蛛の巣を発見するには遅れてしまう。

「コイツを表現するとなると、色エンピツか絵の具が要るぞ〜」

 そうだよ、次は色付けする道具が欲しい!


 この場の蜘蛛に狙われし『小鳥』。小鳥と言えどその大きさは一般的なスズメの半分にも満たない、小さな個体。

 この蜘蛛の巣に掛かるであろうマーリィピタッカ、この場に集まる種としては、マーリィテレヅポタニィ・スカーヅィダラミー(小さな羽ばたきの鳥)の説明を受けても、トキヒコは見た機会の無かった、観察とはなった事の無い者であった。


 エルフでは無いトキヒコは、彼らからの意識の伝達は受け取れ無い。

 絵で示されるか、実際にこの目で見なくては分からない。

「今日はふたつの新しい生き物を見てやるぞー!見れる、かも!」

 トキヒコは期待感に溢れていた。




 その帰り道であった。

 突然に始まった平地までの駆け下り競争。

 言い出しっぺはトキヒコに違いは無いが。


 本来誰かと好んで競う事を行わないエルフ達に、競争心を少し植え付けたのはトキヒコだ。

「あいつら、速過ぎる〜!」

 そう、それが例え少しであっても、植え付けたのはトキヒコである。であるが何時も負けている。


「あいつら躊躇しないのかよ、遠慮無しだよなっ!」

 これだけボウボウの藪の中だったら、勝機が有ると思ったのにぃ〜!

 エルフ達は草や木を大切にして、オレなんかでは気付かない内に何かを踏んじゃう事もしないのに〜!何でだー!


 シーズリの靴を履く事で、自分が速く走れる様になった気がしたのに!

 それでも全然追いつかない!


「くっそー!でも、もう疲れた〜あっーーー!」

 足元の見えもしない藪の中、隆起した木の根に躓き、トキヒコは見事に前向きに飛び込んだ、

『ザッザザー!』


「あがー!」

 こんなマンガみたいにヘッドスライディングですっ転んだ事なんて無いぞ!

 ううぅ〜、、、痛い。


「トキヒコ!」

 トキヒコからの伝わる波動が弱まれば、3エルフ達は戻って来る。

 波動が弱まる、、、この場面において、それは相手との距離が大きく開いた事となる。


 戻り集まった3エルフは、足元に倒れるトキヒコを見やった。

「トキヒコは、、、スパクー(眠る)と成ろうのか?」

「トキヒコは場を選ばず共、眠るが可能と聞き及ぶ。」

「尚もバラダゾ・マーロォ(極僅かな刻)にて眠りに着くとも。」

 あーもう、黙って聞いてりゃ勝手な事言いやがって。


「起きてるよっ!躓いて転んじゃったから、、、痛たたた、それに少し疲れたし、、、」

 お前ら疲れ知らずだけど、劣等種の人間様は直に疲れちゃうの。

 だからついでに少し、休んでるのっ!


「あーしかし、何をやっても何時も負けてるよ、ちぇっ」

 何時も走れば置いてけぼり、遠投すれば皆の三分の一も届かない。

「トキヒコ、悔しさか?」

「悔しい?確かにそうだけど、、、」

 手を抜かず、全力で遊ぶ。今のオレは小学校に上がる前に戻った感じ。

 そして付き合ってくれる仲間。彼らも変に手を抜かず、(程々)全力で応えてくれる。

「楽しいんだ」


「何故だ?競うは勝つを目指す故。負けてしまえば其は適わず。」

「そう、やるなら、、、競うなら勝ちを目指すのが当たり前だ」

 負ける前提で誰かと競うなんて、相手に失礼だ。


「だけどオレ達はさ、誰が勝とうが負けようが関係無いじゃん」何であっても負けるのは嫌だけど。


 よし、チャンス!

「お先に〜!」

 再開の号令も掛けずに、トキヒコは傾斜の駆け下りを再開させた。

 しかしトキヒコの3歩目には、再び最後尾となってしまった。

「たから、速えーよっ!」




 しかし、本当に泥まみれで草まみれ。この姿は子供の頃のままだなぁ。

 こんな姿で家に帰ったら母さんに怒られる、、、リーザ、怒るかなぁ。

 トキヒコは自分の身の回りを改めて見て思った。


「あれ?何かがまとわり付く様な、それでそれが外れるというか、ほつれ出してる所が有る様な、」何だぁ?


「あっ」消えた。

 何だったのだろう?



「リーザただいまぁ~」

「トキヒコさん!」

「あー、」

 リーザ、やっぱ私のこの姿を見るなり何だか強い口調!

「良くぞご無事で。」


 リーザは何も怒ったりはしていなかった。

 帰宅したトキヒコから届く波動も何時もと変わらぬモノ。

 だがその姿が汚れた、、、乾いた泥と草まみれ、破れているズボン、血が滲み固まった袖、複数のスリ傷、、、波動と視覚情報との差に、少し驚いてしまったのであった。


「トキヒコさん、先ずは湯殿へ参りましょう。」

 やっぱ全身スス汚れちゃてる感じだもんなぁ。

 リーザの『術』で、汚れはパッパッと落としてくれてもいいんだけどなぁ。

 まぁ、こんな姿だ。リーザに従います、お風呂へと向います。



「あががぁ〜、やっぱみるぅ〜」

 スリ傷が滲みるけど、我慢出来る程度だ。石鹸っ葉で洗いましょう。

「トキヒコさん、」

 あ、リーザお風呂に来ちゃった。


 リーザも私の体を石鹸っ葉て洗ってくれるけど、

「あ痛っ!」

 首の後辺りに来た滲みる痛さ、多分ヘッドスライディングした時に草か葉っぱで擦り切れたかな?


 何だかんだで、二人揃って狭い湯舟に浸かる、私達はラブラプだ。

「ん?ちょっと何かが見えた様な、、、」

 その時、一緒に湯舟に浸かるリーザから、何やらが向かって来た。


 それが届けば、体に巻き付く感じで消えて行った。

 それはさっき見た、ほつれそうな何かを固めて行くかの様に。

「リーザ、今、」

「はいトキヒコさん?」

「もしかして、私に掛けてくれている『守護の結界』だかを足してくれた?」

 『オチャーオロナ・バリエーラ』(守護の結界)。

 リーザがトキヒコに対し『守護の結界』を上書きし足す事は日常的であり、目覚めし刻、自身が出掛ける際、トキヒコを送り出す刻。それは気付いた時に。


「はい、そう成ります。ポージング無き声掛け無きはお許し頂きたく。」

 リーザは無言のまま『守護の結界』の『術』をトキヒコに送り出す。

 それは、トキヒコに変に構えさせない為に、内成る魔力が効きにくいトキヒコに影響を与えぬ為に。

「ああリーザ、何時もありがとう」もしかして、、、。


「さっき見えたアレって、もしかして、、、」

 風呂から上がるとさくらを呼んだ。

「あーさくら、ちょっと」

 程なくさくらは、音も無くその姿を現す。


 あっ、ほら今、何となく。

「お父さん、私の事をちょっと気安く呼び出し過ぎじゃない?」


「あーごめん。だけどさくらに聞くのが一番だと思って」

(「私に?何を」)


「さくら、ちょっとアレやって」

「アレって?」

「ほら、ズキッと来る攻撃」

 誰に習ったか知らないけど、つねられる様なデコピンやシッペみたいな攻撃!


「でも手加減しろよ、ほんのちょっとでいいから」

 不意にされると凄く痛いんだけど。


「あがっ!痛ったぁ〜」ちょっとでいい、手加減しろって言ったじゃん!でも、


「さくら、もっと弱くしてくれよ。でもさ、もう1回やってくれない?」

「何ソレ、変なの。」

「いいから、いいから」

「変なの〜」

 トキヒコはさくらを凝視するかの様に注視しつつ、身構えた。


 さくらはトキヒコに魔力を伝える。

 さくらが送り出す魔力は、身体(意識)から離れれば宙へと、それは対象者となるトキヒコへ向かう。

「あっ、えっ!」

(「お父さんが、、、けた。外へと向かう魔力を避けるなんて、、、まさか?!」)

 さくらからトキヒコに向けられた“外へと向かう魔力”は、避けたトキヒコの近くを通り抜けると、宙にて分散され、、、消えた。

「もしかしたらさ、オレ、魔力の流れ?が見える様になったのかも知れない」


(「見える?!魔力を物理的に可視下に置くだなんて、有り得ない!」)

(「ザーララさんの青き稲妻や女王様の熱持つ炎は、魔力を物質として現しているに過ぎない。」)

(「今お父さんに向けし魔力は、対峙となった者に送り出した結果だ。それは意識や声、音と変わらず。そこには眼に映る物質への変換は生じない筈なのに。」)


「さくらが前に言っていたじゃん。魔力は相手と相手の間に在る空間、宙だっけ、それを渡るって」

(「尚も魔力に推進が有るとしても、先へと届く時間的な概念は無いに等しく、、、」)


「だから相手に渡る過程があって、まぁその間隔と言うか距離が分かんないけど、その道中があるのかなぁとも思ったけど、有ったんだ。まぁ、常に見える分けでは無いけど」



 魔力はひとつの波動で有り、それは波長。

 しかし、この波長は色相を持たず、表すならば透明。

(「魔力の流れを透明と表したとしても、、、でも、透明と言えど蜃気楼や陽炎の様な揺らぎも無く、言ってしまえば無に等しく、、、無い物が見えるだなんて、お父さんの目はどうなってるの?」)


(「説明が着かない、理解に至らないわ、何故お父さんに見えるの?」)

 さくらの持つ紅赤の瞳であれば、魔力が存在する事を感じ、認識する事は見るに変わらず理解に至る。しかし、魔力の流れは実際にその眼を持ってしても『見る』事は適わない。


「お父さん、近頃変わった事があったの?直前にて起こりし事は何?」

 父に、何が起こった?


 ん。直前?

「あーちょっと恥ずかしいんだけど、転んだ。それも絵に描いた様な見事なヘッドスライディングを決めた」

「何よソレ。」

「でも、最近の出来事って言ったらそれぐらいかなぁ」


(「父に何かが起こったのだろうか、それとも何かの干渉が起きたのだろうか。」)

 しかし、父トキヒコには魔力の残滓なども見当たらない。

 さくらの思考はめぐる。

 しかしその思考は、不明な霧の中を漂うと変わらず、めぐる先に答えは見付けられない。



 トキヒコのその持つ眼、瞳に変化が起こっていた。

 トキヒコは見たかった。

 それはトキヒコ観察記を記すにあたり、多くの者を。

 小さく羽ばたく虫達、地を這い進むトカゲの類い、水中にて暮らす者達、空を舞う鳥、獣達。

 動物類に留まらず、花に草、大小の樹木、貼り付く苔、菌類であっても見えるのであれば、、、いや、見てみたい。

 多くの者達を観察し、そして多くを記したい。


 その欲求はトキヒコの観察眼を養う。

 トキヒコの視力はお世辞にも良い方だとは言えなかった。

 それに最近では、加齢から来る視力の衰えを感じてもいた。

 故に、トキヒコの“見たい”欲求は加速する。


 そんなトキヒコの欲求に応えるモノが居た。それはルイラー。

 ルイラーは魔力を充填するには欠かせぬモノ。命持つ者が創り出す流れ。

 魔力を内には秘めぬトキヒコにとりルイラーの存在は、有っても無くとも変わらぬモノ。


 だがトキヒコは多くのルイラーをその身に纏う。

 この世界に認識されたトキヒコは、ルイラーから周囲の状況や興る魔力の存在について知らされる場面を得る機会が生まれていた。

 トキヒコの瞳の変化といえども、ルイラーを因とし、ルイラーはトキヒコに対し、何かを行いたかったやも知れず。


(「本当に、お父さんは何者なの?」)

(「エイッ!」)

「痛ったあー!さくら、何すんだよ!」

 さくらからの突然の攻撃!


「あれ、見えなかったの?」

「だから常には見えないって言ったろ、油断も隙もないなぁ。おぉ〜痛タタタた」

 だから不意の攻撃は痛みが増すんだよっ。

 その上今は、スリ傷だらけだし。

「ふぅ~ん」


 ただトキヒコ、魔力の流れを目視する事が可能となった先、何を見る事になる?




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