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89 村人の妹、画策する。

 

「───兄さん、美味しい?」


『…………』


「あらあら、兄さんダメじゃない。

溢しているわよ」


「───クリティカル……」




 とある世界のとある屋敷。

 その一室に、三人の男女が居た。


 一人目は、ベットに横たわる者を甲斐甲斐しく看病する者。 慈しみに満ちた目だが……生気は限りなく薄い。


 二人目……そのベットに横たわり、機械的に(・・・・)クチを動かして食事している者は───全身包帯を巻いた状態であり、無事な所など何処にも無い。


 三人目……二人を、クリティカルとキュアを見つめるヘイストは……深く頭を下げる。 ヘイストもまた、数カ所包帯を巻いていた。




「クリティカル……もう三日も飲み食いしていないだろう!?

……頼むから、君も食事をとってくれ」


「…………」


「自分を殺して満足するなら幾らでも殺してくれて良い。 全ての責任は自分に有るのだから!」


「…………。

そんなのじゃ無いわ」




 クリティカルは……キュアとヘイストが何者かに襲われ、領主館に運ばれてきてから三日───飲まず、食わず、休まず、ひたすらにキュアを介護していた。

 美貌は、目の下のクマが台無しにし。

 美しい髪の毛は、ボサボサとなり。

 プックリと可愛らしかった唇は、水分を失い干からび掛けていたのだ。




「なら───」


「……煩いわねっ!? 兄さんは助けたくて、アナタを助けたの!

アナタの責任んじゃ無いんだから……軽々しく、責任なんてクチにしないでちょうだい」


「…………。

それでも……それでもだ。

君が苦しめば、キュアも悲しむ」


「知った風なクチを……!

責任?

なら、ヘイスト……あなた、兄さんの為に領主様を裏切れる?」


「裏切……そんなの関係ない話だろう!?」


「ほら、大した責任を感じていない。

───なら、クチ出ししないで」


「…………っ」




 ヘイストは、クリティカルの豹変ブリに困惑している。 クリティカルは領主の警護秘書副隊長として、厳しいトコロは有ったが……キュアが怪我をしてからは狂気すら感じた。


 特に、キュアに変な兜(・・・)を被せてからは。




「……クリティカル。 幼い頃に両親を失った君を、魔ナシとしてバカ共に苦労させられながらもキュアが必死に育てたと聞く」


「…………」


「自分にも、同じように必死になって育てくれた盲目の母が居る。

そんな母に、領主様は何かと優遇してくれたんだ」


「…………」


「でも───母さんはキュアと、とても楽しそうに話していた。

キュアが怪我したと聞いて……あんなに離れたがらなかった貧民街から離れてくれたんだ」


「…………」


「───だから、理由が有るなら……キュアを優先する」


「……兄さんの為なら領主様を裏切る、と?」


「いや、母さんの為なら(・・・・・・・)……だ」




 ヘイストの目。

 クリティカルの目を見つめてはいない。 ヘイストの視力は、クリティカルの位置は分かっても……目の位置までは分からない。

 そんなヘイストから取った言質は、致命たりうる言葉。




「………………………………。

……分かったわ。 取敢ず、あなたを信じましょう」


「そ、そうか!

なら水と食事を持ってくる!」


「その前に約束して。

この兜の事は……絶対に、誰にも、言わないで」


「分かった。

だが、何の兜なのか聞いて良いか?」


「魔道具よ」


「魔道……っ!?」




 魔道具は、王族や貴族───ソレも上位貴族のみ所持できるような代物。

 この館にも、下級魔道具しかない。




「ソレも、おそらく最上級の魔道具ね。

兄さんが地面に半ば埋っていたモノを掘り起こしたそうよ」


「まさか、治療効果が……!?」


「───いえ。

残念ながら、そんな能力は無いわ」


「なら何故……」


「……せめて、楽しい夢を見て欲しかったから」


「夢……?

何のこと───」




≪【仮想現実装置パーシテアー】は、ユーザー名・キュアさんの健康を心身共に維持します≫




「「 ───え? 」」


「し、しゃべる魔道具……!?」


「いえ……!

今まで、兜を被っている人間には語りかけてきたけど……」




 キュアの被る【仮想現実装置パーシテアー】が、クリティカルとヘイストの二人に語りかける。

 今までに無い現象であった。


 二人には知り得ぬことだが、【仮想現実装置パーシテアー】は元々ゲーム機の他……脳に傷害を負ってしまい喋れなくなった人間の脳波を読みとり、回りの人間とコミニュケーションを可能にする能力なども有するのだ。




≪キュアさんは、現在【ドラゴンハーツ】の(VR)体験をしています≫


「兄さんの様子が分かるの……!?

兄さんと会話できる!?」


≪許可できません。 現在、キュアさんは自らの状態を知りません。

心理的不安要素を増加させる行為です≫


「な、何がナニやらサッパリだが……希望を持つ重傷者と、絶望した軽傷者とでは前者の方が生還率が高い───と、知り合いの討伐隊から聞いた事がある」


「…………そう、分かったわ。

ならせめて、兄さんの現状を教えて」


≪【ドラゴンハーツ】内の、キュアさんの現状は【 ソネミタ城下町 】にて………………魔物の大発生のサブイベントについて交渉中≫




 やや、ローディングに時間がかかったようだ。 変な間では無い。 女性キャラクターに破廉恥な服を勧めて殴られた……とかを、誤魔化した訳では無い。




「また人助けね。

……兄さんらしいわ」


「ど、どんな魔道具なんだ……!??

夢を見せる魔道具……???」


≪現在キュアさんが会得しているスキルは、杖魔法【 他の杖でもファイヤーボール 】【 他の杖でもメイクハンマー 】【 他の杖でもアシッド 】【 他の杖でもショットガン 】。

指輪魔法【 他の指輪でもヒーリング 】。

武器スキ───≫


「ちょ───待っ……ヒーリング?」


≪はい。 現在キュアさんは、指輪魔法スキル【 他の指輪でもヒーリング 】を会得しています≫


「…………っ!」


「なんだ? キュアが何だって?

……って、どうしたクリティカル!?」




 【仮想現実装置パーシテアー】の言葉を聞いたクリティカルが震えだす。

 【ドラゴンハーツ】の冒険譚をキュアから聞いていたクリティカルは、【 癒しの指輪 】の話も聞いていた。




「ヘイスト!

指輪はして───無いわね……どんな物でも良いから、今すぐ指輪を手に入れてきて!」

 

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