90 村人の妹、敵を知る。
「ゴクッゴクッ…………プファ」
「クリティカル、一息ついたか?
三日間、何もクチにしていなかったんだ。
無茶はするな」
「大丈夫よ、兄さんが復活するかもしれないのだから!」
「 何故生きていられるのか分からない 」 とまで言われ、医者から匙を投げられたキュアの怪我。 絶望したクリティカルは……せめて夢の中でぐらいは楽しく───と、瀕死のキュアに【仮想現実装置】を被せたのだ。
すると……キュアは飲食といった、生存に必要最低限な動きを取るようになった。
更に、突然喋りだした【仮想現実装置】の言により、キュアの怪我が治る可能性が出てきたのである。
クリティカルは、ヘイストが持ってきた病人食のシチューを平らげるとテキパキ動きだす。
「自分には今だに事態が呑み込めていないんだが……キュアが魔法を、しかも肉体再生魔法を使えるとはな」
「アナタは……その、良いの?
兄さんが魔法を使えない事と、自分の……」
「当然だ。 キュアと仲間になったのは、自分の眼病の慰めとして魔ナシを見下す為じゃ無い。 仲間が帰ってくるかもしれない……結構じゃないか。
……指輪をはめると魔法を使えるという意味が分からんが」
キュアが魔道具……【仮想現実装置】を使用し、魔法を使う夢を見たら───魔法を使えるようになったという。
理解に苦しむヘイストだが、クリティカルの剣幕と───
「御願いよ、【仮想現実装置】。
なんとか兄さんに【 ヒーリング 】と喋らせて」
≪許可できません。 ユーザー名キュアさんの喉は酷く負傷しています≫
「治療に必要なの!」
≪…………。
一語のみ許可します≫
───等、やりとりの後……キュアの全身から魔力が漏れ出始めた事から、理解は一先ず横に置いて行動開始した。
まず、キュアは死ぬモノとして……クリティカルによる食事の世話と包帯の交換以外の治療は止められていたが───医者を呼び、生者として、しっかりとした治療を受けさせる。
医者は、三日前と違う様子のキュアに驚いていた。
通常の肉体再生魔法とは、人体が持つ生命力を増加させるだけの魔法であり……自己再生できない肉体部分は、再生できないからだ。
キュアは、そういった部分を大きく怪我していたが……キュアの使う魔法は、そういった部分からこそ再生していった。
【仮想現実装置】が、魔法に何らかの関与を与えているかもしれないと考えるクリティカル。
「うむむ……まだ、非常に危険だが───100%死ぬ可能性から、95%死ぬ可能性に変わった」
「先生……ソレじゃあ!?」
「……この者は、魔ナシで有りながら【アジルー村】で火の鳥を召還した者だろう。
全く……たまげさせてくれる」
元々、普段は領主を診る貴族付き医師団の一人である彼が匙を投げたのである。 ハッキリ言って、人智を超えた事態。
血止めと消毒、増血剤の投与以外の治療は逆効果に成りかねないと判断した医者は診察を終え、帰ってゆく。
医者が帰り、クリティカルは隠していた【仮想現実装置】をキュアに被せる。 【仮想現実装置】を外す時、夢に支障は無いのかと聞くと……レム睡眠がどうとかノンレム睡眠がとかなんとか言われた。
サッパリ分からないので、魔道具様に任せるクリティカルとヘイスト。
「はあ。 取敢ず、今直ぐにしなければ成らない事は終わったか」
「…………ヘイスト、有難う。
───そして、御免なさい」
「ん?」
「さっき…… 「 知った風なクチを 」 とか 「 大した責任を感じてない 」 とか……色々言ってしまって」
「仕様が無いさ。
キュアの生存が一番だ」
「……ええ」
予断は許さない状態のキュアを介護しつつ、多少は落ち着く二人。
「そういえば……兄さんの状態ばかりで、何故こんな怪我をしたか───まではハッキリ聞いて無かったわね。
貧民街で化物に襲われたそうだけど?」
「ああ、炎を纏った怪人だ。
キュアは奴に大ダメージを与えたんだが……大詰めを自分のミスで台無しにしてしまい、キュアに庇われたんだ」
「怪人は?」
「自分もハッキリと覚えている訳じゃないが……キュアが 『 何か 』 の液体を奴に掛けて───怪人が悲鳴をあげつつ、「 やっとオレを思いだしたか 」 と叫んだんだ」
「……思いだした?」
「今思えば、あの液体はキュアの魔法だったんだろう……【 アシッド 】と叫んでいたが」
「【 アシッド 】……!」