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途中までは短編の家族との再会シーンで、途中から新しい話になります。

 あっという間に時が過ぎ、アストレン王国に着いたわたしは、本当の家族と対面していた。お母様だけは深い青の髪で、お父様やお兄様は皆わたしと同じ水色の髪をしていた。


 本当に、わたしの家族……目立たないでいられる。ここならきっと、この目立つ髪や瞳で嫌がらせされることもない。記憶が無いから初めて会った人達だけど、わたしは安心して涙が溢れた。


「ティ、ティアっ、ああ、無事で良かった……」


 わたしを見た途端、お父様らしき人はその場に力なくへたりこんだ。お母様と思しき女性も口元に手を当てて涙を流している。その二人と並んでいた若い男の人ははわたしを見るなり飛んできて、痛いくらいに抱きしめてきた。


「ティア……心配したんだぞ、もう危険な事はしないと約束したじゃないか」

「ティアは覚えてないよ、そう言われただろ?」

「でも……」


 心配の色を浮かべる男の人の頬を、一筋の涙が伝った。その人の瞳の色と同じ、蒼い涙。前にも一度、蒼い涙を見たような………?


 目を閉じると、まぶたの裏に水色の髪を持った男の子が二人見下ろしてくる光景が映った。泣きじゃくる小さい方の男の子の頬には、一つだけ蒼いものが混じっていて、わたしは……


 頬に手を伸ばして蒼い涙をそっと拭い、微笑んだ。


「『泣かないで、アレクお兄様』」


 そう、唯一思い出した記憶通りに告げれば、その男性──アレクお兄様は目を見開いた。


「ティア……覚えて………?」

「ううん、思い出しただけ。この綺麗な蒼い涙と、アレクお兄様、それにウィルお兄様が心配そうに見ていた事を」

「アレク!」


 正直に述べると、お父様らしき人がいきなり大声を上げた。ビクついて思わずアレクお兄様にしがみつく。今までへたりこんでいたのが嘘のようにしっかりした足取りでこちらへ来ると、彼はじっとアレクお兄様を見た。


「お前、それをそんな事に使うなんて……」


 少し低くなった声に緊張する。


「………良くやった!さあ、ティア、こっちにおいで」


 しかし次の瞬間には満面の笑みを浮かべ、両手を広げてわたしの方を見た。その優しい声と表情に、わたしは……


 反射的に一歩退いた。二人のお兄様の事は思い出したが、それ以外はさっぱりだ。だからお父様だろうとは思っているが、感覚的にはまだ他人の方が大きい。アレクお兄様は逃げる前に捕まったし、レオナルド様の時は逃げたけれど捕まった。


「どうした、恥ずかしがらないで良いんだぞ」

「父上、ティアが嫌がってます」

「何でだ!何でアレクは良くて俺は駄目なんだ!」


 衝撃を受けたような表情になるお父様。しかし諦めた訳では無いようで、今度はわたしを迎えに来た。一歩ずつ近づいてくるお父様から一歩ずつ退いて逃げる。その時扉が開いて誰かが入ってきた。


「ただいま帰りました……って父上、何してるんですか」

「ウィルお兄様!」


 入ってきたのは水色の髪に紺色の瞳をした男の人。さっきの記憶の面影が残るその人──ウィルお兄様に、わたしは駆け寄って訴えた。


「お父様が、追いかけてきて怖い……」

「はあ、父上は相変わらずだな。父上、そんな事をしていると、帰ってきたティアに嫌われ……………ん?」


 ウィルお兄様はそこでまじまじとわたしを見た。頭のてっぺんから足の先まで見下ろし、突然腕をまくり上げられる。驚く私をよそにそこにある模様をじっくり眺めた後、真っ直ぐわたしの瞳を見つめてきた。


「ウィルお兄様?」

「………本物の………ティア……?」


 呆然としながら近づいてきたウィルお兄様に頭を撫で回される。ああ、そうだった、あの時だってウィルお兄様は優しくわたしを撫でていた。


 ……どうしよう、涙が溢れてきて止まらない。この人達がわたしの家族だということが、先程の記憶で証明されたからか。それとも、アリアナとして生きてきた上で滅多になかった人々の温もりを感じたからか。


「ああ……一週間ぶりに家に帰ったらティアがいるなんて……夢みたいだ……!」

「ウィル……お兄様……」


 次の瞬間にはまたしても抱きしめられていた。わたしは安心したのか力も入らず、ただその温もりに包まれていた。


 ティアリアは、本当に家族や婚約者に愛されていたのね。──そんなことを考えながら。






 ☆☆☆






 気がついた時には、目の前に見慣れない真っ白な天井があった。何だろう、心の温まる夢を見ていたような……


 ぼんやりと天井を眺めていて、窓の外、高いところから光が差していることに気がついて慌てて飛び起きた。


 大変、こんな時間まで寝ていたなんて、()()()()()()()()


「あ、お嬢様、おはようございます」

「今ご朝食をお持ちいたしますね」


 ちょうどわたしがベッドを降りた時、部屋に侍女が二人やって来た。わたしに笑顔で挨拶すると、一人が近づいてきてもう一人は部屋を出て行こうとした。


 ああ、怒ってるんだわ。怒りすぎて、むしろ笑顔を浮かべているんだ。出て行こうとしているのは、わたしのことを告げに行くに違いない。


 わたしは咄嗟に叫んだ。


「まっ、待って!!()()()()()()()()()()!」


 あの人に告げられるくらいだったら、使用人達の嫌がらせの方がよっぽどまし。わたしの部屋になんか基本誰も近づかないから、大声を出しても誰も来ない。











 はず、だった。


 次の瞬間、震えながら()()()()を待つわたしは驚いて完全に動けなくなってしまった。


 わたしの部屋の前に、男の人が立っていた。侍女が入ってきた時は、さっきまでは、いなかったのに。


 まさか、わたしの叫びを聞いた…?どうして、今日に限って人が通るなんて……


 一歩一歩、まるでスローモーションのように近づいてくる彼に、わたしは身動きもできず、さらに足の力が抜けてその場にへたりこんでしまった。


「ああ………ああ……、来ないで……っ」


 言葉での拒絶などなんの意味もなさない。だが、そう分かっていても声に出てしまう。せめて今男が浮かべているだろう下衆た笑みを見ないように、わたしは目をぎゅっと瞑って下を向いた。


 しかし、そんな恐怖に震えるわたしの耳に、さらなる恐怖を感じさせる話が聞こえてきた。


「アンナ、ハーブティーを持ってきてくれ。それと、父上と母上にこの事を伝えてくれ」


 ハ、ハーブティー………!まさか、()()()()()()()()()()?嫌、熱いのも痛いのもいや、もう二度と火傷なんかしたくないわっ!


 以前された嫌がらせを思い出し、わたしは無意識のうちに腕をおさえていた。


 微かな足音が近づいてくる。そうして、それが止まったと思うと、肩に触れられて身体がビクンと跳ねた。


 一拍ほどおいて、ため息と声が耳に届いてきた。


「……ごめんな、()()()………こんなに怯えるまで見つけられなくて、本当にごめんな……」

「……………ぁ………」


 てぃあ………ティア………ティア?


『君の事だよ、ティアリア·レーア·ラファンスト公爵令嬢。我が国の宰相の娘でオレの……』


 ……婚約者。そう、わたしは、アストレン王国の王子様の婚約者で。


 名前も、アリアナではなくてティアリアで。


 そして、今わたしに触れて、頭を撫でているのは……


 恐る恐る顔を上げると、心配そうに揺れる紺色の瞳と目が合った。


「……ウィ……ル………お…にいさ……ま……?」


 ……そうだわ、昨日()()した、わたしの家族。わたしの、ティアリアの、お兄様。


「…ウィルお兄様………!」

「……ティア、ああ良かった。怖かったな、辛かったな………!ほら、お兄様に怖かったことを話してごらん。ね?お兄様が、今度こそティアのことを守ってやるから」


 恐怖から一転、相手が信頼出来るウィルお兄様だと分かって、わたしは目の前にある彼の胸に飛び込んだ。ウィルお兄様はそんなわたしの背中を優しく擦りながら、わたしを抱きしめ返して落ち着かせてくれた。


「もう怖くない、もう大丈夫だから。ここにティアに危害を加えるような奴はいないから」


 ウィルお兄様が何度もそう言ってくれる。その言葉と、ウィルお兄様の温もりに、わたしは強ばっていた身体の力が抜けていくのを感じた。











 侍女が持ってきてくれたハーブティーを飲み、ある程度落ち着きを取り戻して、朝食を食べ終わったわたしは今までイルク王国で──いや、ミラージュ伯爵家であったことをウィルお兄様に大まかに話した。


「……それで、さっきは条件反射で……」

「…………さ……ん……」

「……ウィルお兄様?」

「…………許さん……」


 途中から何も言わず黙り込んでしまったウィルお兄様は、しかし今度は早口で何やら呟き出した。


「…うちの可愛いティアになんてことを、しかも使用人からだと!?ああもう許さんいや許せん……!父上に言って向こうに…いやレオナルドの方が良いな、ついでに陛下とアレクにも伝えて徹底的に潰してやる…ああそれだけじゃ腹の虫がおさまらない……!」


 最初の方はもう何を言っているのか全然聞きとれなかったが、だんだん音量が上がってきた。


「……そもそもその傷が一生残るようなものだったらどうしてくれる!!」


 もはや小さな悲鳴のように叫ばれたその言葉を聞いて、かの火傷の跡が気になった。()()()()()()()()痣や傷だったのに、あの火傷だけは治らず未だに残っていて…………


 …………えっ?


「……火傷が……ない………?」


 婚約者の証である模様とは逆の腕にあった、目立つ火傷の跡が、何をしても消えなかったそれが、きれいさっぱり無くなっていた。


「……どうして?」

「ティア、ちょっと腕を見せて……え?」


 混乱したわたしは、それまでずっと怒ったように色々言っていたウィルお兄様が腕に触るのを呆然と見つめた。


「虐められていたにしては綺麗すぎる、肌も髪も………いや待てよ、確か()()()()…………」


 今度は何かを考え込むウィルお兄様。混乱するわたしをよそに、彼は何かに気がついたようにはっと顔を上げてわたしの瞳を見つめた。


「そうか、ティアの()()は………ああ、そういう事か」

ウィルお兄様が気がついたこととは………?




この物語を読んでくださってありがとうございます!

分かりづらいところ等たくさんあると思います、感想などで質問や意見などお寄せください。素人なので多少は目をつぶって頂けるとありがたいです……

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