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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
この世界は何なのか
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初めての探索はこんな感じでした

「おっ、見ない顔だな。新人探索者か?」


無事に門を抜けて3階に踏み出すと、すぐ目の前に立っていた一団が振り返った。

男2人に女1人。彼らも探索者なのだろう。どうも、とサイハが軽く会釈する。


「こんにちはぁ~! リリムでっす! よろしくなのでっす!!」


甘ったるい声でかわいらしく挨拶した少女に倣って2人の男たちもまた自己紹介を。

気だるげな方をノルバートといい、最初に声をかけてきた壮年の男性はハッカという。


「伯、珂で伯珂(はっか)。」


馴染みがない響きならミスター・ミントとでも呼んでくれ。

冗談めかして笑う伯珂につられて笑う。はは、と笑った伯珂は笑みを引っ込めて神妙な顔になる。


「ここのルールは知ってるか? ……って、『知ってる』よな」


頭の中にあるだろうが再確認。赤い箱の話だ。塔の中にある赤い箱は探索者共有のものだ。

探索中に怪我をしたが薬がなくて治療できない、毒を受けたが解毒剤がない。野営したいが火打石がない。そういった時に頼るための箱だ。

いつか、誰かのためにそれぞれが持ち寄ったものが入っている。そのため、すべて持っていくことは許されない。緊急用の非常品置き場なのだ。

使うのは自由だが、使ったらそのぶん返すべきだ。同じ箱に同じ物品でなくてもいい。いつか誰かのために入れてくれたものを使ったのなら、いつか誰かのために何かを入れるのだ。そういった善意で成り立っている赤い箱が各所にある。


「大事なことだ。しっかりな」

「はい、わかりました。ミスター・ミントさん」


ぺこりとフォルが頭を下げる。礼儀正しいフォルの発言に伯珂は少し面食らった顔をした。

ミスター・ミントのくだりは初探索に挑む新人探索者の緊張をほぐすための冗談だったのだがまさか真に受けるとは。


「いいだろ、もう今日からそれで呼んでやるよ」

「リリムもいいとおもう~! ミントおじさん!」

「やめろお前ら!! 先輩の威厳ゼロだろうが!!」


仲間の揶揄に噛みついて、ごほん、と咳払いをひとつ。先輩の威厳を保たなければ。

伯珂が襟を正すがもう遅い。昴やフォルにとってもう伯珂は『気安いおじさん』だ。


「えっと、それで、3人はここで何を?」

「あぁ、ちょいと探し物をな」


探し疲れて少しばかりここで休憩していたのだ。休憩はもう十分だし進むとするか、と伸びをする。


「ついでだ。一緒に行くか?」

「いいのか?」

「なぁに、新人探索者には優しくするのが探索者の暗黙の了解さ」


茶目っ気たっぷりにウインクを一つ。

町の人間は探索者のランクに応じて接待する。ランク0なら先ほどのような対応だ。知らない世界で右往左往する新人探索者にその扱いは可哀想だと、ランク0の探索者には優しくしろというのが探索者同士の不文律となっている。

成程、そういうルールがあるのなら編成所でスティーブが馴れ馴れしく声をかけてきたのも頷ける。警戒心たっぷりに伯珂を見ていたリーゼロッテがいくらか警戒を解く。信用したわけではないが、少なくとも今すぐ危害を加えてくる気配はしないので一応は、というところだ。


「ま、俺たちにとっちゃ下層なんて庭みたいなもんだからな」


ランク2になる条件は満たしているのだが、そこから先に進む気がない。ここで探し物があるのだ。それを見つけるまでは進めない。だからここにとどまり続けて探しているのだ。

伯珂の言う下層とは、1階から10階までの階層のことをいう。居住エリアである1階と2階を始原の層、3階から10階までを受難の層と呼び、2つをまとめて下層と呼ぶ。

11階にまた1階まるまる広がる町があり12階からまた苦難の層と呼ばれる迷宮となる。30階まで続くそこを中層とする。

31階に同様に町があり、32階以上は多難の層。両者をを上層と呼ぶ。そこから上があるかはわからない。誰も到達したことがない。

本来伯珂は11階に到達できる。だが10階にある階段で踵を返したのだ。見つけたいものを見つけなければランク2になる資格はないとして。自分の心のけじめのために先に進まない。


「何を探しているんだ?」

「ん? 仇。ほら、俺たち『3人』だろ」


こともなげに伯珂はそう言った。

パーティの基本は4人だ。盾役(ディフェンダー)攻撃役(アタッカー)補助役(バッファー)妨害役(デバッファー)の4人の構成を基本とする。

絶対というわけでもないので補助役を抜いてそのぶん攻撃役を増やしたりするが、一番無難な構成はそれだ。そして人数は4人以下が絶対。1人でも2人でも3人でも4人でもいいが、5人以上は認められない。『そういうルール』だ。

4人から1人欠けたということは、つまりそういうことだ。探索の途中で誰かが命を落とした。


「油断した隙にな。……即死だった」


苦しむ間もなく一瞬で逝けたのはむしろ幸せだったかもしれない。そう思ってしまうほどだった。だからその仇を討つまで中層には踏み込まない。

そう、ここは魔物が徘徊する迷宮。遊びではないのだ。油断すれば死ぬ。そういうところだ。

だからこそ、新人探索者には親切にすべし。善意を受けた新人探索者がいずれベテランになったら、その時はまた新人探索者に善意で接する。

探索者共有の赤い箱といい、そうして善意のバトンをつないでいくことが結果として全体のためになる。


「と、いうわけで俺たちの善意のダシになってくれや」


そしていつか新人にも同じようにしてほしい。そういうことだ。願いを受けて昴たちは頷いた。こちらとしても先輩がついてくれるのは心強い。なにせ何も知らないのだ。頭の中の知識を実感を伴って理解するいい機会だ。


「よし、じゃぁ早速……戦闘だ」


正面からふわりふわりと浮遊する何かが迫ってきている。

青く透き通る結晶のようなものが、風に吹かれて漂うように浮遊している。

ヒトほどの大きさのそれはこちらを感知したのか真っ直ぐ向かってくる。


「ウォーターエレメンタルだな。銅ランクの魔物だ」

「任せるぞ、ミスター・ミント」

「その呼び名はやめろっつぅに!!」


伯珂ひとりで十分。自分たちは下がって周囲の警戒をしよう。リリムとノルバートが1歩下がる。その代わりに伯珂が前に出た。


「『知ってる』だろうが言っておくぞ。これは武具。魔法を起動するアクセサリーはこうやって使うんだ」


伯珂が手をひらめかせる。来たれ断罪の巨爪。格好つけて呟くと、大きなくちばしのような武器が伯珂の手元に現れた。

腕とほぼ同じ長さの金属塊。腕全体を覆う盾のような手甲のような護拳部分と相手を殴打するための尖った爪の部分が一体になっているようだ。爪の内部は空洞になっていて、そこに腕を入れられるようになっている。

それを振りかぶり、殴りつけるように魔物へと叩きつける。がつん、と結晶と金属がぶつかる。そして押し負けたのは結晶の方だった。がしゃんと派手な音を立てて砕け散る。砕けた破片が光を受けてきらめいた。

一撃で倒した伯珂はもう一度右手を振った。すると爪が消えて元通り。銀の腕輪を付けた腕がそこにある。こうして武具の発動させるのだ、と教師のように伯珂は言った。


「……私の認識と相違ないわね」


サイハの世界でも同じものがあった。サイハの知る世界とは違うので何かしら違いがあるかと思ったがそうではないようだ。発動のさせ方も何も同じだ。ああやって武具に魔力を流すと武具が起動する。

たとえるなら水車のようだ。魔力という水を流して武具という水車を回す。水車を回して何をするかは水車に接続されている機工による。石臼に繋がっていれば粉が挽けるように、武具に刻まれた魔法が発動する。


「それにしてもすごいですね、あんな硬そうなものを……」

「ま、慣れよ、慣れ」


フォルの賛辞にひらひらと手を振る。経験を積めばこれくらいは軽い。

そういうわけで経験を積んでみよう。何事も経験だ。周到に調査をしてランク0のままでいるより何もわからないまま踏み込んだランク1が評価されるように、この世界は経験を重視する。

つまりは何事も経験すべし。その好奇心と探求心が道を拓く。


「つーわけで、やってみな」

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