第五十四話/決戦! 文化祭②
幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。
しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……
彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――
今、試練の扉が開かれる。
【登場人物】
中間爽哉 イケメン高校生→ブサメン高校生
藤川千絵 爽哉の幼馴染
木崎優子 第三十六代生徒会長。図書委員
小澤詩織 攻守両立のコミュニケーションお化け
本八幡香奈 大手健康器具メーカーの社長令嬢
宮永遥 陸上部。インターハイ優勝候補
皆川結衣 第三十七代生徒会長
本条鈴音 第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在
中間涼香 爽哉の妹
内藤亮介 爽哉の親友
大里拓馬 ブサメン高校生→イケメン高校生
各企業を回った俺たちは、講堂へ帰ってきた。
とはいうものの、すべての下準備が終わっている以上、後は実行委員に任せてある。すでに文化祭の趨勢は俺たちの手を離れつつあった。アクシデントが発生した場合には、迅速にその対応に当たる。それが文化祭開催中の生徒会の業務であった。
生徒会長である優子のみ講堂の詰め所へ残し、他のメンバーは校内の見回りへ散った。見回りと言っても、ただブラブラと展示や出店を巡るだけである。他の参加者と何ら変わる所はない。すでに時計の針は十時を大きく回っていた。
出だしは好調だ。予想を上回る人出に、俺は満足していた。校内はいつも以上の歓声で満たされ、老若男女の区別なく色とりどりの装いで、人々が行き交っている。そんな人ごみの中を掻き分けるように、一組のカップルが正面から歩いてくる。俺は息を呑んだ。
千絵と大里だった。
二人は楽しそうに、出店を巡っていた。風の噂に二人が付き合っているとは聞いている。しかし、信じられなかった。信じたくなかった。生徒会の業務に没頭することで、忘れようとしていた。そんな噂の二人が目の前にいる。現実を目の当たりにした俺は、行き交う人々の邪魔になっていただろう。周りの迷惑も顧みず固まっていた。
不意に千絵と目が合った。千絵は大里の手を引いて、俺の鼻先までやってきた。
「こういうことだから」
まっすぐに見つめる千絵の声からは、何の感情も読み取れなかった。俺には二人を止める権利はない。
「……あぁ。おめでとう」
上っ面だけの祝福だっただろう。俺は胸にチクリとした痛みを感じていた。大里は何も言わなかった。人ごみに呑まれるように去っていく二人を、俺はただ茫然と見送った。
無性に優子に会いたくなった。だが、俺は今、どんな表情をしているだろう。こんな気持ちのまま優子に会うわけにはいかない、と強く自制した。情けなく、縋りつくわけにはいかない……。俺は遠回りするように、校舎へと足を向けた。
上の空で廊下を歩いていた俺は、弾けるようなざわめきに気がついた。自然と、音のなる方へ引き込まれていく。それが若い女性の声だと判明するのに、時間はかからなかった。その根源たる一つの教室には、若い親子連れが列を成していた。
「これはこれは、中間書記ではないですか」
背後から声を掛けてきたのは、かなみだった。
「これは、なんだ?」
俺は大人気アトラクションを待つような列を指さして、かなみに問いかけた。
「写真部に要請して、無料撮影会をしてるんだよ。あとは、写真の展示をね。近所の公園を回って、子供の写真を手当たり次第に撮ってきてもらった。文化祭で展示しますよ、ってチラシを親に配布しながらね。今回は天気にも恵まれて……。好評のようで、良かった」
今回は……? 何気なく言うかなみに、俺は末恐ろしさを感じていた。ただのアイディアマンの域を超えた、策略家がそこにいた。
「会長は、このことを?」
「伝えてはいないが、特別な許可が必要なものでもないでしょう」
そう言って鼻で笑うと、興味を失ったように立ち去った。
その後ろ姿を見ながら、俺はここ最近のかなみの働きを思い返していた。文化祭の学外解放にしても、この撮影会にしても、部活連合の出店にだって、細やかに有益なアドバイスを与えている節がある。協賛企業の誘致や校則緩和の前倒しについても、その貢献は多大だった。
かなみが本気で生徒会長選挙に挑んでいたら未来は変わっていたかもしれない、と俺は生唾を飲み込んだ。
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